第5話
「みこっちゃん大丈夫?怪我してない?」
「びっくりしたよ!あんな後先考えないことしてくるなんて、ほんと大丈夫?」
親友たちの下にたどり着いた美詞を待っていたのは夏希と千鶴の心配する声であった。
「あー……うん、大丈夫だよ、ほらこの通りっ!なにかしてきそうなのはわかっちゃったから対策できたし」
「それだよ!あんなにすごい量よく耐えれたね、衝撃だけでもすごいと思うけど」
「普通の略式結界だったらどうだったかな?あれは遮断結界だから衝撃もきてないよ。……私ってけっこう恨まれてるんだね」
「フンッ、あんなのただの逆恨みだよ!どうせみこっちゃんの人気に嫉妬したんでしょ」
「それでもあんな直接的な手段で来るとは思ってなかったよ、なんか鬼気迫るっていうか……傍からみても様子おかしかったし……」
「うーん……言われてみれば、というかあんなことやったらどうなるかぐらい誰でもわかるのにさ」
(うん、確かに後先考えないにしてもあまりにも短絡的というか……)
思考に潜ったところで結局は答えが出るわけでもなく、これからは周りに気を付けていこうということになり二人も美詞の周囲の動向に注意しとくとのこととなったのだが。
「ねぇみーちゃん、髪、組紐ほどけてるよ?」
「え……」
とっさに髪に手をやり確認したところ、ふたつある内の右側の組紐が半分ほど解けかけ垂れ下がってた。
(……いつ!?実技確認の準備に入ったときにはちゃんと「封印」できてた……なら神力を込めた時?制御失敗したなぁ……「交じり漏れて」なければいいんだけど……)
そこまで考えた時にふと先ほどまで自分に向けられてた鋭い視線が思い出され、咄嗟に観覧席を振り返った。
先ほどまで自分に視線を送った主は既に観覧席にはいないみたいでまだ他の生徒の実技を眺めている数人の講師がいるだけであった。
「どうしたの?だれか知り合いでもいた?」
「う、ううん大丈夫、なんにもないんだよ」
(まさか……ね)
封印を強めるため特徴のある巻き方のされた組紐を手に取り結わい直すと、視線を観覧席から今も披露されている他生徒の実技に戻した。
実技授業はあんなことがあったにも関わらずその後は淡々と進められ、気が付けば最後の生徒も何事もなく終わることになった。
「よし!あつまれー。二年なだけあって基礎はしっかり出来てきてるようだ、一年のころは基礎を固めることが主だったが二年からは応用に入る、技術の幅を広げ可能性を模索していくことになるだろう。なのでよく壁にぶつかることが多いのもこの年だ。それぞれの分野の講師がバックアップにつくのでしっかり相談するように。本日は以上!」
生徒達はいっきにざわざわしだし、各々ロッカールームに向かっていく。
足早に着替えに向かう者が多いのは今が4時間目終了時だからだろう、例にもれず学食常連組であったこの3人も心なしか着替えが早いように感じる。
「あー、4時間目はこれがあるからいや!」
「早く着替えていかないとねぃ」
「学食、今日も混んでるんだろうなぁ」
かなりの収容力を誇る学生食堂ではあるがすべての学生が一同に食事できるだけのものではなかったため、席の確保に失敗すると空くまで待つか、購買でお弁当とパンを買って食べるかになってしまう。
できれば出来立てほかほかを食べたいのが人の心情というものだろう。
丁度4時限目終了チャイムが鳴ると同時ごろに、着替え終わった男子の第一陣が学食に駆けていく足音が廊下のほうから聞こえてきた。
男子より準備が遅くなるのは女子の宿命といえるがそこで妥協ばかりしていては学食争奪戦の土俵に立てないのだ。
まもなく着替え終わった3人も小走りに学食へと向かい席の確保作業に入る。
「こっちこっち!3人分席空いてるよー」
遠くから自分たちに大きく手を振り声をかけてくるのは同級生のグループ。
声をかけてくれた女生徒に感謝を述べ席につくと本日の昼食献立に花を咲かす、といっても……
「日替わりかなー」
「だよねー、もうほとんど一択状態だし」
「なら私と夏希ちゃんでいこうか?千鶴ちゃん席確保してもらっていい?」
「りょーかーい」
宝条学園学食名物「日替わり定食」、他のメニューに比べ値段が遥かに安く量も多くバランスも味もよし。
比較的ブルジョワジーな生徒が多めな学園であるため、見栄を張る名家の多くは高いランチメニューを虚栄心を満たしながら注文していくが、一般家庭の生徒がいないわけではない。
そんな彼ら(彼女ら)の強い味方なのが学園側の配慮による懐に優しい一食250円のコレである。
3人分のプレートを持ち確保しておいた席に戻ってくると、今日も綺麗に盛り付けられたランチプレートに舌鼓を打つ。
「今日はハンバーグと白身フライかぁ、昼食だけは毎日ワクワクするなー」
「私たちみたいに支出を気にする学生にはまさに救世主だよね」
3人とも実家はそれなりの名門どころか特に美詞にいたってはとんでもない一族ではあるが、虚栄心等犬に喰わせておけ精神の3人には関係ないことだった。
楽しそうに話している夏希と千鶴を横目に昼食をとっていると、ふと隣の席に座る同級生の違和感に気が付いた。
「ねぇ相良さん大丈夫?顔色が悪いみたいだけど、汗もかいてるみたいだし……」
「う、うん……あはは、さっきの授業でバテちゃったかなぁ。夏バテ先取りしすぎだよねぇ」
「保健室行こうか?一緒についていくよ?あまり食べれてないみたいだし無理したら倒れちゃうよ」
「そだね……、お昼終わったら行ってみようかな、あわよくば5時限目サボれる……か……も」
無理をして冗談を交えてはいたが、明るいノリとは裏腹に顔色は病人のそれだ。
二人の会話に気づいたまわりも相良に対し心配の声をかけるが本人は半分上の空になってきている。
「相良さ……ん―
もう今から保健室に向かおうという言葉が口から出る前に、首の支えを失ったかのように力なく倒れこむ相良を支えたのは隣にいた美詞であった。
「相良さん!?だいじょうぶ!?ねぇ、きこえる?」
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