後編

 バイスが、エイラめがけて、ダガーを振り下ろしてくる。

 腱を切られ、身動きが取れない。


 た、【ターン】!


 間一髪、ユニークスキルを発動できた。

 エイラは、洞窟の中程まで、一瞬で戻って来る。

 ハア、ハア。荒れた息を、エイラは整え、心を落ち着かせる。


 およそ十分前まで、時間を巻き戻す。それが、【ターン】の効力である。


 ただ、連続して戻る事はできない。

 仮に、三分後や、五分後に、ターンを用いても、戻れるのは、今、エイラがいるこの地点までだ。


 ……失敗したぁ。

 ワイズが、消えた直後に、使えばよかったよぉ。

 わたしのバカぁ。


 て、アイツ、一体、ナンなのお?


 そういえば……、町で耳にしたうわさを、エイラは思い出す。「初心者狩り」をしている冒険者がいるらしいとの事だ。もしや、バイスが、そうなのぉ?

 ナンてついてなんいんだぁ。


 今の自分には、到底、勝ち目などない。それくらい、エイラは重々理解していた。


 けど、他に出口なんか、ないよぉ。

 た、戦うしかないのか。


 当たって砕けろの心境で、ふたたび、バイスの元へ。

 ……砕けました。


 ターン。


 うぅ、実力差ありすぎるよぉ。

 ヤだよぉ、こわいよぉ。

 くすん。

 きっと、ママも、パパも、わたしが今頃、本屋さんで、一生懸命働いていると思っているんだろうなぁ。

 なんで、こんな事に……。

 けど、泣いていても、どうしようもない。

 エイラは、涙を拭い、再び、入口へと向かった。


 くり返し、戦ううちに、相手の攻撃パターンもわかってきた。

 まず、ダガーで、こちらの右腕を切りつけ、次に、脚の腱を狙う。


 実力差は歴然でも、予め動作が完璧にわかっているのだから……。


 よけられた!

 バイスは、物凄くびっくりした顔をする。へへん。ざまぁ。

 その時、頭の中で声がする。


『スキル、【回避】を獲得しました』


 へ、スキル、まじで?

 驚いていると、バイスのダガーが、エイラの首筋を掠めそうになる。


 やば……ターン!


 洞窟のいつもの地点に戻ってくる。

 フウ。あ、あぶなかった。

 深呼吸。心を落ち着かせ、ステータスを確認する。



氏名:エイラ・ハンティング

種族:人族

Lv:1

HP:27

MP:21

力:10

魔力:13

すばやさ:16

耐力:9

運:14


スキル:回避Lv1

ユニークスキル:ターン


 やった、【回避】のスキルはそのままだ!

 戻っても、入手したスキルは維持されるらしい。

 どんなスキルなんだろう。


 回避Lv1︰敵の攻撃の回避率を、一割上昇させる。

 入手条件︰Lvが10以上高い相手の攻撃をよける。


 何か、ちょっと、希望が出て来たぁ。


 さらに、三十回ほど、バイスに挑んでは、ターンをくり返した。

 結果、【反撃】のスキルを、ゲット。


 スキルの入手条件は様々だけど、Lv差の大きい格上の相手と戦うと、入手しやすいようだ。


 さらに、百回以上は、バイスに挑戦した。

 スキルも、いろいろ獲得した。

 戦闘回数をこなす事で得られるスキルも結構、あった。

 【剣術】の入手条件は、剣での戦闘を百回繰り返すというものだった。

 すでにゲットしたスキルも、戦い続けるうちにレベルアップしてくぅ。

 それらを駆使すれば、結構、戦えるようにもなってきたぞ。


 攻撃を躱しつづけるエイラに、バイスは不思議そうな顔をする。

 なぜ、当たらん。きっと、そう思っているハズ。

 苛立ちを露にする事も。そうなると、スキも生まれる。

 けど、エイラの力では、バイスのHPを少しずつしか削れない。いくら攻撃がよめるといっても、躱し続けるのには限界もある。


 急所への、強烈な一撃。勝つためには、それしか、ない。


 バトル、ターン、バトル、ターン、バトル……。


 もう、バイスの次の動作が、ほぼ完ぺきに予見できる。

 攻撃を、躱しまくるエイラに、バイスのイライラが爆発する。


「なぜだぁ、どーして、当たんねえんだよおぉ」


 怒りに任せた攻撃ほど、スキだらけで最悪なものはない。

 数千回にもおよぶバイスとの戦闘から、エイラが学び取った事だ。


 バイスが、両手で握り締めたダガーを、頭上高く振り上げる。ガードへの意識など、皆無。ただ、エイラを突き刺す事しか頭にないのだろう。


 頭から、つま先まで、ぜんぶがら空きだ。


 くらええぇっ!

 エイラの突き出した剣先が、バイスの首に突き深く刺さる。


「う、ウソだ」


 バイスは、目を見張り、呆然とした顔をする。


「ぐはあ」


 刃を引き抜くと、傷口から大量の血を噴き出し、バイスは崩れ落ちる。



『スキル【一撃必中】を獲得しました』


 今更、おそいわ!


 洞窟を出たエイラ。

 すんごい久しぶりに外へ出た。景色が、ま、まぶしい。で、空気がうまい。


 すぅー、はぁー。


 町の戻り、冒険者ギルドの受付嬢を見た時、涙が出て来た。

 まるで、数年ぶりの再会のような気分だった。


 泣いて喜ぶエイラに、受付嬢はすごくふしぎそうな顔をする。

 当然だろう。彼女にとっては、たかだか数時間ぶりなのだから。



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最初のダンジョンから出られません 鈴木土日 @suzutondesu

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