021 領主会談1
ある日のお昼前、辺境伯邸に豪華な馬車が次々と到着していた。その馬車から降りて来た者は、年齢がバラバラだが気品や圧力がある者。他領の領主たちだ。
この領主たちは勅令書に名があった者。元より戦争になった場合に備えて協力関係を築いていたから、ホーコンの急な招集にも応えてくれた。しかし、一領地はだけはどうしても領主の都合が合わず、代役の息子を立てている。
到着した領主は辺境伯家族に出迎えられ、話は全員揃ってからと談話室に通される。
領主たちが昨今の情勢を話し合っていると予定通りお昼には全員揃ったので、食堂で豪華な食事を持てなされ、食べ終えてしばしご歓談していたら応接室に移動する。
応接室には円卓が置かれて少々狭いことに領主たちは疑問を口にしたが、これから話す内容はかなり機密性があるからとホーコンに説得されていた。もちろん従者も排除されている。
応接室に入ったのは、4人の領主と1人の領主名代の青年。ホーコンと、隠し子と説明された黒髪のカツラを被ったフィリップの7人だけ。このメンバーで会議が始まる。
「急遽呼び立てたのにも関わらず、集まってくれて感謝する」
第一声はホーコンの感謝の言葉。ホーコンが頭を下げているので、フィリップもペコリと会釈だけはしていた。
その言葉に応えるのは、一番年長のウルリク・バルテルス伯爵。笑顔で喋り出した。
「国の一大事と聞いたからには、来ないわけにはなるまい。ましては、陛下の勅令書を強奪されたなんて有るまじき事態だからのう。わははは」
バルテルス伯爵が長い髭を撫でながら笑うと2人ほど釣られて笑い、当事者であるポール・アルマル青年は悔しそうに下を向く。
フィリップはニヤニヤして傍観。だが、ホーコンだけはまったく表情を変えないどころか、厳しい表情をしている。
「呼び出した理由の前に、ポール君には謝っておこう。勅令書を奪ったのは我々だ。恥を掻かせてすまなかった」
「「「「「なっ……」」」」」」
軽く笑っていた一同でも、大事な大事な皇帝陛下の勅令書を軽んじられたからには言葉を失った。しかし、被害者のポールは別だ。
「な、なんの恨みがあってそんなことを!? そのせいで父は他領の者から責められているのですよ! 最悪、縛り首だってありえるのに!!」
ポールの怒りはもっともなのでホーコンは謝罪を繰り返していたら、フィリップが面倒くさそうに動く。
「僕が奪ったんだから、責めるのも謝罪もあとにしなよ。まったく話が進んでいないよ」
「貴様が!?」
「うるさい。国の大事な話し合いの最中だ。お前の話なら、あとでいくらでも聞いてやるよ。父上、さっさと始めて」
「ああ……」
父上とか言ってるわりには命令しているのは子供のほうなので、一部の者は何かを考ている。
「まずは、届くはずだった勅令書を配る。それを読めば皆も、我々がこんなことをしでかした理由がわかってもらえるはずだ」
ホーコンは宛名を確認し、間違いのないように自分の手で配ったら席に着いて目を閉じる。フィリップはまたニヤニヤしてる。
領主たちは封筒をよく見て真贋を確かめてから封を破り、1行目に目を通しただけで顔色が変わる。それから何度も読み返したり封筒も何度も確かめていたら、バルテルス伯爵が震えながら口を開いた。
「こ、これは……ほ、本物なのか?」
「如何にも」
「陛下はこの国を潰すつもりなのか!!」
ホーコンが真っ直ぐ目を見て答えると、バルテルス伯爵は円卓を叩いて立ち上がった。それを皮切りに他の領主たちも立ち上がり、各々思ったことを口走るが、全て皇帝を非難する言葉であった。
「私も同じ思いだ。その話を前もって聞いていたから、勅令書を奪う決断に至ったのだ」
少し落ち着くとホーコンは喋りながらポールを見る。
「これは歴史の転換点になり得る。いまは
「そうなればとは思いますが、奪ったところで何も解決しないのでは?」
「ああ。何もしなければな。今回の勅令書強奪は、ただの時間稼ぎだ。皆にいまから策を与えるから聞いてくれ」
ホーコンがこれからのことを話し出そうとしたら、バルテルス伯爵がそれを止める。
「今回のことで、ようわかった……」
「バルテルス伯爵??」
「皇帝陛下は、我々の弱体化を狙っておるんじゃろう。税金を下げさ、軍備を縮小させ、領地を混乱させるのじゃ。そこに国軍を投入して、領地を国有化させるつもりじゃろう!!」
「バルテルス伯爵、考えすぎだ。言葉が過ぎるぞ」
ホーコンが宥めるが、バルテルス伯爵はヒートアップする。
「我々がどれほど国に貢献しているかわかっておらん! 他国の侵略を止めているのは我々だ。そんなこともわからん若僧など、こちらから見限ってやるわ!!」
「バルテルス伯爵!!」
「どうじゃ? ここに集まる領主はほとんど武闘派じゃ。我々が手を組めば、強い国を作れると思わんか?? いまこそ帝国から離脱して、国を興す時じゃ!!」
バルテルス伯爵の演説に、2人ぐらいはなびきそうな目を向けたが、そこにフィリップの笑いが漏れる。
「クックックッ……」
その笑いはバルテルス伯爵を怒らせるには充分だ。
「何を笑っておるんじゃ!」
「いや~。バカなことを言うヤツがいると思ってね」
「誰がバカじゃと……」
「むっつも頭があって、誰がまとめるんだよ。じいちゃんか? 絶対に揉めるよ。勝手に始めて勝手に潰れるだけだ」
「若僧が知ったような口を利きよって……」
バルテルス伯爵の怒りが最高潮に達したその時、フィリップはカツラを脱いだ。そして金髪パーマを軽く掻き上げ、両足を円卓の上に乗せた。
「フィリップ……殿下?」
半数ほどフィリップの容姿を知らない者がいたらしく「誰だこいつ?」って顔をしていたが、ポールは皇都学院で見たことがあったので呟いたら、ホーコンが正解を告げる。
「こちらは正真正銘、前皇帝陛下の第二子、フィリップ殿下であらせられる」
まさか第二皇子が同席していたなんて考えていなかった領主たちは、顔を青くして言葉をなくすのであった……
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