心をこめて、もう一度

R4-Bは花を摘むと立ち上がる。膝についた土がぽろぽろと地に落ちる。赤い、赤い花。空と同じ色をしている。烏が何羽か、ひらひらと空を舞う。彼はすっかり立ち上がると、摘んだ幾輪かの花を抱いて、後ろにいるロートヴァルのもとへ走っていく。そして彼に向かって、ぐいと花を差し出す。ロートヴァルは生まれて初めて花を見るような表情をする。その目は、ぽっかりとした穴のように虚ろだった。空が表情を変えていく。

「じゃ、行こう」

R4-Bはロートヴァルと手をつなぐ。彼の手を優しく掴むロートヴァルの手は、驚くほど大きく、真っ黒だった。五つの、けずり出した黒曜石のように鋭い爪。R4-Bは片手でロートヴァルの手をしっかりと握り、もう片方の手で摘んだ花をそっと抱きかかえる。花の甘く、それでいて爽やかな匂いが満ちる。

「お花、触ってみる?」

優しく微笑みながら、R4-Bは尋ねる。ロートヴァルは彼の方を向き、可憐な赤い花たちをじっと見つめる。そっと手を伸ばし、しかしすぐに何かを諦めたような顔をして、ゆっくりと手を引っ込める。

「…いや、いい」

ロートヴァルは低い声で、端的に返事をする。その虚ろな目。R4-Bには、そこに彼の強面に似合わぬ恐怖さえも滲んでいるように見えた。

「せっかく摘んだんだから、触ってみればいいのに」

ロートヴァルはこたえない。

ゆっくりと歩き出す。

黒い空。インクをぼたぼたと垂らしたような闇の中に、二人が消えていく。

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