第22話
勇者のお披露目が終わってから早数日、俺達はとある洞窟の中にいた。
「……」
大きく振りかぶった一撃で魔物を倒す。
赤く光る魔物の目から生気が消え、バタリと倒れる。
「これは……凄いわね」
隣で魔石の山を作ったカナに褒められる。
「まさかあれだけの魔石を吸収しておいて、それだけしか成長していないなんて……あまりの弱さに尊敬の念を覚えるわ」
「そりゃどうも」
嫌味ったらしい言い方もこれだけ一緒にいたなら慣れたものだ。
てか 、基礎スペックがチートの相手に小馬鹿にされても傷付く要素がない。
強いて言うのであれば、役に立たない自分が恨めしいくらいである。
「それにしても、こんな場所に本当にいるのか?」
「文句を言うなら来なくてもよかったのよ?」
「いや文句ってわけじゃないが……にわかに信じられないと怒ってな」
聖女セレンの呪いを打ち払う目標を立てた俺とカナ。
それから魔王に関する情報を集める中で、こんなやり取りが生まれた。
◇◆◇◆
「これも違うな……これも……いやもしかしたら……」
「……」
「おいカナ。お前も少しは手伝ってくれ。めんどくさい気持ちも分かるが、俺の命が掛かって」
「少し黙って」
カナは真剣な表情で何かを考えた仕草を見せる。
「権力者が情報を集めているにも関わらず糸口すら見えていないのなら、これ以上都内で調べても意味ないわ」
「まだ何か残ってるかもしれないだろ?それにこの国の連中じゃ気付けないことも、カナなら見つけられるはずだ」
「シェイドが私に全幅の信頼を置いているのは分かったけれど、私は天才であっても神じゃないわ。それに、私が気付くことをあの聖女が気付けないとも思えない」
なんだかんだでセレンのことを高く評価していたカナ。
元々相性良さそうとは思っていたが、これなら仲間になっても安心出来そうだ。
その前に俺もセレンも死ぬかもだが。
「必要なことは新しい情報でなく、新しい切り口。何かないかしら?」
「何かないかって……カナが考えられないことを俺が分かるはずないだろ」
「別にいくらシェイドが卑屈になろうと構わないけれど、あなたにはあなたの武器があるの。その武器で何か捻り出しなさい」
「原作知識で……か」
俺は記憶を蘇らせる。
ゲームの中で見た魔王に関する知識を取り出していく。
「とりあえず前にも話したと思うが、魔王が生み出したのが魔物。そんで魔族を生み出しているのが神だってことだな」
「散々言ってたわね。魔王を倒せば全て解決すると思ったらそうでなかったというオチね」
「あの時の気分は最悪だったな」
全てが終わりハッピーエンドかと思えば、まさか魔族が生きてた的な展開は驚いたな。
「よく考えたらそりゃそうだって話なんだけどな。魔族の中でとびきり強い奴が魔王になるんだから、人間の王様を殺しても人が死なないように、魔王を倒したところで魔族は死なないんだからな」
だから物語は神話編まで続くわけだが
「今とは関係ないよな」
「……そうでもないわ。魔王もあくまで魔族なら、魔族に呪いを聞くのが手っ取り早いのじゃないかしら?」
「あー」
俺はとある魔族を思い浮かべる。
彼ならもしかしたら俺らに協力してくれると思うが、今のレベルじゃ確実に向こうまで辿り着けないし無理か。
「魔族はお喋り好きだが、さすがに魔王に関する情報を渡す程バカじゃないだろ」
「そこはあれよ。拷問して吐かせればいいわ」
「うっわ」
平然と恐ろしいこと言うなこの女。
ま、ある意味頼りになるけど。
「それじゃあ魔族が潜んでいそうな場所を調べてくるわ。今夜また情報を照らし合わせましょ」
「あいよー」
こうして俺達は魔族を探し求め、洞窟へと向かったのだった。
◇◆◇◆
「それにしても本当に弱いわ。シェイドのレベルを上げる必要はあるのかしら?」
「一応……というか、俺の中には魔王の残滓があるって話をしただろ?だから俺のレベルが高いと、オースが俺を倒した時に大量の
「将来戦うのに育てるなんて酷い矛盾ね」
「仕方ないだろ。魔王を討伐しなきゃ否が応でも世界は滅びるんだから」
このバランスが本当に難しい。
この世界にはコンテニューがあると思えないし、オースが負ければ魔王を倒せる存在がいなくて世界消滅。
そんでオースが育ち過ぎれば俺の命はない。
一応これくらい育てば魔王に勝てるというラインは分かっているので、とりあえずそれくらいまで育つようバックアップしていくつもりだ。
バックアップというか、俺がアホみたいにボコられるだけなんだけど。
「はぁ……今から想像しても憂鬱だ。痛めつけられると知りながら挑んで、嫌われ、そんで集めた魔石を持っていかれる。こんな悲しいことあるかよ……」
「そんなことばかり考えるからシェイドは卑屈で根暗でジメジメしてるのよ。もっと楽しいことを考えてなさい」
「一言も二言も多いんだよカナは」
楽しいことね〜。
「そうだな……チートキャラで神様ボコリに行くとかどうだ?」
「それ何が面白いの?」
「いや面白いだろ。あの世界が産んだバグみたいな強さの連中が戦うんだ。俺からしたら全財産叩いてでも見に行きたいもんだけどな」
「意味が分からないわ。私は別に戦うのとか好きじゃないのだけど」
「分かってるよ。それに、俺の仲間にしたい連中の殆どは戦闘否定派ばっかだしな」
カナ然り、セレン然り、■■■然り、みんなが好きなのは戦闘よりも平凡な日々なんだよな。
正直俺は死にたくないが、戦うのは結構好きだったりする。
やっぱりシェイドをお気に入りにしたり、俺って多分性格悪いんだろうな。
「じゃああれにする。温泉旅館にみんなで行くとかどうだ?」
「あら、いいじゃない。温泉を捻り出せる能力を持つ人とかいないのかしら?」
「そんなピンポイントな奴いないだろ……」
でも仮にいたとしたら、カナにコピーしてもらおう。
そしたら辺境の地で温泉旅館とかでスローライフを送るとか楽しそうではないか。
「いいな、なんか気分が乗ってきた」
「そう。それは良かったわ」
「今ならこの絶望的状況でも気分が晴れやかになるな」
「人間か?何故こんな場所に……」
そこには一匹の魔族がいた。
それがただの普通の魔族であれば、今のカナならギリギリ勝利出来る。
だが、今回の魔族はその普通からは離れた存在。
「中級魔族がなんでこんな場所にいんだよ」
普通の魔族にある羽よりも禍々しく、角が通常と違い一巻きされた見た目をしている。
魔族の角にはそれぞれ強さを示すものがあり、この魔族は村を襲った連中よりも一つ上のランクに値する。
ストーリーの位置付けとしたら魔族編の序盤に出てくるような敵だ。
少年期編が終わったばかりの今に出てくるような敵じゃない。
てかなんで王都の近くに魔族がいんだよ。
知能の低い魔物ならまだしも、魔族なら王都の近くがどれだけ危険か分かってるはずだ。
もし偶然、美人なのにその年まで彼氏の一人もできてない騎士とバッタリ遭遇してしまえば、一瞬でその命を散らしてしまう場所が王都だ。
だからこそ、こんな場所に魔族がいるかもというカヤの情報が信じられなかった俺なのだが
「予想通りにならないことばっかだな」
「アイギスだったかしら?悪いけど、彼女を呼んでくれると凄く助かるわ」
「これ、動いたと同時に殺されるとかじゃないよな?」
慎重に逃げの算段を模索する俺ら。
カナが殿をし、俺が助けを呼ぶことがベストなのだが
「まさか計画がバレた?いや、そんなはず……」
何かブツブツと呟く魔族。
おそらく相手も俺らを警戒しているのだろう。
見られたからには口封じに殺したい、だけど仮に騎士がいるのなら逃げるしかない。
そんな葛藤を魔族は抱いているのだろう。
「もしかしたら、交渉すればいけるかもしれないな」
「かなりの博打よ?」
「逃げるのも似たようなもんだろ。下手に弱みを見せるより、余裕がある方が都合がいいかもしれん」
それに
「運が良ければ情報も取れる」
「普段ネガティブなくせに、こういう時だけ頼りになるわね」
「相変わらず一言が多いな」
そんなわけで
「魔族さんや。少しばかり取引をしないか?」
「取引?」
命を掛けた話し合いの始まり始まり。
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