ステージ3

 気がつけばそこは、開拓者ギルドの入り口だった。カウンター席に座る赤い髪の少女が、こちらを見ている。


 ——これも、三度目か。


 彼女は僕のことを知らない。……さて、信頼を勝ち取ることを最初から始めなければ。そのことに若干の楽しみに感じながら、僕はカウンター席へと歩いてゆく。


 そして僕は、再び始まりへと至った。三回目の始まりは、期待と共に。



——————————



 僕たちは、魔境の砂漠地帯を歩いていた。相変わらずの殺人的な暑さだ。とはいえ、今回はそれなり以上に、物資に余裕がある。流石に三回目ともなれば、なれたものだ。


「それで、あんた。『魔王』とのアポイントメントがあるっていうのは?」

「前回のおかげでな」


 そう言って僕は、左手につけたリングを見せる。リーナが自分のリングを見て、


「私が死にさえしなければ、ケレシスは巻き戻しをしなくてもよかったんだよねぇ……。なんていうか、私らしからぬ詰めの甘さだね」

「あんまりそうやって責めないでくれ」

「私のことなのに?」

「リーナのことだからだよ」


 それにああやってくれたお陰で今があるんだ、と僕は補足する。そういうもんかねぇ、とリーナは漏らした。


 最初こそ魔王のスパイだのなんだの言われたが、今までの二回分の経験のおかげか、リーナの信頼を勝ち取ることは比較的簡単だった。……それでも、難しかったことに違いはないが。


「それで、その『魔王』は信頼できるの?」

「半々……ってところかな」


 渋いなぁ、とリーナは苦い顔をする。『勇者』の命を——人類の未来を賭けるには、心もとないのは確か。だが、その先にしか人類と魔族の共存する未来はない。


「どちらにせよ、魔王城まで急がなきゃね。こんな砂漠、もうまっぴら」


 そうだな、と僕は肯定を示す。


「……荷物も少し、持ってきすぎたかも——「ケレシス!」


 瞬間、背中を強く押される感覚。世界が大きく揺らぐ。


 リーナが僕を突き飛ばしたのだと気づくのには、数秒の時間が必要だった。僕はゆっくりと立ち上がる。そして揺らぐ視界で、世界を目におさめる。

 そこにいたのは、砂を撒き散らしながら砂の中から現れる巨大なサソリと——そのサソリの尻尾に胴体を貫かれる、リーナだった。


 リーナは必死に僕に手を伸ばして——そして、力を失う。


 それを見て、僕は。

 僕は、『運命』を巻き戻した。



 気がつけばそこは、開拓者ギルドの入り口だった。

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