学歴経験不問のおしごと

今住んでいる村は王都から少し離れた中規模の村。

名産は魔法石と良質な紙で、どちらも取引が盛んにされるものだ。その為王都ほど豊かとは言えないが平民が住むには十分の村で治安も程よくいい。

両親は魔法石の作業場で事故に巻き込まれ最近亡くなってしまったが、遺族にも少しだがお金が出るくらい労働環境も良い。


毎年秋には「星の収穫祭」というお祭りがあり、各地から観光客が来て賑わいを見せる。今はその祭りの準備もあり村全体が活気に溢れ、人が忙しなく働いている。


異世界転生とは都合がいいもので、こういう生活に関する記憶は問題なくある。

当然手紙の出し方、貨幣についてや、生活方法などもしっかりと記憶がある。


「とにかく学園にさえ行かなければ平穏に暮らせそうね」


私はとにかくスローライフを送りたいのだ。恋愛も婚約者がいる人を奪うなんてもってのほか。社畜時代に上司や同僚の奪った盗られたの恋愛を見てきた為、思い出すだけで辛くなる。


悪役令嬢だって、ヒロインをいじめて弾糾される訳だが、自分の婚約者に手を出されたらいじめたくもなる。しかもヒロインにわざわざ好感度を下げられるようなことをされるのだ。悪役令嬢達を想うと不憫としか言いようがない。


私は村でひっそりと暮らし、程よい感じの男性を見つけ、前世とは違うゆっくりとした人生を送りたい。そうすれば悲しい悪役令嬢もいなくなるし、私も幸せ。そのためにはまず仕事ね。


アシルへの手紙を郵便管理もしているギルドに持っていくついでに仕事についても聞いてみよう。


「こんにちはー」

「あらリサ、いらっしゃい」

「おー、リサじゃん」


ギルドのドアを開けて挨拶をすると女主の声とは別の声もした。アシルだ。

アシルは綺麗な緑色の髪色で目が見えないくらい厚めの前髪マッシュ。身長は180センチ近くあり、雰囲気はとてもかっこいい。この辺の商売を束ねている家という事もありとても社交的だ。

アシルはギルドのカウンターで女主を相手に何か飲んでいた。


「アシル!手紙ありがとう。返事を届けようと思ってきたの」

アシルの隣に座ると封筒を手渡した。

「そうなんだ。いいタイミングだったな。じゃあ次はポーションを30個ばかりお願いしたいんだがいつ」

「そのことなんだけど…」


アシルが話しきる前に会話を被せた。


「ポーション作りなんだけど辞めようと思って」

「は?なんで?」


アシルは驚き持っていた飲み物を勢いよく置いた。

驚くのも当然である。リサの家は魔法石の力を借りたポーション作りで生計を立てていたのだ。この仕事を辞めてしまうということは無職に等しい。生活保護など存在しないこの国では無職は死に近い。


「両親を思い出して辛くって…。で、でも他に何か仕事があればしたいかなー?って思ってるんだけど、何かあるかな?ねえ女主さんも何か仕事ないかな?」


ピリついた雰囲気がきつく、女主さんにも話を振ってしまった。


「仕事ねぇ。とりあえず収穫祭の時は人手が足りないからうちは大歓迎よ。リサは周りからの評判もいいしね」

「ほんと?嬉しい!ありが…」

「ダメだ」


今度はアシルが会話を割って入ってきた。


「お前は愛想はいいがそそっかしい。あの祭りの客を捌けるとは思えない。このギルドは村で大事なギルドなんだ」


アシルの言うことはごもっともだった。

前世でとにかくそそっかしかった私は確かに祭りの飲食店で迷惑をかけかねない。でも生活がかかっているのだ。


「じゃあ他に何かないかな」

「他か…あぁ、そういえば今年は子供向けの出店も出そうと思ってる。そこに出す物を考えてくれないか?」


村も子供が増えてきたのだ。大人向けの出店だけではなく子供向けも作るなんていい商人だ。


「いいね!是非やらせてもらいたい!女主さんも落ち着いたお店の時は是非手伝いたいので声かけてください!」

「私はお願いしたいのけどダメそうよ」


女主さんは少し困った顔でアシルの顔を見た。


「そりゃそうだろ、リサだぞ」


本当に信用されてないが否定も出来ないのが悲しい。

しかし今は仕事を手に入れたのだ。まずはそこを頑張らねば。


アシルと出店について打ち合わせをした後、企画を考えるべく先に帰ることにした。



この出店がフラグになっていることをまだ私は知らない。

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