041 ボローズ王と対面


「アレかな?」


 城塞都市ルレオから小一時間フィリップが西に走ると、町の影が見えて来た。そのことをおんぶしているイェルド将軍に確認を取ったが……


「は、速い……」


 速度に驚いていてそれどころではない。ちなみにおんぶに変わっている理由は、イェルドが泣き付いたから。下を向いてたら酔うんだって。

 こっちはこっちで、ボローズ王国の最東部にある城塞都市の近くで下ろされた瞬間に「オロオロ~」ってなってたけど。


「吐いてるところ悪いんだけど、ここでいいんだよね?」

「あ、ああ……おえ~」

「ほら。水だよ。全部出したら言ってね」


 しばし休憩したら、2人で歩いて城塞都市の門へ。戦争中ということもあり人の出入りは少ないが、密偵が入り込まないように兵士が検閲をしているらしく、門の前には10人ぐらい並んでいる。

 その横を通り過ぎると、フィリップは腰に差していたレイピアを抜いてあのセリフを口走る。


「僕は帝国第二皇子フィリップ! ボローズ王に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」


 そのセリフに、やっぱり一同ポカン。門を守っている兵士も並んでいる人々も、「子供がなに言ってんだ?」って顔。そして数秒後の大爆笑もお約束だ。


「な、何をするつもりだ?」


 ただし、イェルドはフィリップの恐怖を知っているからあわあわ言っている。


「僕は帝国第二皇子フィリップ! ボローズ王に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」


 そんなこと言われても、フィリップは無視。イェルドの顔に気付いた兵士が喋りかけていたが、フィリップは大声を出して邪魔しまくる。


「いいかげんにしろこのガキ……ぐわっ!?」


 怒りに任せて近付いた兵士は、フィリップに殴られてバタンキュー。もう1人が掴みかかって吹っ飛んだところで、兵士たちもイェルドが人質にされて、帝国が攻めて来ているのではないかと言い出した。


「も、門を閉めろ! 上にも報告だ!!」


 ここで兵士は慌ただしく動き出したが、遅すぎる。フィリップはイェルドを肩に担いだら、兵士を吹っ飛ばしながら門を潜ってしまった。


「僕は帝国第二皇子フィリップ! ボローズ王に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」


 そして、町に入ったところで、このセリフ。


「いや、このまま城まで行ったほうがいいのでは? 兵士が集まって来るぞ??」


 なので、イェルドもありえない助言をしちゃった。


「だったら最初から突撃してるよ。人を集めてるんだから、静かにしてろよ」

「ああ~……」


 イェルド、納得。フィリップは恐怖を振り撒くために、こんな馬鹿げたことをしていると悟った。その間もフィリップは一騎討ちを申し込み、人や馬が慌ただしく動き回り、兵士に囲まれる。

 兵士に囲まれたフィリップは、何人か吹っ飛ばしたらダッシュで移動。少し開けた場所でまたあのセリフを言っていたら兵士に囲まれて、吹っ飛ばしたらダッシュ。

 それを住人が窓から見ていたが、「王様が一騎討ちなんて受けるのかね?」って首を捻っている人が多い。



 フィリップが時間をかけて進んでいたら、この情報はボローズ王の耳にも入ったが、まずは家臣と一緒に爆笑。しかし、徐々に近付いて来ているのだから笑っている場合ではなくなって、城の前に兵士を集結させていた。

 しかし、フィリップは一蹴。大きくて頑丈な門も蹴破り、ドアというドアをブチ破り、いま、まさに逃げ出そうとしていたボローズ王の部屋まで侵入したのであった……



「僕は帝国第二皇子フィリップ! ボローズ王に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」


 フィリップが言い放つと、恰幅のいい初老の男、ボローズ王を守るように5人の騎士が立ちはだかる。


「何をしておる! そんなガキ、さっさと殺してしまえ~~~!!」


 ここまで恐怖をあおられたボローズ王は早くも騎士をけしかけたが、瞬く間にバタバタと倒れて、もう守る者はいなくなってしまった。

 そこでフィリップは担いでいたイェルドを下ろし、どうぞどうぞという仕草をしながら、一騎討ちのセリフを通常の音量で言い続けている。


「イ、イェルド……お前がどうしてこんな所にいるんじゃ? 戦は……戦はどうなったのじゃ!?」

「簡潔に言いますと、そこのフィリップ皇子ただ1人に負けました……」

「なんじゃと!? なのにお前はおめおめと生き恥をさらしておるのか!!」

「お怒りはごもっとも。その前に、一騎討ちを受けてもらえませんか?」

「……は? なんでわしが受けなきゃならんのじゃ??」

「これ、受けないと、ずっと言い続けますので……話を先に進めるために、お願いします!!」

「嫌に決まってるじゃろ! お前がやらんか!!」

「私はもう完敗しましたので……」


 ボローズ王、ここに来てワガママ。イェルドが頑張って説得して「命までは取られない」と聞いて、ようやく剣を握ってくれた。


「その一騎討ち、受けてやるぞ。こ、これでいいのか?」

「そうそう。それでいいの。待たせたんだから、そっちから来てね」

「ああ……」


 ボローズ王が剣を振ると、ニヤニヤしていたフィリップはその剣を力尽く吹っ飛ばして、決着。


「死ね~~~!!」

「聞いてたのと違うぞ~~~!!」


 そして殺気ムンムンでレイピアを振り上げて来たので、ボローズ王は腰を抜かすのであった。

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