第14話
「なんかお茶があった」
「気を遣わせすまない。ありがたく頂くよ」
俺は置いてあった茶葉を使い、お茶を入れる。
一応貴族の一員であるアイギスは、丁寧な所作でそれを飲む。
「美味いな」
「こういうのより肉を食ってそうなイメージだが」
「ムッ、これでも私は乙女の一員だ。あまり生意気な口を利くと叩くぞ?」
あんたに叩かれたら死んじまうよ。
冗談だとアイギスは柔らかい笑顔を見せ、もう一度飲み物に手を付けた。
「それで、何の用だ」
「ふむ、お土産話は嫌いなタイプか?」
「別に。好きでも嫌いでもないが、お前がここに来た理由が気になりすぎてな」
「そうか。一目惚れしたと言ったら、どう思う?」
「大歓迎だな。そのまま嫁ぎたいくらいだ」
「私が婿なのか?まぁいい」
アイギスは茶をテーブルに置き
「例の約束……君の存在を秘匿し続ける件を破棄することにした。一人の騎士として、君が国に多大な貢献、もしくは大きな被害をもたらすと私の勘が言っている」
「……」
俺は自分でいれたお茶を飲む。
上手く出来てなく、味が薄い。
正直言って、あまり美味しくないな。
「アイテムボックスについて、教えてくれないか」
「いいだろう」
あからさまな俺の話題の転換に、アイギスは文句も言わず付き合う。
向こうとしても俺に不義理があることは承知なのだろう。
彼女らしいな。
「アイテムボックスとは、極少数の人間に宿される力。所有者がいないと判断された物、もしくは本人の所有物を無制限に異次元の空間に収納できる。全ての商人が喉から手が出るほど欲する力だ」
まぁ大体俺の知ってる通りだな。
「極小数とは、具体的にどれくらいだ?」
「そうだな。騎士団でいえば」
アイギスは一本の指を上げる。
「私くらいだ」
「さすが」
ここで新たな発見が出来た。
おそらくこの能力
「ゲームの重要キャラが持ってるのか」
通りで俺とカナ、そしてオースが使えるわけだ。
「それと次に、村のみんなは今後どうなる」
「しばらくはここに滞在してもらうが、後は自由だ。王都で働きたいのなら国が全力でサポートする。他の土地に行きたければ、同じく全力で支援しよう」
「そうか」
少し安心した。
「最後だ」
「いくらでも構わないが、どうぞ」
俺はボソリと
「彼氏っている?」
「彼氏か。私はこれまでの20年、一度もそういったこととは無縁の……ん?」
アイギスの言葉が止まる。
「え?あ、すまない。もう一度言ってもらえないだろうか?」
「彼氏はいるのか?」
「いないが……何故急に?」
「そうか、いないのか」
これであらかた情報は揃った。
少年期編と青年期編の間の時系列がよく分からなかったが、これで今の状態を幾分か把握出来た。
これは大きな収穫だな。
「もしや……私はその……く、口説かれているのだろうか?」
「口説く?」
ああ
そういえば、彼氏がいるか聞くのはナンパの常套手段かもな。
考えもしなかったな。
ここで違うと答えるのもなんだか勿体ない。
折角のチャンスだ。
「ただ気になっただけだ。あなたのような素敵な女性にパートナーがいないのであれば、狙ってみたくなるのが男の性でね」
「すて!!き、君はあまり私のことを知らないだろうに。思ってたよりも軽薄な男なんだな」
まぁ印象は悪くなったかもだが、許容範囲だ。
むしろ舞台に上がれたという点でいえば、プラスかもしれない。
それにしてもアイギス、普段は部下にも気軽に話すくせに恋愛面になると弱過ぎるな。
目の前にいるのはまだ14の子供だぞ?
「素敵か……。今まで数多くの賛美を受けてきたが、そうやって私の武力以外を褒められたのはなんだか久しぶりな気がするな」
「そうなのか?お前の部下なら手放しに褒めてくれそうだが」
「あいつらは生意気だからな。私には賛辞の言葉よりも、共に高め合う言葉を欲してるのを察するんだ。だから私に合わせてわざと軽く接してくれる。本当にどうしようもない奴らだ」
「……大切なんだな」
「騎士の皆は私の家族だ。戦場で背中を任せるのに他人は不安なんでな」
「違いない」
酒は飲んだことないが、ここに一升瓶でもあればよかったろうにと思ってしまう。
「それで?誰に会えばいい」
アイギスは誠意を見せた。
ならば、俺も腹を括る覚悟を示すべきだ。
「騎士団の団長、私の上司だ。彼の采配で君の今後の方針が決まるだろう」
団長か。
ゲームであまり登場しないから、よく知らないんだよな。
「君は自身の力を隠しておきたい様子だが、自身の運命は私ではなく団長を口説き落として決定してくれ」
「了解だ。むしろ分かりやすくて助かる。わざわざ来てもらって悪かった」
「あんなことがあった後だ。少年に苦労させるわけにはいかないだろ?」
「シェイドだ」
「君の名前か?」
「そうだ」
「……」
「……」
「シェイド。君の功績は世間では認識されないのだろう。全ては聖剣の使用者を注目する。だが、覚えておいてほしい」
アイギスは立ち上がり
「君は英雄だ」
そうして部屋を後にした。
「さてーー」
「仲良さ気だったわね」
「……せめて喋らせろよ」
最早カナが目の前にいなくても、いると認識し出す自分がいる。
カナは俺の飲み掛けのお茶を飲み
「不味」
ストレートな感想をくれた。
本当、性格が真逆だな。
「高級な茶葉をここまで台無しに出来る才能を分けて欲しいわ」
「なら俺に美味しい茶の作り方でも教えてくれよ」
「しょうがないわね」
あれ?
「淹れてくれるのか?」
「不満?」
「いや……」
「なら黙ってて」
カナは急須を一つ取り出し、よく分からない方法で茶を淹れる。
教える気はないだようだ。
「どうぞ」
「……」
一口飲む。
「美味い」
「初めてにしては上出来ね」
カナも心地よさそうに口をつける。
初めての差がこれか。
「さっきのあれ、なんだったの?」
「疑惑をかけられた。子供ながらに村人全員助けた手腕が信じられないんだろうな」
「当然よね。未来予知前提の行動だもの。そんなものを信じるより、魔族側に属していると言われた方が納得がいくわ」
「やっぱそうだよな」
俺の呼び出しはそっち方面の疑惑でもある。
魔族の襲来を予見する。
即ち魔族側と敵にしろ味方にしろ何か接触していた、と疑うのは当然である。
「私が行く?」
「う〜ん」
いや
「俺が行く……って何回も言ってる気がするな」
「シェイドは無駄に責任感があるのが損な性格ね。頭では間違った道と分かってるのに突き進む。あべこべね」
「人間なんてそんなもんだろ。じゃなきゃカナが夜中にケーキを食ってたのもーー」
「思い出させないで!!!!」
魔族相手に一度も恐怖を見せなかったカナが、荒い呼吸で震え上がる。
恐ろしいな、糖分。
「ならカナも走り込み始めるか?魔石で身体能力が上がっても痩せはしないぞ?」
「なに?あたかも私が太ってるかのような言い草。私はしっかりとプロポーションには気を配っているわ」
「若いうちからの我慢は健康に良くないと聞いたことがある」
「バカね。美しさを捨てた人生なんて死んだ方がマシよ」
「そういうものなのか?」
俺には分からない世界だな。
「まさかと思うけど、そんな見窄らしい格好で行くつもり?」
「しょうがないだろ。王都の服なんて買える金なんてあるはずないだろ」
「シェイドこそ何言ってるのかしら?」
カナが手元に一つの禍々しい石を取り出す。
「まさか……」
「そのまさかよ」
◇◆◇◆
「す、素晴らしい!!これほど高品質の魔石を一体どこで!!」
「……拾った」
「アッハッハ、ご冗談までお上手で。お任せを、内密に……ということですね?」
「それでいいです」
俺は机に並べられた大量の魔石に思いを馳せる。
本当なら、これらは全て俺の経験値になるはずだったのに……
「シェイドの強さなんかよりもお金よ。それに、将来はこんなものゴロゴロと手に入る世界に行くんでしょう?」
「それはそうだが……やっぱりな……」
魔族編ともなれば、大量の魔石が手に入る。
しかもこんな低級魔族ではなく、もっと巨大で強い力を持ったものがだ。
だが、それでも序盤で考えれば目の前にある魔石は青年期編の最初で無双出来るだけの力を得られるだろう。
「それが半分……半分も無くなる……」
「半分も残してあげたのよ。感謝しなさい」
泣く泣く大量の魔石が持って行かれ、そして
「如何致します?」
「全額受け取る」
魔石屋は魔石の売買と同時に銀行のような役割を果たしている。
ここに預けて置けば、利息など諸々いいことがありそうだが、この世界は治安最悪の世界だ。
自分で管理した方が安心である。
「裏の方に従者の方々が?」
「そんなところだ」
少し怪しむ店主だが、俺らが太客だと判断したのか直ぐに笑顔になり、貨幣を並べ始める。
「これで……全部ですね。ご確認は?」
「必要ない。もし誤りがあれば損害を受けるのは俺だけじゃないだろ?」
「へへ、またのご来店をお待ちしておりますよ」
俺がボックスに貨幣を入れる為に、店主に席を外すよう言うと笑顔で裏へと行ってくれた。
そしてカナと半分ずつ金額を分け
「それじゃあ、本来の目的を果たしましょうか」
カナの目が輝く。
「お買い物に」
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