セピア色の記憶

むかしむかし、あるところに、命を愛するふたりの神さまがいました。神さまたちは、いつも一緒にいました。ふたりはひとつだったからです。

ふたりの神さまは、命を生み出し、世界に送り出すと、いつも楽しそうに精一杯生きていく命たちを見守っていました。

しかし、命には終わりがありました。神様がふたりいたからです。ふたりのうち、ひとりは死の神さまでした。死の神さまがいることで、命たちはいつか死んでしまう存在となったのです。しかし、死の神さまは優しい神さまでした。命がその生涯を終えると、その神さまは美しく、温かな炎で魂を導き、よく頑張ったね、と魂たちを抱きしめました。魂は死の神さまの温もりを得ると、再び世界へと送られ、新たな命となって精一杯生きるのでした。

しかし、あるとき、ふたりの神さまのそばにいた天使たちが怒り出しました。

「なぜ死の神さまがいるのですか?死の神さまのせいで、我々はいつか死ぬのです。命の神さまよ、どうか死の神さまを打ち倒してください」

命を生み出す、命の神さまは困りました。命の神さまは、死の神さまのことが大好きだったからです。死の神さまがいなくては、命の神さまは生きていけませんでした。彼女は天使たちのお願いに、首を横にふりました。すると、天使たちはさらに怒りました。

「あなたは死の神さまをかばうのですね」

命の神さまはもっと困ってしまいました。どうにかして天使たちを説得しようとしましたが、彼らの怒りは増すばかり。

そして、天使たちはついにふたりの神さまへ反旗をひるがえしました。剣を持って、襲いかかってきたのです。神さまたちは怒り、反撃しようとしました。しかし、命の神さまは泣き出してしまいました。自らが生み出した天使たちを、傷つけることができなかったのです。天使たちは、命の神さまをその剣で傷つけました。神さまの傷口からは血が、神さまの目からは涙がこぼれ落ちました。それを見た死の神さまは激怒しました。愛する命の神さまを傷つけた天使たちを、彼はその優しかったはずの炎で燃やしてしまいました。炎は燃え広がり、やがて世界そのものを燃やしていきました。

こうして、世界は破滅をむかえたのです。


死の神さまは、傷を負った命の神さまを、世界の果てへと連れていきました。そこはとても静かでした。死の神さまはそこに小さな神殿を建てると、命の神さまをその神殿に寝かせました。こうして、命の神さまは、傷を癒やすために眠りにつきました。

しかし、死の神さまも傷を負っていました。死の神さまは、痛みと疲れで、くたくたでした。神殿の祭壇の前でばったりと倒れると、それきり彼は動きませんでした。

命の神さまは、嘆きました。彼女は命たちと死の神さま、たくさんの大切な存在を一度に失ってしまったのです。命の神さまは起き上がり、死の神さまを抱きしめました。そうして、ずっとずっと、彼女は死の神さまを抱きしめ続けました…


命の神さまは、あるひとつの美しい人形をつくり、それに命を吹き込みました。人形はゴーレムとなってひとりでに動き出し、眠りにつこうとするふたりを守りました。いつまでも、いつまでも、ゴーレムは神さまたちを守りました。


あるとき、ふたりの神さまのうちのひとりが目を覚まし、起き上がりました。神さまはあたりを見回すと、ゆっくりと立ち上がり、歩き出しました。ゴーレムはその神さまを見守っていました。しかし神さまは、神殿を去ろうとしました。ゴーレムは止めました。神さまを神殿で休ませ、守ることが使命だったからです。神さまは生気のない顔でゴーレムを見ましたが、そのあと、ふらふらと神殿を去っていってしまいました。結局、ゴーレムには止められませんでした。こうして、神さまはひとり、世界の果ての神殿から去っていきました。


ゴーレムは、待ち続けました。もうひとりの神さまが目覚めるときを。去っていった神さまが帰って来るときを。来る日も、来る日も、ゴーレムは信じて待ち続けました。晴れの日も、曇りの日も。雨がふる日も、虹がかかる日も。来る日も、来る日も。来る日も、来る日も…


そして、やがて神殿は空っぽになり、彼らは出会うのです。

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