023 領主会談3


 フィリップだけが独立派に回っていたので少し説得に時間が取られるホーコン。そこでフィリップは全員から多数決を取ったら、自分以外は帝国に残りたいと言うのでガックシ。


「よくあんな国に仕えようと思えるね……」


 どうやらフィリップよりは、ホーコンたちのほうが国に思い入れがあるようだ。


「あんな国と申しますが、殿下の御父上はそれはもう人格者でしたから、守りたいと思うのは必然でしょう」

「お父さんね~……民を思ういい君主だったもんね。わかったよ。多数決で負けているし、この話はもう終わりだ」


 ホーコンはホッとするなか、領主たちはフィリップのことを再評価。ややめちゃくちゃだが、家臣の話は聞いてくれるいい皇帝になり得るかもしれないと思っている。


「んで……どこまで話をしたの?」

「だいたいのことは……」


 フィリップがホーコンに尋ねると、話はほとんど終わっていたからラッキーとほくそ笑んでいる。


「ま、聞いた通りだ。かなり金はかかるけど、帝国が生き残る道はそれしかない。それに時間との勝負だ。領地に戻ったら、しばらく休みがないと思ってね」

「「「「「はっ!」」」」」

「今日のところは、ゆっくりと休んで英気を養うんだよ」

「「「「「御意!!」」」」」


 いいところだけ持って行ったフィリップは席を立ち、ホーコンたちはその場に残って今後のことを話し合うのであった……



「またこんなところでダラケて何をしていますの?」


 辺境伯邸、外の空きスペースでハンモックに揺られて寝ていたフィリップの元へ、エステルがやって来てチクリ。


「んが……あ、お姉ちゃん。なんか用??」

「ですから、お父様たちは部屋から出て来ていないのに、1人で何をなさっているかと聞いていますのよ」

「アレ? 今日は休むように言ったのに……何してんだろ??」

「なるほど……」


 寝惚けまなこのフィリップの答えである程度察したエステル。


「お父様たちはこれからの話をしていますのね。そして殿下は、自分の役目は終わったから寝ていたと……」

「ふ~ん……領主も大変だね~」

「本来ならばその上に立つ者が率先してやらねばならないのですけどね」

「僕は家臣に恵まれたってことだな~。アハハハ」


 フィリップは嫌味を笑ってスルーするので、エステルはまた長いため息を吐いていた。


「とりあえず話し合いは上手くいったのですわね」

「うん。予定通りだよ。次は、勅令書が届くのを待つだけだ」

「それですけど、もう一度強奪すれば、もっと時間を延ばせるのではなくて?」

「みんなのために奪ってやりたいけどね~……次は護衛付きになるでしょ? もちろん倒すのは楽勝だけど、二度も奪うとさすがに兄貴も疑いを持つからね~……」

「勅令書を狙っている者がいる、と……」

「その後、一番得をする者が犯人ってわけ」

「……その頭脳をもうちょっといかせませんの?」

「いや、誰でもわかるでしょ~」


 フィリップに頭脳で負けたことが納得のいかない顔をしていたエステルはきびすを返す。


「そのように伝えて来ますわ」

「あん? 頼まれて来てたの??」


 エステルは返事をせずに辺境伯邸に消えて行ったので、フィリップはまた目を閉じたが、1時間後にはエステルにハンモックを激しく揺らされて起こされた。


「落ちるところだっただろ~」

「それよりも、伝令騎士の時間を稼ぐ方法は何かありませんこと?」

「道を塞ぐか橋を落とすかして、盗賊のせいにしとけよ~」

「本当は兵が行い……いえ、盗賊の変装は必要ですわね……わかりました。そのように伝えて来ますわ」

「もう来るなよ~」


 というやり取りをしたのに、エステルはちょくちょくフィリップの前に現れて助言を聞いて去って行く。もちろん二度目からはサボる場所を変えていたのだが、辺境伯邸の敷地内は多くの目があるので、フィリップはすぐに見付かっていた。


「どう思いますか?」

「何時だと思ってるんだよ! もう寝ろよ!!」


 夜中に自室までエステルが押し掛けるので、フィリップはキレるのあった。


「わたくしも美容に悪いからこんなことしたくないのですわ! 殿下が応接室にいれば、メッセンジャーなんてしなくていいんですわ!!」

「なんかすんません……」


 それよりも凄い剣幕で逆ギレするエステルであったとさ。



 翌朝、ホーコンたちは眠そうな顔で食堂に現れ、エステルはウッラの肩を借りるフィリップを連れてやって来た。男の肩を借りるぐらいなら起きないと言われたそうだ。

 全員といっていいほど徹夜だったので、朝食の席は誰も喋ろうとしない。唯一喋っていたのは、ちょっとは寝ていたフィリップとウッラ。

 ウッラはこんな偉そうな人の前で喋りたくなさそうだったが、フィリップがずっと喋りかけて来るので仕方がないのだ。


 それから領主たちの出発の時間になったら、自室に行こうとしたフィリップは玄関に連行されて、それらしい言葉を言わされていた。

 エステルから耳打ちされた言葉であったが、領主たちは背筋を正して旅立つのであった。


「ふぁ~あ。そんじゃあ、もうひと眠りしてくるから、昼まで起こさないでね~」

「エリクは昨日の昼過ぎから寝ていましたよね? わたくしたちは徹夜ですのよ」

「お姉ちゃんも仮眠ぐらい取りなよ~。あ、たまには一緒に寝る??」

「何を言ってますの! はしたない!?」


 エステルが顔を真っ赤にして走って行くので、フィリップはホーコンに振る。


「ちょっとした冗談なのに……あんなに怒るもの?」

「娘は調略や悪巧みなんかは得意なのですが、何分まだそういった話は聞いたことがありませんので……」

「あ~……そんなこと言ってたね。忘れてた」

「はあ……なんでしたら、私から言って聞かせましょうか?」

「やめとけ。一生根に持たれるよ」


 父親の口から「抱かれて来い」なんて言われたら、そりゃ一生恨まれることだろう。フィリップのおかげで、娘との関係を守られるホーコンであった。

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