051 相談


 農地開拓は、フィリップの案を採用したホーコンは試しに10人の軍人を荒れ地に送る。

 ただし、フィリップの身分は隠されているので、いくらホーコンの息子でもここまで偉そうに命令されては腹が立つらしく、やる気がないし教え方が悪いと反論までしていた。

 しかし、ケンカを売る相手が悪い。フィリップは全員ボコって絶対服従させていた。その情報はホーコンたちに上げられていたので、「やっぱり……」ってなってた。


 そのおかげで、フィリップの教育はスムーズ。マニュアル化された作業を覚え、命令はしても暴力は禁止のルールも叩き込まれた軍人たち。

 その軍人1人に対して30人の元奴隷が下につき、マニュアル通りやると農地が凄い速さで広がって行くので、軍人たちは舌を巻いていた。

 でも、普通に命令しても速度は同じだったから「怒鳴る必要なくね?」ってなって、ホーコンにも報告は上がっていたので、フィリップは冷たい目で見られていた。



 農地開拓が順調すぎるぐらい進んでいたある日、軍人から軍人への教育に変わってフィリップもやることがなくなったので、自室で寝ていたらウッラに起こされて渋々執務室に顔を出した。

 そこにはホーコンとエステルが難しい顔をして座っていたので、フィリップは定位置のソファーに飛び込んで寝転がる。


「で……相談ってなに?」


 フィリップが面倒くさそうに尋ねると、ホーコンが口を開く。


「各地からの情報が入りましてので、報告します」

「え~。そんなのいいよ~。だいたい僕の予想通りでしょ?」

「はい。驚くほどに……」

「予想から外れていることだけなら聞いてもいいかな~」

「それは……ありませんね。あ、小競り合いが起こっている場所は興味ありますよね?」

「どうせ筋肉馬鹿のカイが行ってるんでしょ。そんなの国に任せておけよ」

「ぐっ……そこまでわかっているとは……」


 報告しがいのないフィリップ。ホーコンもガッカリして肩を落としてしまった。なので、エステルにチェンジ。


「陛下からも書状が届いていましてよ。何が書いてあるかわかりまして?」

「なんでクイズ形式なの??」

「お父様を落ち込ませた仕返しですわ」

「ゴメンゴメン。元気出してくれよ~」


 面倒なやり取りを省きたいフィリップは謝っていたけど、ホーコンが泣いたフリまでするのでクイズに答える。オッサンの演技が気持ち悪かったとも言う。


「う~ん……なんだろ? あ、戦争があったから褒めてくれてるんじゃない??」

「チッ……当たりですわ」

「そんなに悔しそうな顔しないでよ~」


 エステルが舌打ちしてるので、続きの内容はわざと外すフィリップ。でも、「ホーコンを皇帝にしてやる」とか言っていたので、わざとはバレていた。


「褒美を渡すからと、お父様に登城するように要請が来たのですわ」

「あ~……それを行くかどうかの相談ね」

「わたくしたちとしては、行ってもいいかと考えていますけど、エリクの考えをお聞かせいただけたらと」


 フレドリク皇帝はフィリップの敵だから、エステルたちは許可を貰おうとしている。そのフィリップはというと、すぐに許可を出すと2人は思っていたけど、何やら考えている。


「う~ん……」

「行かないほうがよろしくて?」

「別にどっちでもいいんだけど、もっと面白いことができないかと……」

「「はぁ~~~……」」


 フィリップの悩みはただの悪戯では、2人も長いため息が出てしまった。


「そうだ! 家康作戦しようよ」

「イエヤス……とは?」

「人の名前。こいつは性格が悪いから、王様の呼び出しにぜんぜん応えずに、のらりくらりとかわして王様をイラつかせてたんだ」

「そんなことをしては、処罰されるのではないですの?」

「普通はね。でも、ナンバー2の地位と武力を持っていたらどう? 呼び出しに応えないことで、王様より強いんじゃないかと近隣諸侯に錯覚させたんだ」


 エステルはまだよくわかっていないが、ホーコンはフィリップの話に頷く。


「ということは……国盗りのための策略だったのか……」

「おっ! 辺境伯は、興味お有り??」

「いえ、考えたこともありませんでした。もっとも、今現在が国盗りの真っ最中ですし」

「アハハ。確かに。まぁ辺境伯もずっと忙しくしてたんだし、半月以上の移動もしんどいでしょ? 病気とか噓ついて、行かなくてもいいとも思う。無理して倒れられたら僕が困るもん」

「結局は、自分が楽したいだけですのね」


 フィリップが自分の体の心配をしてくれているとホーコンは感動しそうになったけど、エステルの一言で騙された被害者みたいな感じになった。


「まぁ一番はそれだね。でも、2人も兄貴には恨みがあるんだし、嫌がらせのひとつぐらいしとけば??」

「ですわね!」

「ああ。今回はやめる」

「まだ恨んでたんだ……」


 婚約破棄されたことを出すと、2人はあっさり。もっと嫌がらせができないかと話が尽きない。悪巧みなら、フィリップも参加。

 1度目は「戦と奴隷解放のせいで過労で寝込んでいる」と嫌味付きの手紙を書き、2度目は「まだ寝てる」。3度目で暇な長男のベルンハルドを送り、4度目で辺境伯が行く予定で話がまとまるのであった。



「そうそう。もうひとつ、皇帝陛下から質問があるのですけど、わかります?」

「まだクイズ続いてるの!?」


 エステルはどうしてもフィリップに外させたいのだろうけど、フィリップも面倒になって来た。


「僕のことでしょ? 皇族に一人旅をさせるわけには行かないから護衛をつけさせたけど、まかれたって言っておいてよ」

「なんでそこまでわかるんですのよ~」

「もうそれしかないもん。アハハハ」


 エステルの負け顔を見てフィリップはかわいいなと笑ったけど、エステルはすぐに怒りの表情に変わったので、執務室から逃げ出したのであった。

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