第4話
「どうして今、叩かれたか分かる?」
「お前が凶暴だからか?」
「いいえ、半分しか合っていないわ」
「半分合ってるのかよ」
「普通の人間なら怒りの気持ちが湧いたとしても、ビンタという手段までは取らないでしょう?だから半分よ」
「そしてもう半分はなんだ?」
「自分を偽るからよ」
バレてたか。
慣れないことをしてる感じが伝わったのだろう。
だがそれ以上に、彼女は分かりやすく怒りを表に出す。
どう言い訳したものか。
「少しカッコつけただけだろ。ガワだけはいい女を口説いただけだ」
「いいえ違うわ。今の言葉はまるで、私という人間の奥底を無理矢理こじ開けようとしたもの。私がもう少し孤独で、心が弱った瞬間に溶け込むような口先だけは良い台詞だったわ」
もう一度訂正に入る。
この女は正真正銘の天才だ。
さすがチートキャラだ。
そして
「俺の愛したキャラだ」
お陰で作戦は大失敗だがな。
好感度を上げるつもりが逆に疑心感を与えてしまった。
ここは素直に
「悪かった」
「……何が悪かったのかしら?あなたは私を口説き落とすための言葉だったのでしょう?私が腹を立てたとはいえ、何か悪いことをしたの?」
「ああ、した。してしまったな」
俺は過ちを犯した。
嘘で他人を騙すことは
「お前にとっては、一番やっちゃいけないことだった」
カナの過去はかなり悲劇的である。
嘘によって躍らされ、自由というものがない生活。
そんな彼女に対し、俺のとった行動は軽率だったのだろう。
だから
「悪かった」
「許すわ」
「簡単に許されることじゃないの……は?」
「だから許すと言ったの。そもそもこの程度の嘘で私が憤慨し、手を挙げるとでも思ったの?」
「実際叩かれたが?」
「器の小さな男ね。過去に固執する男程惨めなものはないわ」
なんだこいつ。
一回ぶっ飛ばそうか?
「話は済んだわ」
「お、おい!!」
まずい!!
ここで引き止めなければカナとはおそらく二度と会えない。
ここで彼女を仲間にする以外、俺に選択肢はない。
どうする。
なんて言葉を掛ける。
嘘はダメだ。
だが、嘘をつかずに彼女が俺に興味を引かせることができることはなんだ?
考えろ
「それじゃあ」
考えろ
「早速」
考えろ!!
「行きま」
「好きだ」
沈黙が流れた。
大体な告白は何も女の子の特権じゃない。
「一生、俺の隣にいてくれないだろうか」
「……私達、今会ったばかりよ?」
「ああ」
「私はあなたのことを何も知らないわ」
「俺は知ってる。カナという人間を知っている。強くて、賢くて、美しくて、そして儚い。そんなお前を知っている。それでも」
これは心からの本心だ。
主人公以外に目を向け始めた時に、カナという人間についても深く触れた。
そして彼女の魅力に気付き、俺は好きになっていた。
これは恋心ではないのだろう。
だが
「もっと知りたいんだ」
だから
「一緒にいてくれないか」
懇願する。
恥も外聞も捨てた火の玉ストレートの告白だ。
「無理ね」
そんな俺の人生最初の告白は綺麗に玉砕した。
「あなたが私を知っていようと、変わらず私はあなたのこと知らないもの。意味がないわ」
そりゃそうである。
突然知らない男から
『君のことよく知ってます。君は俺のこと知らないだろうけど付き合って下さい』
なんて言われても怖いだけだ。
ストーカーとして警察に突き出すレベルである。
これはもう手の施しようが
「でも」
カナは少し面白そうに
「いいわ。友達からなら始めてあげる」
俺の手を取った。
白く、冷たい。
でも、やっぱり温かい。
「私を飽きさせないでね?」
「ああ!!勿論だ!!」
こうして俺は最初の仲間を手に入れた。
◇◆◇◆
「あら〜、男の子ね」
……
「あなたのお母様どうなってるの?」
「いいだろ別に。お陰で家を確保できたんだから」
最初に上がった問題点は、カナの家を確保することだ。
あのまま小屋の下で生活させるわけにもいかず、それでいて村の連中にバレない方法といえば俺の家に住まわせるという選択しかなかった。
「どうしてバレちゃダメなの?」
「それだとストーリーが変わっちまうからだ」
今の時点で本来ならカナは存在しないことになっている。
そんな彼女がオースに関わり、本来の道筋から外れてしまえば魔王討伐に支障が出てしまう。
「だから悪いが、外を出歩く時はとある二人を避けて欲しい」
「早速嫉妬かしら?束縛の強い男はモテないわよ?」
「モテたことないから正解なんだろうな」
とりあえず空き部屋の掃除を始めないとな。
「埃臭いわ。私があなたの部屋で眠るから、あなたがここで寝なさい」
「別にいいが、むしろいいのか?」
「元々男が住んでいた部屋でドギマギする程生娘を極めていないわ」
「そうか。ならいいか」
そうなると徹底的に掃除しないとな。
「それじゃあ私は少し眠るから、頑張ってね」
わがままお嬢様はそのまま元俺の部屋に入っていった。
「……やるか」
そのまま外が暗くなるまで俺の掃除は続いた。
◇◆◇◆
「ふぅ」
軽く反射する程綺麗になった床を見て、満足感が胸一杯に広がる。
もしカメラがあれば、ビフォーアフターとして動画を上げたいくらいである。
「お疲れ様」
「なんだ、起きてたのか」
「そもそも眠ってないわよ。もしかして私のこと馬鹿にしてる?」
「……まさか」
「ラグを生じさせないで」
そのまま綺麗になった部屋で一息つくカナ。
彼女が嘘をつくとは思えないが
「なら今まで何してたんだ?」
「ん」
カナは本を見せる。
「この世界のことを勉強していたわ。私も無知なまま世を歩くなんて危険な真似出来ないわ」
そのままカナはまた本を読み始める。
しかもそのスピードは異常。
一つのページを10秒程度で読み終える。
「それ、本当に読めてるか?」
「読めてないわ。でも理解はしてるわ」
彼女は今、一を聞いて十を知るを分かりやすく体現しているのだろう。
リアルチートを目の前で見せつけられると少し感動するな。
「驚かないの?」
「何がだ」
「普通、私の姿を見たら周りの人間は気味悪がるのだけど、もしかしてこの世界ではこれが普通?」
「そんなわけないだろ。一般人はそんな文字量見たら発狂もんだ」
しばらく沈黙が続いた。
「そう」
そしてカナはまた本を読み始めた。
一体何だったのだろうか。
「シェイドちゃーん、カナちゃーん、ご飯よー」
すると奥から母親の声がした。
「ほら、飯だ」
「ええ、行きましょうか」
こうして俺達の少し奇妙な生活が始まるのだった。
◇◆◇◆
朝か
「……」
布団から起き上がる。
カーテンを開け、朝の日差しを浴びる。
前世では朝の光なんて億劫だったが、この世界での夜は危険なため、活動時間を伸ばすためには早起きする必要がある。
「ふわぁあああ」
体が怠いが、日課にしてしまえば楽になるはず。
それまでは耐え忍ぶしかない。
俺は運動着に着替え、少し肌寒い外に出る。
かなり早くの時間に起きたはずだが、周りにはポツポツと人の姿が見える。
まぁ老人だけなのだが。
「随分と熱心ね。そんなに死ぬのが怖いの?」
「起きてたのか」
家の前ではカナがベンチのようなものを携え、本を読んでいた。
「怖いに決まってるだろ。むしろお前は死ぬのが怖くないって言うのか?」
「もちろん私も死にたくないわ。私にはまだ、やりたいことが無限にあるもの」
理系としては無限という言葉が引っ掛かるめんどくさい性格なのだが、ただの誇張表現だというのは知っている。
「私はこれから沢山美味しいものを食べて、沢山学んで、沢山の経験をする。だから死にたくないわ」
「……何が言いたいんだ?」
俺が用件を聞くと、カナは深い溜息を吐き
「あなた、何の為の生きたいの?」
「は?」
何の為に生きたいって
「生きるのに理由も何もないだろ。死にたくないから生きる。それだけで十分だろ」
「夢のない話ね。私があなたと友人になったのは、あの瞬間あなたの目が輝いていたからよ。だけど、今のあなたからは何も感じない」
「……」
「もう一度答えて。何故、あなたは死にたくないの?」
……そういえば
俺って生き残ることばっか考えてて、生きた後のこと何も考えてなかったな。
死にたくないから
それは当たり前で、それでいて消極的な生き方だ。
「そうだな」
生きた後、俺がしたいこと。
彼女はあの瞬間の俺は輝いていたと言っていた。
俺はあの時、確かにこう思ったんだ
「あぁ、そうか」
俺は……俺は憧れだった
「あの世界を生きているんだ」
「行ってらっしゃい。私を置いて行くのは無しよ」
俺は微かに笑い
「ああ、もちろんだ」
走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます