疑問たち

太陽がだいぶ高い位置に昇る。R4-Bは横たわりながらしきりに目をきょろきょろと動かす。なんだかそわそわする。体の下の草の感触を感じられない。土の冷たさが気になってしまう。落ち着かない。ロートヴァルに嘘をついた。嘘。偽り。虚偽。実に悪魔らしい行為。彼は自己嫌悪と、しかしそうするしかなかったのだという慰めに板ばさみになる。葛藤。急に落ち着きのなくなった彼を、ロートヴァルはあまり気にしていない。傷が痛むのだろう、と考えているに違いない。R4-Bは地面をひたすら見つめる。土のつぶを数えてやろうかしらと、なかば本気で考える。黒い土。緑色の植物たち。名前の分からない、白くて小さな花。

そこで彼はふと疑問に思った。

「そういえば、ねぇ、ロートヴァルはどうして火傷にきく薬草や、薬の作り方を知っていたの?」

「え…?」

ロートヴァルは驚く。

「なんでそんなことをきくんだ?薬草の知識なんて、皆知っているものだろう?」

「そうかな…?少なくとも僕はあんまり知らないよ。本でちらっと読んだくらい。今はお医者さんがいるからね」

「オイシャサン…?」

「お医者さんを知らないの?」

そこで彼は再び、ロートヴァルが記憶喪失であることを思い出す。しかし何かが引っかかる。

「ねぇ、ロートヴァル」

彼はたずねる。

「自分の本当の名前、故郷…思い出せる?」

ロートヴァルは怪訝な顔をし、しばらく考え、そしてがっかりしたような顔をした。

「いや、何も」

「そっか…」

そして彼は、彼の中にむくむくとふくらんできた大きな疑問をうつむく大男に投げかける。

「どうして、どうして自分の名前や故郷はわからないのに、薬草や薬の知識はあるんだろう?どうして薬草の知識なんて皆知ってるっていうことを知っていたんだろう?皆って誰なのかな?」

彼はロートヴァルを見る。大男はひどく青ざめていた。

「ね、ねぇ、大丈夫?僕、何かひどいことを言っちゃった…?」

「いや、そんなことはない、絶対にない…だが…」

ロートヴァルはぶつぶついう。

「今は何時だ?何日だ?いつの時代だ?なぜ俺は薬草の知識なんか持っている?薬草なんて…薬なんて作ったことはない。少なくとも今持っている記憶の中にそんな体験はなかった。今は何年の何月何日だ?なんで…なんで俺は薬なんか作れたんだ…?」

「ロ、ロートヴァル…?」

彼はおかしくなったようにぶつぶつ言う大男を慌ててなだめた。

「思い出せないのならしょうがないよ。もしかしたら記憶を失う前、ロートヴァルはお医者さんだったのかもしれないし、薬草に興味があったのかもしれない。そんなにひどくうろたえないで。大丈夫だよ」

「いや…いや、そうだな」

ロートヴァルはなにか言いたげだったが、ぐっと言葉を飲み込んだようだった。そしてしばらくすると、ようやく落ち着きを取り戻す。しかしまだ、血の気の無い唇に手をあてて考え込んでいる。

「ねぇ、ロートヴァルも疲れているんでしょう?体が重いのに、僕をこの森まで運んで、治療をして、木の実を探して、記憶喪失のせいで混乱して…。少し横になったら?座って目を閉じるだけでもいい。とにかく休んだほうがいいよ」

「あ、ああ…ありがとう」

ロートヴァルは木の根っこにどっかりと腰を落とすと、目を閉じる。そうして二人はしばらくの間、さわさわと木の葉をゆらす風の音を聞く。涼しくて心地よい。青空に木の葉の緑が映えて、なんとも美しい。ロートヴァルを起こしては悪いと思い、R4-Bは眠たくはないけれどとりあえず目を閉じてみる。チェシャのことが心配だった。いたずら好きで、よく動いてすぐにお腹をすかすチェシャのことが。はやく帰ってあげなきゃ。でも、どうしたら?ロートヴァルにさっそく嘘をついてしまった僕はこのままでいられるのかな?ロートヴァルは、僕が悪魔だということにはまるで気がついていない。ロートヴァルは本当に、どこから来たのだろう?あの右頬のタトゥーのような化粧には、なにか意味があるのかな?ロートヴァルはこれからどうするのだろう?次々と疑問が浮かんでは、心のなかでふくらみ、ぱちんと消えていく。てっきり起きたばかりだから眠れないだろうと思っていたのに、知らず知らずのうちに、彼はまた夢の世界へ足を踏み入れていく。

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