第3話
「起きたか」
俺は一日で二回目の昏睡状態から目を覚ます。
目隠しをされているのか周りが見えない。
もしかしたら俺には姫気質があるのかもしれないな。
「で?お前は誰だ」
「あまり私を馬鹿にしない方がいい、シェイド君よ」
何故俺の名前を。
「私の研究室の場所を嗅ぎつける力を持っている者に安易と名前を教える阿呆はいないだろう。ちなみに私の名前はKだ」
教えるのか。
まぁ偽名だろうが。
「さてシェイド。私は一生懸命結界を壊そうと頑張るお前の姿を物陰かた見て、ニヤニヤと笑っていたわけだが」
「悪趣味にも程があるだろ……」
「どうやってここを突き止めた。王都の連中ですら未だに手掛かりすら掴めていないというのに」
王都?
王都は青年編での主人公達の舞台なのだが、王都の連中という言葉から察するに
「騎士に追われているのか?」
「そんなところだ。どうやら私の研究は禁忌に触れているらしくてな」
禁忌の実験か。
なるほど
「カナを連れてきたのはお前か」
「カナ?誰だそいつは。私という者がありながら浮気か?」
「お前は俺の何なんだ」
「今日初めて会った互いにとって未知の存在。それが私達だ」
向こうから機械が作動する音が聞こえる。
この世界に機械はない。
正確に言えば機械と呼べる程発達した技術が確立されていない。
なら何故、俺の耳に懐かしの電子音が響くのかといえば
「それで?異界の門は完成するのか?」
「何を必死に結果を壊そうとしていたのかと思えば知っていたのか」
「理由は聞かないのか?」
「生憎拷問やらは得意ではなくてだな。それに、お前という人間なら分かっても不思議じゃない理由がごまんとある」
Kと名乗るおそらく女であろう奴は、俺との雑談を交わしながら何かを行っている。
言葉の節々からどこか不思議な言い回しが多いが、分かったところで拘束されている今の俺ではどうしようもない。
「すまないが少し集中したい。久しぶりに人類との対話で気分が昂ったが、少しお口を閉じていてくれ」
そうしてKは何かをブツブツと唱えながら作業を始めた。
良い機会だ。
俺も少し頭を整理するか。
俺が地下で求めていたものは主に二つある。
一つはハイポーションと呼ばれる回復薬。
ゲームでは数個しか入手出来ない超貴重品であり、その効果はあらゆるデバフ、状態異常、HPにMP、つまりは全てを完全に回復させるというチートアイテムだ。
そしてハイポーションの設定文には
『人知では製作出来ない未知の回復薬。それはあらゆる病を治し、あらゆる怪我をも完治する』
と書かれていた。
そして今後俺が仲間にしたいキャラの一人には、このハイポーションが必須アイテムとなってくる。
そしてもう一つ俺が欲しているのが先程話に出てきたカナ。
別名を『異界の魔女』
彼女はどこかも分からない世界から現れた、という設定でこの研究室に閉じ込められていた。
それを主人公であるオース達に助けられる。
という感じのはずだったのだが
「どうやら速く来過ぎたようだ」
時系列でいえば先程の話は五年後の話。
となれば、俺が直面している現状はおそらくカナがここに現れ、そして閉じ込められるまでのエピソードなのではないだろうか。
となればここにカナを閉じ込めた犯人はKで間違いなさそうだが
「やっと終わったか」
俺の思考が一つの答えを導いたところで、Kの作業もひと段落ついたらしい。
「私の声が恋しかったか?」
「何故お前はさっきから俺とまるで恋人関係かのような口ぶりで喋る」
「なに、私達は共に計画の行く末を見守る仲じゃないか。冷たいことを言うな」
「見守るもクソも俺の目は何も見えないんだが?」
「悪いがそれを外すわけにはいかない」
Kは俺の頭に触れる。
髪の上からでよく分からないが、思っていたより小さな手だった。
「最期に付き合ってくれ。私が帰ってしまえば、ここに来た彼女はきっと右も左も分からないだろう。その道標を託したい」
ソッと手が離れる。
何故か俺はその手を握り返さなければいけない気がした。
だが、残念なことに俺の手は椅子に括り付けられ動かない。
「事情は分からんが、何故俺なんだ。そんなに大切なら他の人間にだって」
「同じ転生者のよしみだ。これくらいの頼み聞いてくれ」
「な!!転生者だと!!お前何故それを!!」
「安心しろ。報酬なら既に用意してある」
「おい!!待て!!説明しろ!!聞いてるのか!!」
俺は叫んだ。
何度も叫んだ。
だが返事は返って来ない。
そして俺が声を張るのをやめたのは
「あら、そういうプレイ中なのかと思ったわ」
目の前で笑う黒髪の少女を見た時だった。
◇◆◇◆
Kの姿はなかった。
いや、元々いなかったのかもしれない。
世にも奇妙な話だ。
だが、K以外の姿は見受けられた。
まずは
「なるほど。つまりあなたは異世界転生とやらを果たし、将来死ぬことが確定した未来を覆す手伝いを私に求める、そういうことでいいかしら?」
「要約助かるよ」
「当然よ、私は天才なのだから」
カナがいたということ。
本編では主人公と同じく18の見た目だったが、今は5年前だから13の見た目。
それでも目を見張る程の美貌、そして知性を
「うん、今日も私は可愛いわね」
鏡に映った自分の姿を見て可愛いというカナ。
どうやら知性の部分は要検討らしい。
「何?その顔は」
「別に」
「可愛いものに可愛いというのはおかしなことではないでしょう?それとも、あなたは私を可愛くないと言いたいのかしら?」
「べっつに、一言も申してませんとも、お姫様」
「ふ〜ん、いいのかしら。あなたの計画には私が必要なのでしょう?そんな態度でいいのかしら?」
ニマニマとコチラの動きを見る我儘お嬢様。
生きるために仕方ないとはいえ、なんだか無性に腹立たしいな。
「カナ、君の美しさは俺が見てきたあらゆる人の中で最も美しい。その美貌には太陽すら嫉妬してしまうだろう。そんな君にお願いがあるんだ。どうか、俺の命を救っていただけないだろうか」
「気持ち悪いわ。あなた自分のキャラくらい統一させたら?」
どうしよう、凄くぶん殴りたい気分だ。
「そして答えはNOよ」
よし、殴ろう。
だが悲しいことに今のカナにすら俺は負けてしまう程の雑魚。
ここで飛び込んでところで負けが確定している。
「で、理由はなんだ」
「メリットがないからよ。せっかくあの狭い籠から出られたっていうのに、何故新たな世界でまで誰かの為に動かないといけないの?」
「グッ」
正論過ぎて耳が痛いな。
逆に俺の知っている彼女の性格そのまんまであり、安心している自分もいる。
だが仲間になってもらわないと俺も自分の命がかかっているのだから。
「なら取引をしないか」
「取引?」
俺の知っている彼女ということは
「ああ、取引だ」
きっとこの手段も通じる。
「俺がお前にこの世界の楽しいもの全部見せてやる」
『僕が君に楽しいことがいっぱいあるって教えてあげるよ』
「凍ってもいないのに歩ける湖」
『燃えてるのに暖かい火』
「感じたこともない味に」
『初めての感触』
「その」
『全てを』
「『教えてやる(あげる)』」
俺の言葉にカナはパチクリと瞬きをする。
これはオースの残した名言の中の一つ。
この言葉に心を打たれたカナは、オースの手を取り優しく笑った。
そして同じように伸ばした俺の手を
「あなた」
横切り
パチン
「キャラじゃないこと、しない方がいいわよ」
重いビンタを食らった。
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