第二話 羽ばたいて 初めて檻の 中と知る
「お父さんお母さん。私、ギターやってみたい」
私は初めて両親に何かをしてみたいと告げた。すると口を揃えてやめなさいと言ってきた。応援はされないだろうと思っていたけど、こんなに否定されるなんて思わなかった。
マンションなんだから近所迷惑になる。
楽器なんて触ったこともないでしょ。
他のものにしなさい。
いつもは何でもやってみなさいと言うくせにどうしてそんなことを言うのだろう。
兄や姉は好き勝手やっているのにどうして私だけやっちゃいけないんだろう。
きっとお父さんやお母さんの言うやってみなさいは、お父さんやお母さんにとって都合のいいものに限られている。いくら反論しても説得することはできなかった。
こっそりと始めようとも考えたけど問題は山積みだった。お小遣いはあるけれどギターを始めるには心もとない。高校はバイトが禁止されているから、お金を稼ぐこともできない。手短な売れるものを売ってみたけどやっぱり足りなかった。ちまちまとお金を溜めていくつもりだけど、いつになったら始められるだろう。
諦めたわけじゃないけれど、私は自分のやりたいを押し殺している。これまで自由だと思っていた日常がひどく窮屈に思えた。ベットの上に寝転がるとぎいと軋んだ音がする。イヤホンから流れる彼の歌は私の心を急かす。何となく歌詞を口ずさんでみた。
「かわーいたしんーぞう、ひびー割れーしたーたるー。ちーのあーつさーこそ、ぼーくらーのこーえだ……」
はっとする。これは私だ。今の私だ。
やりたいことを押し殺して、それでも諦めきれなくて心の奥で叫んでいる。その声が血となって漏れ出しているんだ。ばっとスマホの画面を見た。何度も見た顔が何倍も何倍も輝いて見える。
やっぱりすごい。あの人はすごい。10年も前の歌が今の私の心に響いている。その歌詞を書いたあの人は、きっと未来を生きている。
あんなに打ちのめされた後なのに、私は心を熱くしていた。
「好きだなぁ……」
こぼれた声に顔が赤くなるのを感じる。誰に見れられているわけでもないのに、枕に顔を埋めて悶えた。言葉にするとこんなに恥ずかしい。
そうだ。思いを言葉にするのには勇気がいる。これまで自分から何かしたいと思わなかったから、それが大変なことだなんて考えたことなかった。でも今ならわかる。流されるままでいるのは楽だったけどぜんぜん自由なんかじゃない。
「ギター、買おう」
いつかじゃない。今だ。今買おう。ローンを組めば、何とかなる。やりたいを押し殺したら駄目だ。あの人の歌がずっと教えてくれていた。そうやって後回しにしていたら、青春なんてすぐに過ぎ去ってしまう。
またあの人の歌に背中を押してもらった。私はまたあの人の歌を口ずさむ。
「ギターを鳴らせ、
そうだ。手に入れたら24時間、思いっきりかき鳴らそう。さすがに無理だろうけどできる気がする。今の私なら何でもできる気がした。
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