第17話

「少し中を見て行くか?」

「いいのか?俺は部外者だが」

「まぁ見られて恥ずかしいものはないからな。困るものはあるが……」

「それ大丈夫じゃないだろ」

「まぁ私は君を信頼している。つまり大丈夫だということだ!!」


 アイギスはサムズアップをするが、俺には何故そんなに自信満々なのかサッパリだ。


 まぁ……悪い気はしないが


「何か言われないといいがな」

「私はこれでも隊長だからな。私が許可したなら大抵のことは許され」



 ◇◆◇◆



「今回は特別に申請を出しますが、今後二度とこのようなことがないようお願いしますよ」

「はい、すみません」

「あなたも」

「なんで俺まで……」


 途中で真面目そうな騎士に止められた俺とアイギスは、数十分長い説教を食らった後、手続きを終え正式に見学することとなった。


 普段とは違い腰が曲がったアイギスを見られたことは役得だが、俺まで怒られたのは許せん。


「話が違う」

「私も予想外だ。あいつには昔、稽古をつけてやったんだがまさかこんな形で報われるとは思ってなかったな」

しごき過ぎたんじゃないか?」

「そんなことはないぞ?剣の持ち方が雑だったからな。癖を治すまでひたすら素振りさせただけだ」

「ちなみにどれくらい?」

「大丈夫だ。朝夕は食わせた」


 アイギスの大丈夫は信じないようにしようと心に誓った。


 長い廊下を歩く。


 何度か通り過ぎる騎士はアイギスに軽口を叩きながらも、最後は必ず礼をしていく。


 それは後輩と思わしき者から、明らかにアイギスよりも年上の者まで。


「慕われてるんだな」

「直接言われると照れるな」


 アイギスの端正な顔が少し綻びる。


「そういう君も、村の者達にとってのスターじゃないのか?」

「まさか。結局俺らが生き残れたのはアイギス、そして魔族の注目を集めたオースのお陰だからな」

「謙虚だな」

「事実を言っているだけだ」


 そう、あの計画は俺一人じゃ決して実現できるものではなかった。


 先ほど言った二人は勿論、皆の心を一つにしたラーク。


 火の海に真っ先に飛び込んでくれた母さん。


 そして何よりも


「やっぱり俺は無力だ。今も、そしてこれからも、誰かの力を借りなきゃ生きていけない」


 それを恥じるつもりはない。


 努力なんかでは到底埋めることの出来ない差は存在する。


 綺麗事だけじゃ生きてはいけない。


 だから俺は


「ありがとうアイギス。俺を……みんなを救ってくれて」


 全力で頭を下げる。


「本当に、ありがとう」


 俺に出来ることはこれくらいだ。


 俺はヒーローなんかじゃない。


 ただの薄汚い噛ませ犬だ。


 必死に足掻き、薄汚く立ち回り、恥に恥を塗る生涯を送る。


 俺に許された道はそれしかないのだから。


 それでも一緒にいてくれる存在がいるのだから。


「頭を上げてくれ」


 俺は軽く目を閉じ、ゆっくりと頭を上げ


「ぬを!!」


 顔面に柔らかな快感が襲いかかってくる。


「君は立派だ。君自身がそれを否定しても、私は知っている。君の勇気ある行動が無ければ、必ず皆は無事ではすまなかったと」


 更に腕の力が強まる。


 ちょっと頭が痛い。


 幸せと辛さが同時に押し寄せてくる感覚は、どうにも得難い気持ちにさせられる。


「小さな英雄よ。私は君を尊敬するよ」

「皆の認める英雄にそう言われるとは光栄だな」


 名残惜しいが、ソッとアイギスを押し返す。


 熱いハグは無くなったが、彼女の目には残り火が熱烈に燃え盛っていた。


「暇な時はいつでも遊びに来てくれ。どうやら私は君を気に入ってしまったようだ」

「ストレートな告白は嫌いじゃない。ちなみに俺もあんたのこと、結構好きだよ」

「そうか。両想いだな」

「なんなら付き合ってみるか?」

「同じ手は食わないぞシェイド。そうだな、君が二年後に同じ台詞を言ったなら本気で検討しようか」

「そりゃ願ったり叶ったりだな」


 それは、ある意味でこの世界に来てからの初めての友達だったのかもしれない。


 家族でも、相棒でも、守るべき者でもない。


 それが何だか嬉しくて、楽しくて、仕方がなかった。


「今日は記念日だ。どうだ?少し手合わせするか?」

「騎士団最強直々か。断る理由はないな」


 俺とアイギスはニッと笑った。



 ◇◆◇◆



「ハァ……ハァ……もう夜か」


 いつの間にか空には星が見えていた。


「大分いい動きになってきたぞシェイド。まぁ素人に毛が生えた程度だがな」


 アッハッハと笑うアイギス。


 普段なら文句を言いたいところだが、流石に体力が無さ過ぎて無理そうだ。


「そろそろ帰らないと、母さんが心配するが」


 俺は剣を握る。


 握力が死にかけていて、少し気が抜けば滑り落ちそうである。


 だが


「最後にもう一回、いいか?」

「ああ。いくらでも」


 アイギスも木刀を握る。


 ゲームでは分からなかったが、彼女が最強の理由がこうして見ると分かる。


 素の強さは勿論、動きに一切の無駄がない。


 生まれ持っての才覚を、長年の研鑽によって磨き上げている。


 まるで剣を持つために生まれてきたような、そんな感想すら覚えてしまう。


「惚れ惚れするな」

「確かにシェイドには才能はない。剣を覚えるのも遅く、力もひ弱。魔力も乏しいし戦闘の勘もよくない」

「分かってることだが、散々だな」

「だが」


 来る!!


「強くなれるよ」


 そして俺の木刀は空中を何回も回転し


「参った」


 地面へと深く刺さった。


「また、遊びに来るよ」

「楽しみにしてる」


 汗だらけの俺に対し、涼しい顔をしたアイギスと握手する。


「いつかアイギスを倒してみせる」

「それは了承しかねるな」

「いや、倒すよ」


 友達だからこそ


「絶対に」



 生きる為に。



 ◇◆◇◆



「魔族の来襲を共に退け、必ず私を幸せにすると誓い、同じ屋根の下で過ごし続けた最強天才パーフェクト超絶美少女の私を差し置いて、敵になるかもしれない相手とイチャコラした気分はいかが?」

「何怒ってんだカナ」


 家(仮)に帰ると、何故か部屋の中にいたカナが随分とご立腹である。


 糖分でも切れたか?


「帰りが遅くなったのは悪かったよ」

「ええ本当に悪いわ。お陰で退屈だったのよ。お買い物に行こうにも、もう直ぐ祭りがあるからってどこも休みになってたわ。ホント最悪」


 どうやら暇を極めすぎたらしい。


 机の上には物理法則にギリギリ反していない、トランプの芸術があった。


「聖剣が見つかったからな。オースのお披露目も兼ねた大規模なものになるだろうな」

「つまらないわ。あんな力だけのパッとしない男を祀って何が楽しいのかしら」


 パッとしないって。


 ゲームだとあなたデレデレでしたよ?


「何?」

「なんでも」

「……まぁいいわ。それより」


 カナはベットに倒れ


「そろそろ話し合いましょうか」


 その長い髪の毛が一気に広がる。


「私達の将来について」



 ◇◆◇◆



 少年期編と青年期編の間はゲームでは存在しない。


 14から16までの空白の二年間が出来るわけだ。


 その間に主人公オースのすることは、ひたすら聖剣の扱い方を覚えることである。


 聖剣はチート武器だが、その分扱いも難しい。


 軽く一振りしただけで海が割れ、大地を粉砕し、大気が悲鳴を上げる。


 周りへの被害を避けるためには、聖剣の力を抑えるか凝縮させるしかない。


 その方法をオースは二年間でひたすら覚える。


 そして前も話したが、その間に俺達は新たな仲間を集めることになる。


 ついでに、世界中にあるチート武器やアイテムも欲しいところだ。


「それで、私達の仲間って誰?」

「先に言っておくが、正直俺の今から言うことはほぼほぼ不可能に近い」


 そもそもチートキャラは物語の都合上排除されるキャラだ。


 強過ぎるあまり、もうこいつがいたら良くね?と思わせない為だ。


「この二年間で集める仲間は二人」

「少ないわね」

「いや、多いくらいだ」


 そう、それだけの難易度。


 チートキャラですら乗り越えられない苦難を解決するには、それくらい必要ということだ。


「まず一人目は、この国の第四王女リじqbぢゃlじゃhdkwjす。彼の能力はテレポートだ。自分、仲間、敵、全てを含めて移動させられる」

「確かに強力ね。マグマにでも落とせば勝ちじゃないかしら?」

「どうだろうな。オースならマグマから飛び出てくるんじゃないか?」

「それはさすがに引くわ」


 まぁカナも将来似たような存在になるんだがな。


「王子ね。骨が折れそうね」

「周りの障害や本人の意思も含めて色々問題だ。接触するための方法をいくつか考えてるか、成功できるかは運次第だな」

「私も色々と考えてみるわ」

「助かる」


 一人目の紹介は終わった。


「さて、次に最初で最後の一人目を紹介する」

「大丈夫なの?二年で経ったの一人しか仲間にしないつもり?」

「その一人がどれだけ大変か教えてやる」


 そう、俺らが仲間にする最初の一人目は

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