第10話

「あれが、太陽!」


 エレノスの外に飛び出したカルマは、初めて本物の太陽を目にしていた。神秘的な姿に瞳も心も奪われ、自然と涙が溢れてくる。エレノスで毎日見上げていた、ただの丸い発光物では比べ物にならない美しさ。あまりの眩しさに瞳が閉じようとしてしまうが、それすら不思議で仕方なかった。


「これからどうする」


 太陽とカルマの間に割って入ってきたロティをどかしながら、カルマは前方下付近を指さす。


「まずはあそこに行ってみようと思う」


 指の先には、数刻前に見下ろしたエレノスよりもずっと小さなドームだった。


「どこか分かっているのか」


「いや、全然分からないよ」


「適当超えて馬鹿だな」


「世界中にある国名なら頭に入ってるけど、場所はどこにも書いてなかったんだから仕方ないだろ!」


 点在しているドームの中がどうなっているかも不明だ。八戒が統治している国以外にも、小さな都市や町なども存在しているらしい。


「まずは味方…というか、仲間探しからかな」


 ジールの言っていた通り、敵は探さずとも転がっているが、味方は血眼になってでも探さねばならない。

 〈開国し、新世界を作る〉などという大それた目標を滑稽だと思う者の方が多いことは、カルマも理解していた。


「俺だけじゃないと思うんだ。きっとこの世界が間違っていることに気づいている人は他にもいるはず…そうだ」


 ふと思いついた疑問をロティに向ける。


「俺みたいな契約をした人って、他にもいるのか?」


 正式な歴史書ではなかったものの、記録にされていたということは、エレノスでも過去に何かと契約をした人物がいたという証明になる。


「他所の国に関しての確信は持てないが、可能性は十分にあるだろう。我のように長らく存在している者もいれば、ふとしたきっかけで意思を得る者もいる」


「意思?」


「我のような者の総称だ。あるところでは〈奇跡〉、あるところでは〈呪い〉とも呼ばれる。〈神の意思を持つ者〉古代語で〈セリシス〉と呼ばれることもある」


「直訳すると意思って意味になる言葉だな」


 しかしなんとなく矛盾が見えてくる。神の意思ということは、必然的に神を肯定する存在となる。


「それに例外ってあるのか?」


「そんなものは無い。我らは総じて神の意思を持っている」


 ロティも特例ではないとすると、彼もまた神に反することはできないはずである。


「じゃあなんで俺と契約したんだ?いや、そもそもセリシスと呼ばれる者たちが人間と契約できる唯一の存在だとしたら、神に対抗するような力を手に入れるなんておかしいだろ」


 まるでそれは、〈神に反旗を翻すためだけに存在している〉かのようにも思えてくる。



「可能性として考えられるのは…うわぁっ!」



 突然船体が大きく揺れ、バランスを崩したカルマはその場に尻もちをつく。


「なんか、斜めになってないか?」


「見たところ、充電切れのようだ」


「えええええええええ!?」



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