さようなら
藤村 綾
さようなら
最後にあった日に『わたしのこと好きなの?』という男にとって毛糸が絡まったくらいにめんどくさいことをつい魔が差して訊いてしまった。男はうーんと唸りいかにも困惑した顔をして眉間にしわを寄せた。そんなしわなどみたくもない。なんでこんなめんどくさいことを訊いてしまったのだろうと自分で自分をせめた。
そして。もうこの恋がこの愛が終わったのだと自覚をし確信をした。男は結局なにも言葉にせず、ただ、めんどくさいな。重たいな。もういいかな。その文字がアイコスの薄い煙の中に混じっているのが見えたのだ。
好きっていったいなんだろう。その男とのセックス? その男のなんだ? もはやわからない。わからないけれど彼のものがわたしの中にもう入って来ないことを考えると発狂してしまいそうになっていた。彼ではなく彼のあそこに執着していたんだと気がつく。
体の相性がいいという地獄。そんな地獄からは当分抜け出せない。わたしはだからひたすら泣くしかない。泣くしか能がない。バカだな。ということなどわかっている。
あの男がいなくなった世界でわたしはけれど生きている。死んでもいいともおもうし、殺してしまおうかともふと考えた。
殺すのと殺されるのどっちがいい?
どっちも嫌だ。死ぬなら勝手に死んでくれよ。男はいつかめんどくさそうにいかにもだるそうにそう口にした。
本気だったよ。
嘘じゃない。
もうわたしはわたしではない。男のセックスをバカみたいにおもいだし泣いてばかりいる。
セックスなど生きていく上でさほど大事なものではないしむしろ前面に出せない言葉だ。けれど夜になれば夜ではなくとも男と女抱き合い抱きしめあっている。その行為は嘘の行為かもしれないし本気の行為なのかもしれない。
あすは晴れるだろうか。もっともっと寒くなってくれ。わたしの心のように。
さようなら 藤村 綾 @aya1228
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます