022 領主会談2
「「「「「はは~」」」」」
領主たちは突然のことに混乱したのか、フィリップの両側に移動して
「そういうのいらないから、席に戻りなよ」
「「「「「はは~」」」」」
フィリップが面倒くさそうに言うと領主たちは頭を下げたまま後ろ向きに歩き、各々の席に着いたが、全員脂汗で顔がテカっている。
今まで散々フレドリク皇帝の悪口を言った挙句に国家離脱まで考えていたのだから、フィリップから告げ口される心配をしているのだろう。
「殿下、少し外していただけますか?」
それを見かねてホーコンの助け船。
「ああ。僕がいないほうがよさそうだね。みんな喉が渇いてそうだし、お茶でも頼んで来てあげるよ」
それだけ告げたフィリップはスキップで応接室から出て行ったが、領主たちは「助かった~」と思うと同時に、進んで雑用をするフィリップに首を傾げるのであった。
「ご機嫌ですことね」
フィリップが応接室から出てスキップしていたら、エステルに見られてしまった。
「いや~。バカなことを言うヤツがいてね~。その発想を教えられて嬉しくって」
「バカと発想が繋がりませんが、話し合いは上手くいったのですわね」
「いや、まだまだだよ。そうそう! 応接室にお茶を頼みたいんだけど、誰に言ったらいいの??」
「それぐらいわたくしが手配しますわ。はぁ~」
フィリップが雑用をしようとしていたので、エステルからもため息が出てしまう。どう考えても皇族がやることではないみたいだ。
エステルはフィリップに食堂で待機するように言い渡し、自身は応接室と食堂にお茶の指示。それと、ホーコンにフィリップの居場所も伝えてもらう。
その指示が終わったら、エステルはお茶を飲んでほっこりしているフィリップの目の前に座った。
「さっきの話の続きですが、何を言われたのですの?」
「いま集まっている領主の土地ってそこそこ広いでしょ? それを集めたら、国が作れるとおじいちゃん伯爵が教えてくれたんだ。そのトップに僕がなれば……ムフフフ」
「嬉しそうに言ってますけど、とんでもないことを言ってましてよ??」
「そりゃ、いまからやることの苦労を考えたら、めちゃくちゃ楽になるんだから嬉しくな~い??」
エステルは一考して答えを出す。
「独立なんて、もっと大変ですわよ。ふたつの国と面しますし、残りの領土は帝国に囲まれてしまいますわ」
「帝国? 無視無視。兄が弟を殺すのは、聖女ちゃんが止めてくれるはずだから、僕の代は安泰だ~」
「……子供や子孫はどうしますの?」
「あ……いまの内に不干渉条約を結んでおけばいんじゃね?」
「わたくしなら、小国との取り引きなんて破りますわね」
「えっちゃんはだろ~」
フィリップは自分が楽することしか考えていないので、言い訳は全てエステルに論破されるのであったとさ。
ところ変わって応接室はお通夜状態。ノックの音が響いただけで領主たちはビクッとする事態。そのノックの仕方からメイドが来たのだとわかったホーコンは入室を許可する。
2人のメイドがお茶や水差しを変え、頭を下げて退室したら、皆はお茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「どうしてフィリップ殿下がここにいるのじゃ?」
沈黙を破ったのはバルテルス伯爵。ホーコンはカップを置いて答える。
「皇帝陛下が奴隷制度を廃止すると知って反対したのだ。それが失敗したから、当家を頼りにして来たみたいなのだが、どうして当家が選ばれたかはわからない」
「あのフィリップ殿下が? 聞いていた人物とかなり違うのじゃな」
「ああ。私も別人ではないかと疑った。しかし、娘は面識があるから間違いないだろう。それに、私たちが担ぐ御輿としては、これほどの人物はいないと確信している」
「辺境伯がそれほど惚れ込む人物か……少し人と成りを聞かせてくれんか?」
ホーコンから語られるフィリップの人物像。その全てが噓みたいな武勇伝に聞こえた一同だが、剣ではホーコンが子供のように扱われたと悔しさを滲ませるので信じることにしていた。
「そのような人物が、どうして表に出て来なかったのじゃ?」
「ただひとつの難点なのだが……信じられないぐらい怠惰なのだ」
「怠惰で片付けられる問題か?」
「我々が駆け回っているのに、娼館に通って昼間は寝てたり……」
ホーコン、けっこうストレスが溜まっていたみたい。愚痴から始まり、まだ話をしていなかったこれからの作戦がどれほど大変なのかとグチグチ言ってる。
そのおかげで皆もフィリップの厄介さと、自分たちが何をしたらいいかもわかってくれた。
「なるほどのう……」
ようやくホーコンの愚痴が途切れたら、バルテルス伯爵はヒゲを触りながら頷いた。
「ちなみにその作戦は、辺境伯が考えたのか?」
「いや。殿下だ」
「このような長期的な視野もお持ちなのか。確かに皇帝陛下を超える逸材かもしれんな……わかった。ワシはフィリップ殿下の作戦に乗るぞ」
バルテルス伯爵が賛成に回ると、1人また1人と手を上げ、決定権のないポール・アルマル青年が「父を必ず説得する」と言った時点で、正式に第二皇子派閥の結成となるのであった。
「え? 独立しないの?? 絶対にそっちのほうが楽なのに~~~」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
話がついたと呼ばれたフィリップが応接室に入って成り行きを聞いたら1人だけ反対するので、ホーコンたちは困ってしまうのであったとさ。
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