第3話
全校集会が終わると生徒達は慌ただしそうに教室に戻り、すぐに始まるであろう授業の準備にとりかかっていた。
美詞も例に漏れず自分の机でタブレットを起動すると、一時限目の授業内容に必要なアプリケーションを立ち上げ授業範囲に目を通しているとまもなく担当講師が教室に入ってくる。
「よし、みんな揃ってるな?これから出席確認を起動する、名前を記入して送信するように」
いつものように授業が始まった。
宝条学園では一般高校のカリキュラムとは別に週4日ほど技能授業がある。
能力育成学園というだけあり各退魔技術を修めた能力者達が講師となり、一般教科の45分とは違い昼食前90分や昼食後90分の枠を設け「訓練」と呼べるような授業を行っている。
本日はその訓練日、昼食前の3,4時限目が「異能」教科である。
更には「食前訓練」は座学もあったりするのだが今回は専用施設での実技、さっそく美人校医のお世話になりたがる男子が出てきそうだ。
国語の授業を聞きながら美詞は先ほど壇上に上がっていた校医の顔を思い浮かべていた、と同時に用務員の顔がちらつく。
確かに記憶にはない名前と見た目ではあったが、なぜか自分の中の霊感が「知人じゃね?」という可能性を囁いていた。
(なんか懐かしさを霊感から感じたんだけどなぁ、でもまったく記憶にないし……なんか変な感じ)
少し授業に集中できず散漫していた思考は、教師が質問を生徒に指名したことで引き戻されることになった。
授業も進んでいき、2時限目の終了チャイムが鳴ると夏希が隣の教室から二人の下へやってくる。
「ねぇねぇ二人とも着替えにいこー」
「うん、いこっか!」
「一年たってもこの授業は慣れないけど、立場上簡単に休めないのがねぇ」
本来のグラウンドでの体育とは異なり、退魔技術実技は「フィールド」と呼ばれる訓練施設で行われる。
第5フィールドまであり、専用敷地だけでもかなりの広さになっていた。
本日のA、B合同クラスは第3フィールドで行うことになっており、三人は他のクラスメイトと一緒にフィールドに併設されているロッカールームへと向かった。
「さぁみんな集まれ!出席確認をするぞー…よしOKだ。では2年になって私の初めての指導だからな一応紹介をしておこう、本日担当する藤林だ。専攻は捕縛術になる。今日の授業は最初ということもあり前半はいつも通り基礎体力トレーニング、その後はそれぞれの技術レベルの確認作業を行う。二度手間にならないように他の二年実技担当講師が観覧席で見ているから確認作業は今回だけだ。あと、先ほど副学園長もおっしゃってたが、努力をすることは望ましいが倒れるまで無茶しないこと。特に男子、保健室に控える袴塚先生に会いたいからといって無茶したら私が強制お姫様抱っこで校内一周しながら連れていくから覚悟しろよ」
生徒の中から「うげぇ」という声と忍び笑いが漏れた。
その後藤林の号令でストレッチから始まり、フィールド周囲をハイペースで走らされ、腕立て腹筋等の筋肉トレーニングにシャトルラン等短い時間でみっちり詰め込まれたトレーニングが終わるころには、あたりは息切れを起こしている生徒が量産されていた。
「しっかり息を整えろよ!少し休憩したらすぐに能力訓練に移る」
それでも座り込む者などが出ないあたり1年という期間のトレーニングは着実に身についているということだろう。
この学園では新入生が最初の実技授業で倒れたり吐いたりするのがひとつの通過儀礼になっているからだ。
休憩後再度集合号令がかけられ藤林による説明がなされた。
「これから各々の能力確認を行っていく。一応各個人別の能力カルテをもらっているが実際に見てみなきゃレベルがわからんからな。ではグループ別に分かれてもらおうか、攻撃術がメインのものはターゲットレンジ前に移動、召喚術者もこっちだ。それ以外のものはこの測定エリアで待機、各自霊視を開いた状態でしっかり見学しておくように」
クラスの半数以上がひとつは攻撃技術を持っていたことからその場に残るのは美詞を含め10人にも満たない数だった。
「最初は近接組から始めるか、あとに遠距離組と召喚組と続けよう。武器が必要なものは模擬用武器を手に取るんだ、特殊発動条件対象者はいないみたいなのでそのまま行こうか」
中には代々伝わる術具や霊具と契約し、それを持った時のみ術が発動できるなどの制限が課された者も居るため、そういった場合は事前に訓練時持ち込むための事前申請が必要だった。
このクラスにはそういった生徒はいなかったため各々は自分のスタイルにあった模擬武器を手に的の前に移動する。
「よし、では近接組並べ。これから実技を行いながら順に出席番号と名前を確認していく。先生が確認にいくまで各自自由に訓練を行ってくれ、では準備!」
学園に通う能力者は大抵が陰陽道系や神道系等の術を「飛ばす」ことを主としたものが多いが、中には古武術や剣術等に仏教密教系統の真言等の霊力を纏すことで古来より妖と渡り合ってきた家系も多くいる。
近接組とはそういった者達のことである。
出席番号1番の彼も室町時代から続く剣術を受け継ぐ家系のものであり、彼が集中しだすと体からわずかに目に見えるオーラのようなものが吹き出す。
体のラインに沿ってゆらゆらと揺れるそれは霊力を目に集中させた霊視状態か特別な目を授かった者でなければ見えないものだ、ましてや一般人にはなにをしているのかもわからないだろう。
手に持つ木刀に力が込められると、徐々にそのオーラが木刀に移動しやがてすべて収まったのが確認できると準備が整ったのだろう、躰を沈ませると素早い歩法で的までの距離を一気に縮め木刀を光の尾を引かせながら袈裟懸けに勢いよく「斬り」下ろした。
ギャリッッ
木製の木刀が金属製の的にぶつけたとは思えない衝撃音が響き渡る、更には木ではつけることのできない斜めに切り込まれた傷がその不自然な現象が錯覚ではなかったことを物語った。
他の生徒達も各自得意分野の攻撃方法で的を鳴らしている。
手刀に直接霊刀を生やし攻撃するもの、四肢に霊力を纏わせ徒手空拳で連撃を繰り出す者。
生徒達が各々の技を披露しながら、後ろでは藤林が一人ずつ生徒に寄っては名前を確認している。
藤林の片耳にマイクとカメラが仕込まれているのは恐らく観覧席で見ているであろう別講師達のためのデータ取りと情報共有のためであろう。
事実観覧席の講師達の手元にタブレットがあることからリアルタイムで映像やデータが届けられているのかもしれない。
「いい攻撃だ。みなスムーズな纏いだったな。下級の怨霊相手であれば霊核破壊ができるレベルにはありそうだ。次は遠距離組のほうを確認していく、近接組は引き続き自主練を続けてくれ」
遠距離組に移ってからは真言を唱え手から霊力の塊を衝撃波のように飛ばしたり、符から火の玉のようなものを飛ばす者、召喚組にいたっては鳥のような式神を飛ばし的を攻撃させたり、召喚した妖精の放つ風によるものと思われる魔法のような攻撃、規模はひよっこの域を出ないが攻撃ひとつとっても様々なスタイルが見て取れた。
「さすがだな、それぞれ実にいい技術だった。現場での経験さえ積めるようになれば下級怪異相手ならすぐに戦力となれるだろう。次は支援組に移るので他のものはしっかり見ておくように。使った道具類は指定の場所に戻しとくんだぞ。じゃぁ支援組は出席番号A-6番の京本から始めよう、術に協力者が必要なやつは言ってくれ」
今まで待機していた美詞もこの支援組に属していたため出番が近づいていた。
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