第6話
「もう大丈夫よ、呼吸も落ち着いてるしぐっすり眠ってます。恐らく……過労でしょうね」
相良が倒れた後、すぐに隣に座っていたクラスメイトが男性教諭を呼びに行き、友人と付き添い保健室に向かった美詞、保健室には噂の着任早々男子生徒中の「憧れの保健室女医ポジ」を獲得した袴塚が詰めていた。
男子教諭に担がれ運ばれた生徒を見ると、すぐに寝台まで案内し寝かされた相良の診察に入る。
一般的な診察とは別に霊能力を使用したと思われる診察も行っていたが美詞からはそれがどういったものかまではわからなかった。
「そうですか……相良さん、見た目はいつも通り元気だったんですが……昼食のときに顔色が悪くなってきていきなりだったんです」
「そう……自覚症状がなかったのかしら。わかりました、彼女が起きたらそのあたりも聞いてみます。さ、もう授業が始まっちゃうから教室に戻りなさい?付き添いありがとうね」
席を立ち失礼しますと保健室を後にすると5時限目の授業に参加すべくクラスメイトと共に教室へと向かった。
教室に到着するころには既に授業は始まっていたが教師に事情を説明、もちろん咎められることもなく授業に参加できるようになったが美詞はいまいち授業に集中できずにいた。
最近続く悪夢に気になる人物の登場、実技でのトラブルやクラスメイトが倒れたこと等、一日で起こるにしては少々詰め込みすぎでないだろうかというイベントの多さに辟易してしまい集中力が散漫しても仕方のないことだろう。
(だめだなぁ、今日は一日ほとんど授業に集中できてないや……気になることが多すぎるよぉ……)
そんな頭の中がぐちゃぐちゃになりそうな一日を送ることになった美詞はいまいち授業に集中できないまま放課後を迎えることになってしまった。
気が付けば一日の学業が終わってしまっていたことに頭を抱えてヤバイと呟く美詞を見た前の席の友人が声をかけた。
「みーちゃん今日もおつかれー、どしたの頭抱えて?って聞かなくても大体わかっちゃったかも……いろいろあったもんねぇ、まだモヤモヤ的な?」
「うん、想像通りだよー、すぐにバレちゃうぐらいダメダメなのがもっとへこむー」
「あんらまぁー」
「ならさ、気分転換しにいかない?」
二人が話していると横から夏希が放課後のお誘いにやってきた。
「駅前のメインストリートに新しいカフェができたんだよ、店内で作っているケーキがおいしいって噂」
「けーき!!」
一瞬語彙力がふっとびそうな声を上げた美詞は甘いものに目がなかった、少なくとも一日の鬱憤が頭の隅に掃き出されるぐらいには大好きなワードなのだ。
厳格な神社で育ってきた美詞、不自由な生活を送ってきたわけではないが洋菓子が食べれる機会などなかなかなかった反動は学生になり初めて目の前でケーキが並ぶショーケースを見たときにはじけた。
棚に並ぶ多くの宝石のような菓子を目にしたときから「自分へのご褒美」筆頭候補になるのは必然であったのかもしれない。
先ほどまでとは違い光があふれて後光を纏いそうな満面の笑顔に注目していた男子生徒達が「あぁー……浄化されるー」「あの笑顔が見れた……もういいや」「ふぅ……尊い……」等漏らしていたのを聞いていた友人二人。
「あー、みーちゃんの広範囲兵器の犠牲者が増える前にさっさと行こうか」
「もー男子ってばマジ男子だなぁ、うちのクラスの子達どんどんバカになってない?」
「単純だからわかりやすい分まだ害はなくていいじゃん」
「ま、そこは同意。さ、みこっちゃんの答えは聞かなくてもよさそうね、いこっか?」
にこにこと笑顔を振りまく美詞を連れ廊下に出た3人が外に向かう途中目にしたのは、脚立と工具箱をもった用務員の姿だった。
すれ違う瞬間笑顔であった美詞の肩がぴくりと跳ね表情が固まったが、友人二人はそれに気づいておらず歩を進めていたため遅れないよう後を追うようにその場を後にした。
そんな遠ざかる背中を脚立を持った作業着の冴えない男が見つめていたのを美詞は知らない。
「さっきすれ違った用務員の人、やっぱり気になった?みーちゃん」
「え?あ、うん……霊感はなにかを訴えてくるみたいなんだけど、なぜかがわからない感じ……かな?」
「うわ、あれじゃない?危ない人に対しての警鐘みたいな。あの人危険だから近寄っちゃだめだよー的な?」
「ふふ、そんなピンポイントな能力あったら苦労しないよー。そんな嫌な感じではなかったんだけど……よくわからないなぁ」
「悩んでもしょうがないか!あ、あの新しいお店かな、夏希ちゃん?」
「うん、もうお店の見た目からかわいいよねぇ、入るのは初めてだからおいしいといいな」
件のカフェが見えてくると美詞の目が途端にキラキラしだす、まだ見ぬ愛しいケーキ達に思いを馳せときめいているのが顔にありありと現れており二人が微笑ましそうに見守っていた。
「みーちゃんのこーゆーとこほんとかわいらしいよね」
「はは、言わぬが花だよ。天然さんだからどんな顔してるかわかったら顔真っ赤にしそう」
「だね、あれじゃ私達をおいてけぼりにしてるのすら気づいてなさそうだし」
そんなことを言い合っている傍から、北欧風の趣のある建物の扉の前で少し顔を赤らめながら二人を手招きしている人物に対し二人はくすくすと笑い合った。
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