最初のダンジョンから出られません

中編

　ソロ、か。

　バイスは、洞窟に向かう娘を見て、独り言ちた。

　歳は十代半ばくらい。茶色いセミロングの髪。顔は、まあ可愛い部類だろう。

　背は低め。太ってはおらず、痩せすぎてもいない。

　初心者（ルーキー）なのが、一目瞭然だ。

　装備は、革製の鎧と、腰にぶら下げた長剣。いずれも安っぽい。傷ひとつなく、新品同然だ。

　そうでなくとも、彼女の向かう先を考えれば、それは明白なのだが。

　クアンダ東の洞窟。通称、＜初心者（ルーキー）ダンジョン＞。

　この地で、冒険者になったばかりの者が、大抵、足を運ぶ場所だ。

　地上一階層のみ。

　棲息するのは、脆弱な魔物だけ。宝もなく、素材として魅力的な魔獣もいない。が、きのこ類が多く繁殖しており、稼げはしないが、初めての探索にはうってつけだ。

　案の定、彼女は、洞窟内へ入っていった。

　バイスも後を追う。

　ほぼ一直線のシンプルな構造で、迷う事もまずない。

　少し進んだ先で、彼女の後ろ姿を見つけた。

「探索者の方ですか？」

　バイスが、そう声をかけると、彼女は、ふりむき、少し驚いた顔をする。

「あ、え、は、はい」

「まだ、初心者みたいだね」

「あ、まだ、はじめたばかりで」

「よかったら、ご一緒するけど」

　彼女は、少し、戸惑うような顔をする。

「ぼくも、奥まで行くので」

「はあ」

　彼女と並んで、バイスは洞窟の奥へ向けて歩き出した。

「ぼくは、バイス。キミは？」

「エイラです」

　予想通り、きのこの採取が目的らしい。

　オレは、彼女に【鑑定】を試みる。

氏名：エイラ・ハンティング

種族：人族

Lv：1

HP：27

MP：21

力：10

魔力：13

すばやさ：16

耐力：9

運：14

ユニークスキル：ターン

　ぷ。思わず、バイスは笑いそうになる。バリバリの初心者だ。

　ユニークスキルは、あまり聞き覚えのないものだ。ターン？　初めて目にする。まあ、大した警戒も要らないだろう。所詮は、超がつく初心者だ。

　スライムが出現したので、エイラに戦わせてみた。

　剣さばき、動きからも、彼女がド素人である事は明白だ。

　最深部までつくと、さっそく、エイラは、きのこを摘み、布袋に入れ始める。

「摘まないんですか？」

　佇んだままのバイスに、エイラは問い掛けてくる。

「ぼくは、きのこ採取が目的じゃないんでね」

「え、じゃあ、ナニしに？」

「別の物を摘み取りにきたんだ」

　バイスは、薄い笑みを浮かべる。

「ここは、出入口はひとつだけ。出るには、来た道を戻るしかない」

「はあ」

　エイラは、訝しそうな顔をする。

　バイスは、腰の鞘からダガーを抜く。

　エイラの顔に、かすかな不安に色が浮かんだ。

「入口で、待っているから」

　バイスは、【離脱】の魔法により、一瞬にして、洞窟の入口付近まで移動してくる。

　ルーキー狩り。それが、バイスの生き甲斐である。

　これまでに、十数人は、彼女のようなルーキーを葬ってきた。

　今、エイラは、今、自分が危害を加えられるであろう事を予期した上で、ここへやってきているはず。

　それを想像すると、バイスは激しい興奮を覚えた。

　一応、彼らも、新人とはいえ、冒険者としての矜持くらいはあるのだろう。

　泣いて命乞いするような奴は、稀だ。

　大抵、覚悟を決めたような顔で出てくる。

で、オレに刈られる。ぷ、フ、ハハハハハ……。

　前方に人の気配があった。足音と共に、闇の中からエイラが現れる。

　ようやく、覚悟を決めたようだな。

　ダガーを抜いたバイスは、問答無用でエイラに襲い掛かる。

　バイスの攻撃を、エイラはよけた。

　何だと？

　運よく、躱したようだ。が、そう何度も幸運はつづかないぜ。

　二度目の攻撃も、あっさり避けられてしまう。そんな、どうしてだ？

　逆に、エイラ剣が、バイスの眼前を掠める。

　あ、あぶねえ。危うく、斬られる所だった。

　……一体、どうなっているんだ？

　さらに、ダガーをふるうが、またしても、躱される。しかも、容易く。

　こちらの動きが、読まれている？

　そうとしか、思えない。

　て、いうか、動きが、さっきとはまるで別人じゃあないか！

　バイスは、慌てて、【鑑定】を行う。

氏名：エイラ・ハンティング

種族：人族

Lv：1

HP：27

MP：21

力：10

魔力：13

すばやさ：16

耐力：9

運：14

スキル：回避LvMax、

先制攻撃Lv3、反撃Lv5、連続攻撃Lv2、

敏捷上昇Lv2、耐久強化Lv3

ユニークスキル：ターン

　な、何だ、こりゃ？

　ステータスの数値に、たぶん変化はない。

けど、スキルが、すごい事になっている！

　どうなっているんだ？

　バイスは、パニックに陥りそうになる。

　この十分ほどの間に、いったい、何があったというんだあ？