第0話 俺様によって始まる宇宙

 俺様がこの宇宙を創った。




 失礼。これではいきさつの体を為してないな。




 かつて、俺様は思考するだけの存在だった。全てを思い描ける代わりに実感は無く。動かさなければ止まるだけの虚しさ。所詮は夢想。故に飽きた。




 ある時、世界を仔細しさいに思い描いた後、俺様が持つ膨大な思考を爆発させる事を思いついた。


 ビッグバンだ。




 思考は空間となって限りなく広がり、静寂の闇は思考の実現に溢れた。


 これが宇宙の始まりである。




 おかげで星の誕生を見る事ができたし、恒星から吹く風を体感する事もできた。できたばかりの水で俺様を満たす事もできた。




 これも飽きた。星は見る事ができても、俺様みたいに意思はない。触れる事ができるだけの玩具よ。




 そんな時、平行世界と言う存在を知った。俺様が宇宙の先を設定し忘れていたから、試しに手を伸ばした。壁みたいにぶつからず、歪んだのである。




 平行世界に足を運んでみれば、魔界と言う悪魔と呼ばれる生物が住む世界にたどり着いた。




 悪魔は俺様に戦いを挑んできた。彼らは俺様が創ったダークマター暗黒物質に似た魔力で肉体を構成し。その魔力を俺様が宇宙を設定するよりも限定的だが、よく似た技である魔法を戦いに利用していた。




 中でも悪魔達の王である魔王は雷と闇の魔法に長け、狡猾な思考方法にも卓越していた。


それでも最後は正面から。雷と闇を纏った大剣の一斬を白刃取りし、折ってやった。




 すると魔王は降参し、俺様に大魔王になってくれと頼んできたから、特に断る理由も無いので引き受ける事にした。




 それから悪魔の王として、悪魔と敵対する天使が住む天上界を征した。その後は退屈だったので、別の平行世界へ行く事に決めた。




 平行世界はいい。特に戦いは最高だった。




 殺し合いの許で目まぐるしく進化する可能性は目を見張るものだ。俺様には思いつかぬ力の使い方。ある思考を実現する手段の為に道具を創り出していた。




 だが、問題もある。俺様は強過ぎた。魔王が本気を出しても力の二十パーセントで粒子に還られる。悪魔と天使の創造主ですら、四十パーセントくらい力を出せば拳一つで粉砕できる。


 戦いを楽しむ為にも、俺様は力を三パーセント未満にまで封印した。




 次に行った平行世界では、俺様の宇宙でも生まれる種族人間が、肉体の中に宿る魂を自然と一体化させ、己の肉体でそれを表現する拳法と言う技術。


 その優劣が物を言う弱肉強食の世界だった。




 力を三パーセント未満に抑えたから俺様は弱かった。拳法を極めた達人には突き出す拳は掠りもせず、腕力でも敵わない。




 その代わり、拳法の流派に入る事で技を教える師匠の許で修業をしていく内に、できなかった事ができる喜び。即ち俺様の進化を実感できた。




 もっと技を知りたい俺様は様々な流派の門を叩き修業を重ねた。




 三つの流派を極めた頃になると、七人の達人が束になっても完膚無きまでに捻じ伏せられるようになっていた。


 全ての流派を極めた頃には覇道の頂点に立ち、この平行世界に王として君臨していた。




 満足はした。束の間だった。王の称号を狙い挑戦する者は多くいたが、俺様を満足させる程の強者は現れず。




 当然だ。封印しても、俺様から溢れる力は俺様の封印を凌駕する。凌駕してしまうのだ。


 俺様は覇道の王をやめ、俺様の創った宇宙に帰った。




 虚しい。


 世界を創り、平行世界を渡っても、俺様が満たされる事は無かった。


 俺様は世界に一興の価値が無いから寝る事にした。




 まどろみを漂っていると、脳天をかち割る衝撃が俺様を襲う。


 天蓋代わりに張った十三層のバリアを破壊し、俺様を叩き起こしたのだ。




「速さを否定する者リィズァ一番乗りィィィィィィッッッ」




 水銀色をした大きな人間の胴体は四肢が二つ欠損していた。発達した右腕が一本と、逞しいと言ってやろう左足のみ。


 生物の運動では走る事もままならない奴はそう名乗った。




「隙アリだぜ」




 俺様の顔面が水銀色をした拳に殴られた。


 脇腹に一発くれてやる前に逃げられてしまった。


 ビームが襲ってくる。正面に有象無象が三千か。




「ヘイヘ~イ。それでも創造主なのかよぉ。あまりに鈍いぜ。まぁ、でも、ゆっくりする事をオススメするね。動いたってムダだから。なんたって俺ッちが、お前の命を誰よりも速く否定してやるんだからさぁ。ックックックぅ」




 奴には人間の頭部は無いが、首元に口があり笑っていやがる。


 つまらん話が聞こえてくるのは開放的な念話テレパシーのせいだ。




 俺様は飛び出した。


 奴が率いる渦を巻いた貝どもの放つ集中砲火をすり抜け、笑えなくしてやろうと突きを繰り出す。




「残念。ハズレぇ。俺ッちは光よりも速いんだぜぇぇ。分からないのかぁ。ッハッハッハ」




 確かに。次々飛んでくるビームを避けながらそう思う。


 蝿みたいに飛び回る奴の速さは、俺様が定めた最高速度の限界値である光を超えている。




「ハァっ?」




 俺様が目の前に現れて奴は動揺している。


 所詮、光の速さをちょっと超えた程度。単純に貴様より俺様の方が速いだけのこと。




 蹴った。


 飛んで行く先に回り込んで、また蹴り飛ばす。俺様は奴を毬にして弄びながら貝どもを殲滅した。




「おのれぇッ」




 ほぉ。これはなかなかだ。重い惑星を動かす蹴りを何度も浴びたのに、俺様の背後に回り込んで殴ろうとは。




「グヘッ」




 裏拳を奴が現れると同時に放っておいた。




 覚えておけ。瞬間移動は現座標軸から極端に離れた座標軸に飛ぶ技だ。もちろん間合いを詰めたり離したりするのにも重宝するだろう。だが、存在を把握し察知できる研ぎ澄まされた感覚を持つ達人級なら手に取るように分かる。俺様に通じる筈が無い。




 小うるさい奴は粉砕したが、次々とビームや炸裂する光弾を放ち、群がるように接近戦を挑んでくる有象無象はなんなのだ。


 かわして徒手だけで捌くのも、いい加減飽きてきたな。




 俺様は首を少し上に向けた。猛る雷が宇宙に激しい雨となって降り注ぐ。久しぶりに魔法を使ってみたが、手応えとしてはまずまずと言ったところか。




 殺気。宇宙の暗黒と星の光が揺らぐ、奇襲か。




 宇宙空間に擬態していた甲冑が俺様にメイスを振り下ろしてきた。


 不覚にも、甲冑の双子いや同一の個体と言える分身が繰り出した得物には防御せざるを得なかった。




「この戦いは貴方に勝ち目はありません。何故なら貴方はたった一人。我々『否定する者』は大勢だからです。降伏しなさい。そうすれば、我々は貴方に安らかな『否定』を約束しましょう」




 降伏勧告か、笑わせる。しかも数の優位で俺様に勝てるらしい。


 その証拠に鎧が二体挟み撃ちにしてメイスを振り回し、羽虫と爬虫類を混ぜた雑魚に援護射撃をさせれば勝てると思っているのか。




 覇道はどうじゅう操流そうりゅうふんげきせしぞう奥義おうぎぞう歩圧裁ほあっさい




 俺様は両椀と両足の力を集中して高め、大きな図体とそれに見合う力を持つ象が容赦無く暴れる様に、掌底と前蹴りを甲冑に放つ。




 この技は平行世界で、獣いや動物等の振る舞いを体現する戦い方獣じゅう操流そうりゅうと言う大きな流れから生まれた。そこから細かく派生した流派の一つに憤激せし象がある。


 光を超える俺様なら挟み撃ちしてきた両方を同時にペラペラにできる。




 覇道はどう森羅しんら一体流いったいりゅう旋風つむじがま奥義おうぎ断頭だんとうりん




 俺様の弧を描く蹴りは刃の如き鋭い風を起こし、甲冑をまとめて切り裂いた。


 自然現象を体現して引き起こす戦い方森羅しんら一体流いったいりゅうじゅう操流そうりゅうに匹敵する大きな流れだ。そこから派生した流派に旋風つむじがまがある。




 意図的に力が弱まっていくので倒し方を変えたのだ。




 出力の高いビームが飛んできて俺様に掠る。


 今のは虫けらじゃない。弓矢だ。無駄に精巧で非効率な仕掛けにくくり付けられているせいで、簡素で美しく奥深い運動を魅せる武器がとても美しくない。




 今、俺様には一万の矢が包囲している。あの甲冑が変身し高速で分裂したみたいだ。ついでに虫けら一万二千も加わっている。




「貴方の負けです。これより貴方を否定します」




 全方位から俺様に放たれるビーム。まともに喰らってみたが、言うだけの事はある。一日中喰らえば死ねるな。


 当然、そんなのを許す俺様じゃない。次が飛んでくる一瞬の間に全身の力を解放する。




「ヌハッァ?」




 一万の驚愕と言うのは耳障りだが悪くないな。


 純粋に黒く何者にも染まらぬ拒絶の闇が、包囲する二万二千の敵を塵も残さず破壊していく。




 俺様が寝るのと同時に張っておいたバリアには大分劣るが、雑兵を蹴散らすには十分すぎるくらいだろう。




 大きく広げた闇を消すと、色に塗れた鉱石状の触手が俺様の全身に絡み付いてくる。


 縛る力がどんどん強まるごとに、内側が触手に侵食されるのが分かる。


 くす、ぐったい。




 全ては我が止める。お主は力を使うどころか、無い知恵を振り絞る事すらままならぬ。我の名は動きを否定する者ムィーパー。このまま世界を我の体で満たしてやろうぞ。




 殺す。




 蝕しょくせ、ねちょねちょねちょねちょじゅくじゅくじゅくじゅく。




 ぬっ(触手女の狼狽え)




 躙にじれ、ぎちょぐちょぎちょぐちょぎちょぐちょぎちょぐちょぎちょぐちょぎちょぐちょ。




 かき回せ、存在を十に増やし、否定、女性性、高慢、恐れ、使命、玉座、触手、球、エーテル、反物質を。




 その全てを捻じって引き伸ばし、ズタズタに切り裂け。




 きゃぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ




 よし、奴の搾りカスとなった精神に、縮退する狂気と増殖する「ZZZZ¥“:パφ☆@すっむ†%ほQxΣ」を差し込んでみよう。




 邪魔が入った。精神介入に気を取られて、俺様の全身が強烈な炎熱に放り込まれた。


 恒星の中、どうやら中心核に近い放射層辺りか。この辺りには無かった筈だが。




「はぁはぁ、よけいな事を。我の触手が焼かれたではありませんか。ディメクソード」




「ん。星の中に放り込んで否定できるなら、それで構わんだろうに」




 恒星越しから見た。


 ディメクソードとか言うとぼけた奴は、玉虫色をした布状の体をしていて、丸く縁取ったガラス状の単眼は突き出していた。




 精神介入に気を取られていたが、俺様は奴に転移させられた違和感は無い。転移させたのは恒星の方。で、触手女に振り払われて放射層に放り込まれたわけだ。




 魔法・エネルギー吸収。手から吸い込む渦を現し、恒星の力を五パーセントくらい吸収。




 宇宙の定理禁則事項第五項・γ線バースト放射。




 恒星の灼熱を遥かに凌駕し、吹き飛ばす超極大のビーム。


 細かいところはめんどくさいから省かせてもらうが、今俺様がいる恒星が自然に爆発したって出せないエネルギーだ。触手女と布は消滅した。




 飛び出すと、てかりのある華奢な体躯に両腕だけは立派な鋏をした奴が、俺様を待ち構えていた。




 鋏をクイクイと前後に動かして「かかって来い」と挑発。γ線バーストを生き延びていたとしたら期待できる相手だ。




 参る。俺様は光速を超えた速さで迫り、華奢な身体の腹部に拳を叩き込んだ。


 手応えが無い。


 反撃の殴打を防ぐ。かなり重い。腕を折られたが瞬間的に直した。




 俺様は細工と殴り合いをしている。さっきから殴っても手応えが無い。だが、奴の放つ攻撃はまるで俺様の放つ技みたいに重い。




 俺様は腕を鋏で斬らせた。ただし、その腕は魔法で爆弾に変えておいた。故に爆発する。


 なるほど。損傷は見受けられるが爆発エネルギーを吸収したか。




 覇道はどうじゅう操流そうりゅう孤高ここうたか奥義おうぎくうえん




 俺様は鷹が獲物に襲いかかるが如く蹴りつけ、獲物の周囲を飛び回るようにして隙を伺い、今度は拳を叩き込む。


 これに魔法・エネルギー吸収を組み合わせる事で、細工から奪われる分を奪い返してプラスにする。




 覇道はどうじゅう操流そうりゅう孤高ここうたか奥義おうぎ鷹襲烈下ようしゅうれっか




 孤空演舞である程度痛めつけたら、一気に舞い上がり急降下。両膝による一撃で繊細な花とも言える細工の頭から華奢な全身を捻じ曲げた。




 魔法サードハンドチェーン。無重力によって離れていく細工を鎖で捕まえ、俺様の前に引っ張り上げる。


 エネルギー吸収で塵一つ残さず全てを頂くとしよう。




 それを邪魔しようと青白いビームが散弾して飛んでくる。


 渦がバラバラに壊れた。発動した魔法を狂わせ、ダークマターの流れを散らして一部を対消滅させたな。




 情けないが、俺様は飛び退いた。青白いビームの散弾その第二波だ。エネルギーだから吸収できると思って高をくくっていた。




「恐れたな。無理もない。俺の名は魔法を否定する者デャンペリウォン。魔法使いの天敵。否定する者のエースの名だ」




 レンコンいやリボルバーと言う形式の発射装置から念話が飛んできた。奴は銃と言う弓を発展させた複雑な装置の集合体で、全体的な形状は人馬に近い。




 銃の塊が放ったビームを浴びた細工から戦う力を感じる。魔法を否定するとのたまっている癖に回復魔法を使うとは解せん。




 俺様は細工と銃の塊による連携に少々手を焼いている。


 エネルギーいや、どちらかと言うと質量を奪う細工の攻撃を直撃してはならぬ。




 魔法による煉獄の再現、雷で作った巨大な槍、強大な振動から放つ衝撃波。エネルギーを奪うのが苦手な細工にはどれも有効な攻撃になる筈なんだが、銃の塊がビームを何発か撃つだけで消される始末。




 銃の塊をバラそうとすれば、細工が奇襲をしかけてくる。余裕でかわせはするが攻めあぐねる。




 だから俺様は待った。細工の大雑把でぬるい格闘、銃の塊が放つ無駄に多芸なビーム。その全てをかわしながら。




 細工は衝撃波を放ち、俺様から一気に距離を取った。




「逃げんなよ、ッォンド。お前は俺に次ぐエースだろ」




 銃の塊から非難が飛ぶ。




「はァっ?!」




 遠いから気付かなかったようだが、ちと遅いな。一度大穴は空けたが、まだまだ生きのいい恒星を引力で引き寄せていた。本来ならすぐ終わるんだが、何度も吸収してくるから時間がかかった。




 俺様は逃げていく細工と銃の塊に向かって恒星を投げ飛ばす。




 手に持って投げたわけではない。


 ある程度引き寄せたら、俺様が重くなって公転軌道に乗せて加速。恒星が放つ磁力を全て一つに束ねて磁極を統一し、後は俺様が同じ磁極を出せば、反発力で玉突きみたいに吹っ飛ぶ。




 奴等はγ線バーストの直撃には耐えられない。耐えられてもせいぜい残滓。恒星に喰わせるだけで十分。小さい断末魔、恒星の燃焼の変化、一番の証拠は存在を感じない事だ。




 俺様は攻撃してきた軍隊の残りを探った。γ線バーストでは消しきれなかったが、ゴミはざっと百万、名前が付いてそうなのは三十ぐらい残っているか。




 飛ばした恒星に力を加え、更に加速。奴等の逃げ惑う姿が手に取るように分かる。




 宇宙の定理禁則事項第七項・強制超新星爆発。




 飛ばした恒星の燃焼速度を一気に加速させ膨張、中心核を潰して大爆発。今ので減らせたのは半分くらいか。




 宇宙の定理禁則事項第六項・ブラックホールの誕生。




 爆発した恒星の残骸をブラックホールに変えた。


 それを俺様が遥か遠くから動かす。




 奴等の末路は三つ。


 ブラックホールの中心に落ちて消滅。


 ホールの外縁部の摩擦熱に焼かれてジェットの一部となって吹っ飛ぶ。


 噴き出すジェットか更に強力なγ線バーストによる焼却だ。




 運が良ければ、持ち場から大きく弾き飛ばされるだけで済む。


 奴等の敗因は俺様の手許に恒星を持ってきた事だな。おかげで余すことなく有効活用させてもらったぞ。




 ぅぅむ。小物はともかく名前が付いてそうなのを一気に殲滅したのは、ちと心残りだ。


 目新しい能力じゃなかったとしても、久しぶりに俺様に戦いを挑んできたのだ。見せ場くらい作ってやって倒した方が良かったか。




 いや、おかしい。一番強そうな布だってあの程度だ。爆発とブラックホールに耐えられる実力でないとな。




 しかし、戦いを楽しんでいたのは事実だ。それに奴等が何者かも聞きそびれた。反物質を宿す存在なんていなかった筈。




 待て。俺様の思考がおかしい。俺様が後悔している。確かに興味深いが、今となっては虚無に消えた存在。


 何者かが俺様の思考を犯している。さっきの触手女とは違う方法だが。まだいる。




 俺様は一度思考を放棄し思考を組み直した。そして、違和感を見つけた。俺様の中に未知のウィルスがいる。思考を書き換える性質みたいだ。




 滅殺。




 俺様は槍に蛇が絡み付いた形状の奴を睨みつけた。ウィルスの発生源だ。




「遅いね」




 挑発と同時に俺様の全身が様々な方向に捻じ曲がる。


 ウィルスではない。俺様の体が突然発光し、波と線でできた幾何学模様が浮かび上がっている。




「創造主よ。お前と言う奇跡は否定されました。お前の万能の奇跡もまた否定されました」




 物質的肉体ではなく反物質をダークエネルギーで包んだ不定形。大物だが、仕える僕みたいな態度。最低でも五本指、右腕くらいの実力か。




 治った事だし、殺すか。


 動けない。今度は立方体をジグザグに配した模様が檻となって俺様を閉じ込める。




「間もなく、創造主を否定する聖なる光がやってきます。そして、創造主が残した世界と言う奇跡は『否定する者』が全て否定するでしょう」




 迫ってくる鮮烈なる光。


 勢い範囲その全てが、俺様を驚嘆させる程の甚大さだった。あの反物質の力をまともに喰らえば、ひとたまりもない。




 俺様はダークオーラで檻を破壊。




 光を凌駕した俺様は過去に流れるタキオンを生成し、未来に進むクロノンの壁を突破。一秒前に戻る。それを計三回くり返す。




 動けなくなった俺様の上に現れる俺様。時間跳躍を始める直前が頃合いだ。




 魔法で水の激流を創り出し、二体をまとめて閉じ込める。中に十三の魔法陣を重ね、瞬く間に六百六十六の苦痛を浴びせる。




「ダーク……フォース」




 全てを塗り潰す漆黒。世界を絶望で満たしたい破滅的欲求を顕現した闇黒あんこくを放つ。


 闇魔法の中では最も威力のある魔法。超新星爆発と同等の破壊力にまでなるよう俺様は力を込めた。




 俺様の動きを封じた二体と反物質の光を撃ってきた大砲は消滅した。


 もう一度存在を探る必要がある。




 なっ。




 過去に、飛んだ奴が……いる。




 改竄が始まる。




 次々と飛んできた歯車やネジ。痛めつける苦痛が俺様を襲う。




 目の前には鮮烈に輝く反物質の光。


 存在を否定し、全てを無に帰す。


 生きる事を苦痛に変え、死ぬ事を是ぜとする解放感に飲み込まれる。




 俺様は反物質の光を持てる力で対消滅させた。消耗が激しくて動けん。失ったエネルギーが多すぎる。




 俺様が光速を超えた拳に殴られる。


 背中を蹴りつけられた。




「俺ッちは否定する者最速。復活だって速いんだぜ」




 右腕を伸ばし、手の平から放つ鋭い棘が俺様を貫く。




「一番乗りもトドメを刺したのも、この俺ッち、速さを否定する者リィズァだぁぁぁぁぁぁぁぁ」




 勝ち名乗りを上げてる奴は、俺様が拳で粉砕した筈だ。


 背中が重い。




「美味そうな匂いがする。これが創造主」




 芋虫みたいな醜い指をした手が張り付いている。


 喰われた。酸がじわりと溶かし、噛み切られていく。




「美味い。食べ応えのある帝王の肉。芳醇でコクのある闇。そしてなにより、この迸る創造の甘美なエネルギー。ああっ、これぞ世界に存在する正に究極に達した至宝。その全てを余すことなく食せるなんて、この世界の言葉で言うなら、エッックゥセレェント」




 うるさい。しかし、俺様を食すとそう言う味がするのか。




「君が持つ創造主の力は否定しても否定しきれないほど絶大だ。失うのはもったいない。だから、最強を否定する者ナティティルに君を食べてもらって、是非とも今後の否定に役立てようと思うんだ」




 俺様を見下し、悦に語りかける巨大な光。こいつが『否定する者』の大将か。


 分かるぞ。こいつは典型的な理想主義者。おせっかいだ。




「無礼者」




 回転する歯車が無数に飛んできて俺様を襲う。




「我等が偉大なる全知全能の否定者に頭が高いぞ」




「貴様」




 時計の内側、細かい部品から成るカラクリでできた頭部や身体が、偉そうに黒いローブを纏っている。




 こいつだ。




 俺様がダークフォースを撃った後の時間軸から、俺様が過去に飛ぼうとする直前の時間軸まで遡り、奇襲をしてきた。結果、俺様がダークフォースを撃つ未来は失われ、反物質の光を受ける時間軸に書き換えられた。




「痛いですよ。パスティオン様。巻き添えは食べられません」




「黙れ。己は食うのが使命だろ。偉大なる全知全能の否定者の御前から、その醜悪な存在を否定するのだ」




 全知全能と呼ばれる奴から子供みたいな笑い声が聞こえてくる。




「いいんだよ。独りで『否定する者』と戦争をしたんだ。今回は運良く勝てただけで、一手間違えたら全滅していたんだ。その健闘を称える為にも、最期を見届けてあげようと思うんだ」




 この嫌味。確かに『否定する者』の大将と言うだけの事はある。自らの手を汚さず、大量の部下を使った波状攻撃で勝つ。詰みを確定させた後、姿を現す(本体は確認できないが)


 単騎で戦った俺様を十分否定している。




「貴様は世界を否定して千年王国でも築く気か?」




「ふふふふふ、王国なんていらないよ。誰も幸せにはならないからね。上は無駄に肥え、下は醜く壊死する。やがて全てを不幸にしてしまう。うん破滅するだけの病気だね」




 矛盾しているぞ。


 貴様は時計、芋虫、速い奴、槍、僧侶から傅かしずかれている。王でなければ、なんなのだ。




「皆を幸せにしたいんだ」




 下らん。見立て通り、おせっかいな理想主義者か。




「君は幸せかい? いいや違うね。満たされないから君は寝ていたんじゃないかな」




「だからどうした。貴様には無関係だ」




「意思のある存在は創造主でさえ幸福を追求する。だけど、様々な要素が阻んできて、自分の幸福を棄ててしまう。例え幸福になれたとしても、得られる満足は一瞬だけ。後は手に入れた幸福を否定するだけ。こんなに可愛そうなことがあるだろうか」




 偽善が、吐き気がするぞ。




「世界は生を望む。皆死を遠ざけ、懸命に生きている。でも、実は嘘なんだ」




 今すぐ黙らせたいが、全身に力が入らない。芋虫め、俺様の力をかなり喰ったな。




「聴こえる。世界の本当の望みが。死だ。終焉だ。誰かに終わらせて欲しいと叫んでいる」




 そう言えば年老いた人間の学者も、生きたいだ、死にたいだを論じてたな。




「存在にとっての真の幸福は終焉。『否定する者』の使命はその望みを叶えてあげること。だから、生きようとする君と、君が創ってしまった世界に生まれた可愛そうな命を否定し、真の幸福に導いてあげたいんだ」




「貴様らにとっての幸福はなんだ?」




 俺様はどうにか口を動かし、大将に問うた。




「全ての世界を否定すると言う使命を全うし、僕達も安らかな否定を迎えること。完全なる終焉だよ」




 奴は笑っていた。




「ぅぁっ、ぁっ、ぁぁあっっ。力ぁ、力だ。こんなに溢れるなんてぇぇぇ。創造主はサイコぉだぁぁぁぁぁ。うましゅぎりゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」




 芋虫と胴体であろう手がかなり肥大化していやがる。あの狂乱ぶりからして、俺様のエネルギーの半分以上は腹の中か。




 俺様は敗北が嫌いだ。特に、こう言う偽善に溢れ、矛盾に満ちた輩に負けるのが大嫌いなのだ。




 俺様の手には、白銀に輝く美しい意匠の鍵がある。


 奴等には見えぬが、俺様の前には巨大な門がある。




 門を開けた。




 果てのある果てしない、巻き戻り突き進む、真実と虚偽が渦巻く混沌がある。こいつは多すぎて邪魔だから封印しておいた俺様のエネルギーだ。


 必要な分だけ取ったから門を消す。




 宇宙の定理禁則事項第一項・ビッグクランチ。




 リンゴを握り潰すみたいに、俺様は創った宇宙の全てをある一点にまで収縮して潰す事ができる。




 そして、今回のある一点は俺様自身だ。


 ぬぅぅぅぅぅっっ。痛い。イタイ。いたい。全身が握り潰れる。本来なら瞬く間の内に終わる筈なんだが、様々な邪魔が入って遅い。




 特に俺様自身の臆病が邪魔だ。




「こんな奇跡、否定できない」




「なぜだ。否定する者最速である俺ッちが、うご、けない?」




「パスティオン。ちょっと前に飛んで、さっきみたいに否定してよ」




「頼るな、ヴィクシャス。己の力でやれ。ナティティル、偉大なる全知全能の否定者から与えられた使命を全うしろ」




 無駄だ。


 芋虫には既に幻覚を味わわせておいた。エネルギー吸収で根こそぎ奪っておいたから、既に干からびているぞ。




 貴様らは死を望んでいながら、結局のところ至上の幸福と定めた死を恐れている。生きる事を望む存在と同様、下らん使命を言い訳にして死を先延ばしにしている。その証拠に、偉大なる全知全能の否定者は押し寄せてくる宇宙の力に抗っているぞ。




「いいのかい? 君は僕達と消滅する事を選んだんだよ」




「知るか」




 笑っているが、勝つのは俺様だ。貴様じゃない。




 宇宙は虚無に還った。






 宇宙の定理禁則事項第二項・ビッグバン。




 大爆発後、命令とアカシックレコードに保存した記録に基づき宇宙を再構築します。


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