ああ、我が友よ、我らが母よ

星降る藍色の夜。R4-Bは、昏々と眠るロートヴァルの手をそっと握る。真夜中の空のように、真っ黒な手。黒ダイヤのような爪。…素敵なおてて。何度も繋いだ、彼の手などすっぽりと覆ってしまう、大きなおてて。R4-Bは思う。素敵だよ、とても。

ロートヴァルの告白は、R4-Bとジェイドに大きな衝撃を与えた。それは、悲しい衝撃だった。しかし、ふたりともロートヴァルの想いを否定しなかったし、ふたりともメビウスを憎もうとはしなかった。ただ黙って、苦しみ悶える大男に寄り添った。

R4-Bは真摯な瞳でロートヴァルを見る。ジェイドは、無表情ながらも、優しさのにじむ視線でロートヴァルとR4-Bを見つめる。炭の焦げたにおい。火は消えている。もうふたりとも、想像がついている。あの戦争のとき、メビウスに何があったのか。ロートヴァルの正体は、いったい何者なのか。そう…もう、わかっている。

ロートヴァルは、よほど苦しいのだろう、最近、よく悪夢にうなされている。うめき声をあげながら、爪で自分の顔を引き裂く。しかしR4-Bがそばによると、安心したような、はぐれた親を見つけた子どものような顔をして、再び静かに呼吸を始める。

いつか、ジェイドが言っていた。

「おふたりはもう、ひとつですね。決して、どちらかが欠けてはならない…」

…本当にね。R4-Bはにっこりと笑顔になる。ひょんなことから出会った僕たちは、たくさん一緒の時間を過ごした。そしてもう、すっかり“ひとつ”なんだ。R4-Bはロートヴァルの手をそっと掴み、自身の頬にぴたりと当てる。あたたかい。

星降る漆黒の夜。太陽が登るにはまだ長く、R4-Bはいつの間にか眠りにつく。聞こえるのは、静かな寝息の音だけ。

ジェイドは、大きな翡翠の瞳でふたりを見守る。静寂に包まれて。ぼんやりとした輪郭。にじむ色彩。それでも、彼はふたりを見ている、感じている。彼は心の中でつぶやく。ああ、ようやく見つけました。ジェイドはもうほとんど見えない目を、そっと閉じる。

我らが母よ、ここにいらしたのですね。

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