第15話

「す、凄い!!これも、これもお似合いになりますよお客様!!え、ちょ、これも似合っちゃいそう!!ご試着しちゃって下さい!!」

「なんだこれ」


 当初の目的である服の購入にやってきた俺ら。


 店に入ると


『いらっしゃ……超絶美少女きちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

『なんだこいつ怖』


 突然奇声を上げた店員にカナが持っていかれ、先ほどから何着もの高そうな服を着させられている。


 本来なら文句の一つも言いたいとこだが


「どうかしら?私にピッタリだと思わない?」

「はいはい、そうですね」


 当の本人が先程からそれを全力で楽しんでいるように見える。


 さすがにこれじゃあ悪質クレーマーになってしまう。


「ダメですよ彼氏君。こんな美少女は褒めなきゃ人生の損でーーうひょおおおおお客様、とってもきゃわいいですよぉおおおおおおお!!!!」

「そこまでは無理だろ流石に。てかお前は誰なんだよ」


 店員の女性がさっきから執拗に話しかけてくる。


 ここ結構高級そうな場所のはずだが、入る店間違えたか?


「おっふ、お客様。大変お似合いで興奮してきますぅ」

「あら、ありがとう。こちらの服も私に負けず劣らず中々の出来よ」

「グヘヘ、美少女に褒められちゃった」


 本当になんでこの人採用されてるんだろ。


 てか、そもそも俺の知ってるキャラに似てるのもなんか腹たつ。


「なぁお前」

「お客様!!次はこちらを!!当店指折りの商品です!!本来なら王族用ですが、私の貯金カットでいけますんでいっちゃって下さい!!」


 もう手遅れなんだなこの人。


 救い用がないらしい。


「これ、本当にいいの?」


 さすがのカナも躊躇う。


「いいんですいいんです。正直、このお洋服があのブサイクの第四王女に付けられたらと思うと虫唾が走っていたところでした。ですから、その子の初めてはお客様のような美少女にと」

「あんた不敬罪で首飛ぶぞ?」

「あはは、万事大丈夫です。私、これでも意外と顔がききまして」

「あんたがそれでいいなら文句はないが……」


 その後、しばらく店員に何故かカナとの思い出を語ることになった俺。


 言い辛い場所は適当な言葉で濁したが、それ以外のところは馬鹿正直に話す。


「運命じゃないですか!!いいなぁ、私もいつか白馬に乗った王子様が現れないかなぁ」

「どこをどう聞いたらそうなるんだ?それに、あんたくらい美人なら……なら?」

「はい?如何されましたか?」

「い、いや、何でもない」


 俺は今さっき何を疑問に思ったんだ?


 そう、この店員はどこにでもいる普通の人で、普通の容姿の筈だ。


 何故さっきから疑うようなことばかり考えているんだ俺は。


「……それにしても遅いな」

「中々難しい構造ですからね。お手伝いした方がよろしいでしょうか?」

「いや、カナが失敗するとは思えない。どうせ何か企んでるんだろ」


 俺は試着室の前に立ち


「おいカナ、何かあったのか?」


 返事はない。


 だが、微かに中から音は聞こえてくる。


「……開けるぞ。着替え中でも文句言うなよ」


 そして俺はその扉を開けたことを


「……」

「その……」


 後悔するのであった。


「す、少し肌が露出し過ぎじゃないかしら?私はもう少し控えめな方が好みというか……な、何か言いなさいよ」

「あ……いや、に、似合ってると……思う」

「そ、そう。見たならもう閉めて欲しいわ」

「わ、悪い」


 俺は扉を閉める。


「クソ……」


 黒い髪を際立たさせるような、白いドレス。


 肩を出し、どこか扇情的な様は青少年には少し刺激が強いものがあった。


「あれ?あれれ〜?お客様様一体どぉ〜されちゃったんですかぁ〜?まさか胸がドキドキしちゃってるんですぅ????新たな感情に目覚めちゃってますぅうううう???????」

「おま!!ウザ!!ウザいな!!お客様は神様って知らねぇのか!!」

「あはは、神がいるなら是非ともこんな世界を作ったことを後悔させてやりたいですねぇ」

「色んな意味で無敵だな、あんた」


 王族、そしてそれに匹敵する聖女を代表とした教会にまで喧嘩を売っていくアウトロースタイル。


 正直嫌いじゃない。


 でもウザい。


「どんな気分ですかお客様。今まで家族同然だった人が、こうしていつもとは違う姿を見てしまい一人の女の子だと自覚した瞬間は」

「お前を合法的に殴る方法がもう少しで思いつきそうなレベルの感動だ」

「そんな、照れてしまいますよお客様」

「よし、殴ろう」


 ガララ


「お、お待たせ」

「あ、ああ」


 いつもの格好で試着室から出てきたカナ。


「あ、ありがとう。これ、返すわ」

「あげます、お客様ぁ」

「王族用なんだろ?さすがに死なれるのは後味が悪過ぎる」

「お優しいですね、お客様」


 店員はカナから服を受け取り、適当にそこらに投げつける。


 本当に無敵だ。


「さて、色々とご迷惑をお掛けしました。こちらお詫びの品です」

「いや迷惑ではあったが、さすがにそれは……」


 店員が渡してきたものは、カナが最初に着けた服。


 俺もカナに似合うと心の中で思った物だった。


 それと男用の物。


 しかも社交用で、まるで俺が今から面会に行くことを察したような物だった。


「あんた一体……」

「し〜」


 店員は俺に向かってウインクする。


 すると一瞬、姿がボヤける。


 ん?


 どこかでこの顔……っ!!


「お前まさか!!リリーー」

「それではまたお会いしましょう、お客様」

「……あれ?」

「どうしたのシェイド。早く出ましょう」

「ああ、そうだな」


 俺とカナが店を後にする。


「……ラッキーだったな。まさか店の1万人目の客だったとは」

「ええ。きっと私の豪運のお陰ね」

「はいはい、さすがですねお姫様」


 こうして俺とカナは無事に目的の品を手に入れたのであった。



 ◇◆◇◆



「リリア殿下、そろそろお戻りの時間です」


 突然現れた男は先程の店員に膝をつく。


 その様子に、女は大きなため息を吐いた。


「はぁ、気分最悪。せっかく美少女と彼に出会えたのに、萎えちゃった」

「申し訳ございません」

「……いいよ別に。悪いのはクソジジイなんだから」


 美女は姿を変える。


 否、姿を別のものへと見させていた。


「偶然服を取りに来てよかったぁ。まさかアイギスが絶賛する人に会えるなんて、生まれて初めて運が向いてきたのかも!!グヘヘ」


 くるりと周り、その淡いピンクの髪がフワリと浮かぶ。


 口調はおっさんだが、見た目はどこを切り取っても可憐な少女である。


「また会おうね。カナお姉ちゃん、シェイドお兄ちゃん」


 その少女、未だ10歳。


 若き天才、類稀ない美貌。


 それらの称号を一切捨てた稀有な存在。


 第四王女リリア


 その能力は


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「ちょっと誰?人のことを勝手に覗かないでくれる?」


 子供らしく怒る少女こそは、シェイドの求めるチートキャラの一人である。

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