ステージ2-3
ノキアを去った僕らは、僕たちは再び魔境の砂漠にいた。……相変わらずの過酷さである。正直、今にも倒れてしまいそうだ。
「ぐあ〜〜、この剣重い〜〜!」
なんて神が作りし『聖魔剣』に罰当たりなことを言っているのが、リーナ。旅をしていくうちに、本当にこいつが『勇者』なのか怪しくなってきた。
一回どこかで試してみようかな? 熱した鉄の棒を握らせて、火傷をしなければ神の加護があるから『勇者』、そうでなければ『勇者』を騙る偽物。
なんて馬鹿馬鹿しいことを考えていると、遠くに人影が見えた。男と——もう一つ小さな動物? よくわからない。
「リーナ、見えるか? あの人影?」「——どうしたの、幻覚?」
断じて違う、と僕は否定をしたが、無視してリーナは僕の指差した方向を見た。……なんだかデジャブを感じるな。
「……ああ、いつぞやの魔人親子じゃない?」
前回と時期は全く異なるのだが、結局はここで遭遇する運命らしい。まぁ精々、今回はただ世間話をするぐらいだろうけど。
リーナの手が腰の『聖魔剣』に伸びる。
「……おい貴様ら、魔人ではないな。その特徴——人間か」
最初に話したのは、魔人の男の方の魔人だった。彼は娘を近くに寄せると、弓を僕らの方に構える。
布一枚の貧相な服……確かに、前回の魔人と同じだ。娘の特徴も、一致する。
「どうしてこんなところにいる? ここは魔境だぞ?」
「ただの旅の者ですよ」
「旅にきた人間は皆、ノキアで引き返す。——改めて問う、どうしてこんなところにいる?」
さて、どうしたものか。
正直に、『魔王』を止めにきた——などと言えばすぐさま矢を発射されてもおかしくない。しかし他に人間が魔境に理由など思いつきもしない。なんと言ったら彼は納得するだろうか。
なんて考えていた——その時だった。突如、砂の中から甲殻類の尻尾が現れ——その先端の針が、魔人の男に襲いかかった。
僕は右腕の『聖鎖』を尻尾に向けて発射し、尻尾の軌道をずらす。リーナは『聖魔剣』カリバーンを鞘から抜き、自由を奪われた尻尾に向かって振りかぶり——
瞬間、砂が巻き上がった。砂の中に潜んでいた本体が姿を現したのだ。
それは、鮮やかな赤に彩られた巨大なサソリだった。人間の三倍はあるだろうか、普通の魔物サソリよりも大きい。
「早く逃げて!」
リーナが魔人の男に向けて叫ぶ。ようやっと状況を理解したのか、彼は娘を庇うようにしながら遠くへ逃げていった。
サソリが僕に向けて接近してきた。十分にあると思っていた距離が、一瞬のうちに詰められる。——相当に速い。
僕は紙一重でサソリの針を回避する。——刹那、リーナが尻尾を斬り飛ばした。彼女はそのままサソリの下に潜り込むと、その腹に大きな傷を与える。僕がサソリの上部を引っ張って、ハサミによるリーナへの攻撃を妨害すると、リーナは持ち上がったサソリの頭部へと剣を構えて——力の限り、突き刺す。
直後、サソリの全身から力が失われた。
リーナは体制を立て直すと、笑顔と共にサムズアップを僕に向ける。サソリの上半身を落とすと、彼女にサムズアップを返した。
————————
「魔物サソリ——それも、このサイズ。危なかったね? 魔人さん」
リーナはそう言って、父親の方の魔人を見る。
彼は驚愕を隠せないようにサソリを観察していた。どうやらこの辺りに住んでいる彼にとっても、珍しい大きさらしい。
「本当だ——この針、これが私に突き刺さっていたらと思うと……」
「どうなるんです?」
興味本位で僕は聞く。彼は顔を横に振った。リーナを見ると、彼女は無言で苦笑いを浮かべていた。……どうやら冗談抜きにやばいらしい。
「すまなかったな、人間。お前たちは私たちの命の恩人だ」
彼はそう言って、手を差し出した。僕とリーナは一瞬見つめあうと、笑顔でその手を取った。
「私の名前は、アニムだ。そして娘の名前はユウラ」
彼はそういうと、娘——ユウラの背中を押す。ユウラは感謝の言葉と共に、僕たちに大きく頭を下げた。
僕らも、軽い自己紹介を返した。アニムが、
「それで、目的地はどこなんだ?」
「魔人の本拠地である、バックミーアです」
「おお。それなら、途中まで同行しよう。私もちょうど村に帰ろうかと思っていたところなんだ。……折角だ、少し遠くなるが、よければうちの飯でも食っていくか?」
僕はリーナを見る。意義はないらしい。
「いいですね、お言葉に甘えさせていただきます」
どうやら、楽しい異文化交流ができそうだ。
僕は、地平線まで広がる砂漠を見ながら思う。——案外、魔人とわかりあうことなんて難しくもないのかもしれない。
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