ステージ12-2

 マニアで黒髪の少年から『聖魔剣』カリバーンを強奪した私——リーナは、彼に反抗するように、アイラー村に向かっていた。


 ……とはいえ、この村に何があるんだろう。


 父の話では、この村に『勇者』としての力を十分に発揮できる剣——『聖魔剣』カリバーンがあるということだったが。


「それはもう、今私が持っているんだよねぇ……」


『聖魔剣』は二本あった? そう解釈するのが最も自然だろうか。まぁ、それは村に着くまでわからないか。



 ————————


 アイラー村の周辺で、黒髪の僕——ケレシスはある者を監視していた。人間で言えば三十代ぐらいで、肌が黒い男——魔人だ。


 もうすぐ、リーナはアイラー村に到着する。それまでにどれだけの策を講じれるか。それが勝負だ。


 僕は魔人に向けて、ゆっくりと歩いていく。警戒させないように、正面から。


「よお魔人、取引しようぜ」



 ————————



 アイラー村に到着した私——リーナは、村長と話をしていた。


「この村に剣の伝説、ですか……。長年この村の村長を務めていますが、そんな話は一度も……」


 お役に立てずすみません……、と村長が頭を下げる。いえいえ、と私は村長の頭を上げさせる。そして『聖魔剣』を見せると、


「このような剣に心当たりがあったりは……?」「うーむ……その剣、確かにどこかで見覚えがありますな」


 すると一人の若者が驚いたように、


「君、その剣をどうやって抜いたんだ……!?」


 訳がわからず、私は村長に視線を移す。村長は思い出したように声を上げると、


「ああ、剣といえばそれがありましたか! 村の東の岬に突き刺さった剣ですよ! なるほど、それをお聞きになっていたのか……」

「それを最後に刺さっていたのを確認したのはいつですか?」

「ええと……確か、昨日ある少年が、見たと言っていましたよ」


 訝しみながらも、若者はそう答えた。


 最後に確認されたのが昨日……どう考えても、『聖魔剣』が二本なければ時系列が合わない。


 ……待て、少年?


「その少年というのは?」

「確か彼も、旅人だったな。君ぐらいの歳で、黒髪の子だよ。名前は確か——ケレシス、と言ったかな?」


 ——その時のことだった。一人の若者が、ノックもなしに部屋の中に入ってくる。


「お客人の前だぞ、礼儀を守らんか」


 村長は注意するように若者を睨むが、若者はそれどころではないとばかりに叫ぶ。


「魔物の大群が、この村に!」



 ——————————



 森の深くで、僕——ケレシスはスコップを使って、を埋めていた。僕はスコップの平らな部分を使い地面を固める。


 遠くから地鳴りのような音が聞こえる——魔物達がアイラー村を襲っているのだろう。魔物への進軍命令は出された。魔人はもう、用済みだ。


 ——さて、この村での計画も最終段階だ。


 僕はスコップを片手に、アイラー村へと走った。



 ——————————



 襲撃の報を聞いた私——リーナは、村長の止める間も無く最前線へ飛び出してきた。


 大小合わせて……敵の数は三桁を下らないだろう。

 この村にも最低限魔物に抵抗できる備えと戦力はあるのだろうが——まず、この物量は想定していない。それに、彼らも実戦戦闘に関しては素人だ。到着にはしばらくかかるだろう。


 ——それまで、私が食い止めなければ。


 私は魔物の大群に向けて、単身斬り込む。

 数が多いとはいえ、所詮は雑魚の集まりだ。大物も中にはいるのだろうが、この魔物の密度では全力は出せまい。


 縦に、横に、『聖魔剣』を振るう。さすが、『神器』だ。切れ味が違う。

 魔を裂き、聖を汚す。その力は、神にも及びうる——そのふれ込みは、伊達ではないようだ。


 身動きが取りづらくなっている大物を中心に、ダメージを与えていく。この様子であれば、油断はできないにしても、少し余裕はありそうだ。


 そう思っていた時のことだった。


 巨人の魔物が、周りの魔物を撒き散らしながら、その大きな手を振るった。


 味方を薙ぎ払いながら攻撃をする。魔物がそんな姿を見せるのは初めてだった。——なんて、ただ油断していたことの言い訳なのだろう。


 ——背中に、大きな衝撃を受ける。そして、私は空高くに打ち上げられた。


 追撃のためか。巨人が私の着地点に向けて走っているのが見える。私は空中で剣を大きく構えて、巨人めがけて——


 巨人が、素早い動きで私の攻撃を回避する。私はろくに着地をできないまま、魔物を撒き散らしながら地面に転がる。即座に私は立ち上がろうとするが——目の前にはすでに、右手を大きく構えた巨人がいた。


 絶体絶命かのように思えた——その時、一人の少年が間に割り込んできた。


「だから言ったじゃないか。アイラー村にはいくな、と」


 なぜかスコップを握る彼は、右手から『聖鎖』を巨人めがけて発射すると、巨人に登っていき——その目にスコップを突き刺す。巨人が悶えるように叫んだ。


「別に、君に助けられなくたって——「そうじゃない」


 私は反抗心のままに彼に言葉を返す。しかし彼は相変わらず、全てを知ったような様子で私の言葉を遮った。


「リーナ、この襲撃は、君がこの村に来たせいで発生したんだ」「……どういうこと?」「この襲撃の狙いは——君の命だ」


 ——私の、命……?


「私が『勇者』であるから?」「その通り」


 まだ動けるか? と少年——ケレシスと言ったか、は私に手を差し伸べた。


「どうしてそれを言わなかったの?」「言ったとして、信じたか?」


 私は少年の手を取り、起き上がる。


 ——なるほど、ここは彼が正しいようだ。


「マニアでは色々あったけども、ここは共闘ってことにしない?」「その言葉は僕のもののはずだが……まぁいいや」


 それからは、みるみるうちに敵が減っていった。少年との動きが、妙に合致するのだ。まるで、私に最適化されたような——そんな印象さえ受ける。


 ——ただの他人、ねぇ。とてもそうは思えないけど。


「リーナ! 光の剣を使え!」「……、君はほんと、どこまで知ってるんだか」


 私は呆れるように、そう呟く。一人の時で使うには隙が大きすぎたが、彼が守ってくれるなら——なぜか、そんな安心感があった。

 私は剣を大きく構える。そして右手のリングを仲介に、『聖魔剣』に『聖力』を凝縮させる。『聖魔剣』の刀身が、白く光はじめた。


「いくよ!」


 そう合図すると、少年は攻撃の範囲外に退避する。そして、私は横に剣を振るう——扇状に広がった光が、魔物を一掃する。


 ——乗り切った……!


 光の剣を振るった私は、戦闘の疲労感からその場に倒れる。


「……まだ終わりじゃないぞ、リーナ」「……?」


 少年が意味深なことを言う。

 ちょうどその時、武装した自警団が現れた。ちょうどいい、とケレシスは彼らを集める。


「『聖魔剣』を、魔人が持っているのを見た。きっとこの襲撃——混乱も、彼が作り出したものだ」


 ケレシスは自警団に向けて、『聖魔剣』の軽い説明を行う。多少の誇張・ミスリードを含んだ説明だったが……まぁ、全てを話している時間もないのだろう。


「彼もきっと、今はそう遠くには行っていないはずだ。一刻も早く彼を見つけ出して、『聖魔剣』を回収する必要がある——そうだろう、リーナ?」

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