012 初の夜3
「攻略対象から外れたあとは、何をしていましたの?」
寝る前に聞いたフィリップの壮大な作り話が面白くなりつつあるエステルは、その後の展開も気になり出した。
「だいたい大きな事件が起こる現場に出向いて、その通りの展開になるか見ていたね。特等席で演劇を見ているようで面白かった~」
「だから1人だけ、ずっとニヤニヤしていたのですわね」
「そうそう。あとは、自分のフラグを阻止できたから、他の人のフラグも阻止できないか試したりもしていたよ」
「フラグ??」
「えっと……事の起こり? その事が起きなかったら、あとの展開に繋がらなくなるの」
「でしたら、ルイーゼのフラグをバッキバキに折ってくださってもよかったですのに」
エステルが恨みの隠った声で自分の欲望を告げると、フィリップの声のトーンは少し下がる。
「いちおうやってみたんだけどね~……ダメだった」
「どうしてですの?」
「なんだろ……物語の強制力っていうのかな? そのとき阻止しても、数十分後、数日後には同じような展開が起こって物語通りになってしまったんだ。たぶんそのイベントが起こる期間があって、その期間いっぱい邪魔しないといけなかったんだろうね」
「なるほど……ラストは決まっているのですから、必ずそこに収まるようになっていますのね」
エステルは感心した声で頷いていたら、フィリップはパーテーション越しに頭を下げた。
「そうだ。えっちゃんのことも、何度も邪魔したんだった。その節はすいませんでした」
「なんのことですの?」
「あ、そっか。僕が秘密裏に動いて証拠も全て消しておいたから、えっちゃんは誰の仕業か知らなかったんだったね」
「だ、たから、なんのことですの?」
証拠を消したと聞いて、エステルは動揺を隠せない。
「毒殺が4回と、暗殺者に頼んだのが2回って、ヤル気満々すぎるよ~。アハハハハ」
「誰から聞きましたの!?」
ここでエステルは、焦りのあまりパーテーションを押し退けてフィリップを睨む。フィリップは腹抱えて笑っているけど……
「聞くも何も、僕は何が起こるか知ってるし……まぁ1回で止められるわけがないのはわかっていたから、協力者はいたけどね」
「その協力者の名前を吐きなさい!」
「終わったことなんだからそんなに怒るないでよ。てか、えっちゃんは、僕と協力者に感謝する立場なんだからね」
「いいえ。ルイーゼさえいなくなれば、わたくしが皇后になっていたのですわ!」
エステルがツバを飛ばしながら怒鳴ると、フィリップは鋭い目を向ける。
「ラストは決まっているのに、その暗殺は上手くいくと思っているの?」
「こ、ここは物語ではなくて現実でしてよ」
「いいや。上手くいかないね。全て兄貴たちに阻止された上に証拠が見付かり、えっちゃんは卒業式の前日に、兄貴に殺されていたんだよ」
「そんなことあるわけが……」
「あるでしょ? だって、あの前夜祭のパーティーで、毒のナイフで聖女ちゃんを刺す予定だったんだから……」
「な、何故それを……」
フィリップがどこからか取り出した家紋入りの豪華なナイフを見せびらかすと、エステルの顔は真っ青になった。
「パーティー中にスッておいたんだ。んで、記念に貰っておいた。だから、
フィリップが笑顔を見せてナイフをブラブラしていたら、エステルもしだいに落ち着いて来た。
「どうしてわたくしを助けたのですの?」
「ほら? 僕ってえっちゃんだらけの学校に通ってたでしょ? そんな腹に一物ある奴らと渡り合うには、あいつらだけじゃ足りないと思ってね。保険で残しておいたほうがいいかと思ったんだ。あと、本当に助けることができるかの実験ってのもある」
「本音は、後者ですわよね?」
「う~ん……」
エステルの質問に、フィリップは頭を捻る。
「正直、僕はえっちゃんのこと嫌いじゃなかったんだ。物語上悪役は必要かも知れないけど、言ってることは全て国を思ってのことだし、浮気してるの兄貴のほうじゃん? そんなかわいそうな子を、放っておけるわけないよ」
フィリップの発言にエステルは胸に熱いモノを感じているが、グッと我慢する。
「フンッ……お情けで助けてもらいたくなかったですわ。そこは好きだからとか言ってほしかったですわ」
「ああ。そういえば、乙女ゲームでやってた時は一番好きだったかも? 目は鋭いけど、美人で巨乳の作画は、絵師さんの渾身のデキだったな~……その気持ちがあったから、頑張って助けたのかもね」
「な、なななな……何を言ってますの!?」
嫌味に対してフィリップが「一番好き」と返したからには、エステルも顔が真っ赤。
「助けた理由だけど……」
「もういいですわ! 寝ますわ!!」
「う、うん……おやすみ」
エステルがパーテーションを急いで戻して毛布に潜り込んだものだから、フィリップもそれ以上の追及はしない。
ただし、フィリップは凄いカミングアウトをしたとあとで気付いて、悶々としてなかなか寝付けないのであった。
(なんですのなんですのなんですの~~~!!)
当然「一番好き」と言われたエステルも、悶々として眠れないのであったとさ。
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