第4話
支援とあるが、これも多岐にわたる。
式神を複数上空に飛ばし視覚共有させる偵察術、物理的に攻撃を遮断する結界術、味方の身体能力を上げる強化術や物を強化する付与術、いまや国内では絶滅種となってしまったケガや異常状態を治す治癒術、回復術等、妖を直接打倒するための術ではなくともとても重宝される能力であった。
一人目の能力披露が終わると次は美詞の番となる。
「次、桜井いってみよう。結界術だな、攻撃役の補助は必要か?」
「はい、お願いします」
そうするとある女生徒が攻撃役で立候補した。
美詞が所定の位置につくと正面に攻撃役の生徒が続いて位置につく。
美詞に対して嘲弄するような、侮蔑の色を含んだ視線でニヤついた顔を向けてくる。
教室でいつも美詞に対してギラつくような熱い視線を送っていた一人だ。
美詞は知る由もなかったが、彼女の好きな男子が美詞に熱を上げてしまい毎日だらしない視線を送るようになってしまってからは、美詞に対して逆恨みに近い感情を膨らませ拗らせていたのだ。
相手の表情を見る限り恐らくなにか仕掛けてくる気なのがわかり、心の中で軽く溜息を吐いた美詞だったがとにかく術を展開するために集中を始めた。
美詞は神道系の祈祷による儀式と祝詞による結界展開を得意としていたが……
(はぁ、略祓詞だと足りなくなるかな?せめて略拝詞……ううん念のため……)
普段授業で使う結界術は略祓詞による結界の即時展開を主眼に置いていた。
それはそうだ、いつ襲ってくるかもわからない状態で発動に時間をかけていれば結界の意味がない。
神道系の術は基本的に詞に力が宿る、もちろん込められた神力と信仰心等の意思にかかわる部分も大きいのだが詞という始動キーがなければ発動が困難を極めるのだ。
いつも通り略式での短い詞で結界の発動をと考えていたのだが、恐らく先方がとってくる攻撃手段はそれなりのものが予想される。
最悪を考えると更に頑強な結界が必要かと思われた。
「―神の在座鳥居に伊禮ば此身より……」
いつもの攻撃を食い止め和らげる防御結界ではなく、術自体を通さない遮断結界に切り替え長い祝詞を紡ぎ終えると、彼女を中心に清浄な力場と共に半円形の結界が展開された。
「桜井、準備はできたか?では結界に向けて攻撃をしても「ヒハッ 死にさらせえぇぇぇ!!」ら……おいまて!」
美詞が講師の呼びかけに頷いた瞬間を狙い、どこに仕舞っていたか両手にいっぱいの針のような棒状の物を美詞に向け全力投擲してきた。
それは主に攻撃手段の乏しい霊能力者が少しの霊力を籠めることで霊体にもダメージを通すことのできる、小型の棒手裏剣に炸裂の効果が込められた起爆符が巻き付けられたもの。
形は手裏剣のような投擲武器や霊力と親和性の高い水晶等様々あるが起爆符を利用するものは多岐に渡り、学園内では一度はだれもが授業等でみたことのあるものだ。
もちろん学園授業で使用方法を教えるため授業で触れたことはあるが、少なくとも一生徒が持ち出せるようなものでもなければ量でもない。
一体彼女がなぜそんなものを複数持ち込んで攻撃に及んだのかは不明だがそれよりも投げられた先だ、多数の起爆符が美詞に向かっていることに問題がある。
(やっぱり……にしても少なくとも両手指で投擲できる6本……あぁ後続もあるか……私そんなに恨み買ってたのかなぁ……)
目の前から大量の暴力が自分に向けられているというのにここまで瞬時に状況判断し冷静でいられるのもしっかり理由がある。
数の暴力が結界に着弾する直前に美詞は片手を結界に向け更に神力を注ぎ込む。
一本目が結界に接触し起爆したかと思うと次々に後続の起爆符が誘爆していく。
結界に阻まれた霊波の衝撃と爆風により砂ぼこりが巻き上がってゆき、まわりから少なくない悲鳴があがった……そのとき……。
― ゴンッ! ―
「止めんかこら!過剰攻撃だ!バカなのかおまえは!!」
声が聞こえた場所に周囲が目を向けると、頭を押さえて蹲っている暴挙を働いた女生徒とこぶしを振り下ろしたあとの講師の姿があった。
恐らく蛮行に及んだ女生徒にゲンコツを落とし実力行使で止めたのだろう、たしかに攻撃の手は止んでいた。
しかしながら攻撃が止むと次に関心が移るのは「受けた」ほうだ、未だもうもうと砂ぼこりが舞う地点に目を向けても美詞の安否を判断できるような視界の鮮明さはなかった。
煙が晴れるのを待つ一同に静寂が支配されかけたその時、キンッ!という甲高い音が鳴り煙の中から光が一閃され遅れて砂ぼこりが吹き飛ばされてしまう。
その中心にいたのは無傷の美詞、球状の結界がヒビ一つなく健在なのだから無傷なのは当たり前である。
それを許せないのが一人。
「なんで無傷なのよ!!あれだけの数を浴びといて結界すらっ!!」
― ゴンッ! ―
とっさに出てしまったその一言は致命的であった、藤林に再度ゲンコツを落とされた加害者少女は再び蹲ることとなる。
「やはり害意ありの攻撃か、お前達にどういった確執があるのかわからんがやった事は重大だ。起爆符の入手経路もしっかり吐いてもらうからな、反省しろ!」
藤林は腕に巻いたデバイスを操作すると、まもなく別の講師二人がフィールドにやってきて件の女生徒を連れていってしまった。
彼女が行ったのは害意をもって他を能力で傷つけようとした違反行為、訓練フィールドでは特別な術が施されているため直接当たったとしても致命傷になったりはしないので恐らく怪我を負わせるぐらいの心積もりで言い逃れ方法を考えていたのだろうが、最後の一言は罰するに値する発言となってしまったためこの後校則違反処分が下されることになるだろう。
「桜井、大丈夫だとは思うがどうだ?体調異変があればそのまま保健室に行っても責めんぞ?」
「いえ、結構です。少々神力を余分に使ったぐらいなので問題はありません」
ふぅと息を吐きだし展開していた結界を解除した美詞は生徒達の一団へと戻っていった。
ふと視線を感じ2階の観覧席に顔を向けると、授業を見守っていた講師の中からこちらを見つめる鋭い視線とぶつかる。
疑問を感じながら見つめていたが、観覧席の視線が切れたためあまり気にせず先ほどから心配そうに見ていた親友の下へと向かうことを優先した。
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