第32話 クリエールRF 人型マシンの理由

ー現実世界 高等部2年教室ー


委員長さん「じゃあ、一日だけ紅さんを貸してもらうわよ?」

キキョウ 「聞きたいことが山ほどあるでござる」

ラン   「壊さないでね?紅ちゃんのバックアップはないから」

リエ   「(涙目)紅、元気でね」

紅    「リエ、たかが一日だ、永遠の別れではない」うるうる

ロベリア 「じゃあ、帰りますか」

キキョウ 「ロベリア殿は姉上の手伝い。居残りでござるな」

ロベリア 「ゑ?」

ラン   「お先に失礼いたします。ごきげんよう皆様」

リエ   「お嬢様設定だったね、ランって」


委員長さんとキキョウだから

園児服着せたり写真撮って脅しの道具に使うぐらいか。

メンタルは破壊されそうだけど私も同じ。

いえ、ランと一緒だから一人じゃないか。

ランの黒い仕事用スマホから着信音が鳴る。

しばらくの会話の後。


ラン   「ごめんリエちゃん急用が入ったの。今日は帰れそうにない」

リエ   「分かったわ。合いかぎは持ってるよね?じゃあ、また明日」


私は一人になった。いや今日だけ、そう思いたい。

依存先がいないだけでここまで寂しいなんて。

もう何もしたくないし今日は早めに寝よう。

今回の話にオチなんてないわ。私はそんなに強くないし。



ー夕方 通学路ー


俺の15cmボディはカトレアの胸ポケットに収納されていた。

ちょうど肩が出るぐらいか。周りの景色も見れて手も動かせる。

生徒手帳越しだが彼女はほどほどに胸部装甲が大きい。

時々むにぃとした感覚が襲う。リエのまな板とは居住性が違う。


紅    「俺に何をさせたいのだ?コスプレは分からないからな。

     着替えは手伝ってもらうぞ?」

カトレア 「あれは本音だけど私の真の目的ではないわ。

     ”紅さん、蒼転寺さんとのペアを解消してほしいの”」


    

紅    「カトレアが俺を憎む気持ちはわかる。ランが好きなのだろう?」

カトレア 「私そんな事言ったっけ?」

紅    「自覚症状なしか!怖いわ!!」驚き

カトレア 「蒼転寺さんにも話したけど、

     新型試作機で大会に出るのはヘイト、つまり憎しみが生まれるのよ。

     主催者権限で次世代機持ってきたらインチキだって思うでしょ?」

紅    「正論だ、しかし宣伝としては効果大だぞ?」

カトレア 「彼女は仕事に取り付かれているわ。きっとどこかで

     自分を追い込んで破綻する。私にできるのは今この場で止めることだけ」

紅    「ランはそういうタイプだぞ?昨今本音でぶつかり合うことは

     美徳ではなくなった。いわゆる社会的距離が人と人のココロにまで

     普及しつつあるからな」

カトレア 「ネットの影響かしら?」

紅    「相互監視社会の弊害だな。無論悪口は良くないが

     少しでも変わったことをすればネットに晒される時代だ」

カトレア 「だから!それで蒼転寺さんが傷つくかもしれないじゃない!!」

紅    「彼女は道化を演じているのだ。売上の数字ではなく

     代理戦争の大事さを広めるために!」

カトレア 「代理戦争?いまいちピンとこないわ」

紅    「人型マシーンはいわば自分の分身アバターだ。

     血の流れない喧嘩だからこそ本音を語れる場になる」

カトレア 「別にVRゲームでよくない?」

紅    「アナログなおもちゃだからこそ、細部を自分で改造できるからな。

     ここだけ差し色塗りたいとかなら、ペン一本ですぐだ」

カトレア 「リエさんが聞いたら発狂しそうね」

紅    「それは違う。リエはどちらかというとブンドド、

     手に持ってガシガシ遊ぶタイプだからな。

     コンテスト用の奇麗な作例を作るのは性に合わない。

     紙袋をクシャクシャにしてマントを作ったり、

     クリア下敷きを買ってきて、剣の形に加工したりな」

カトレア 「なんか子供っぽいわね」クスッ

紅    「子供だからな。おそらく老人になってもやるだろう。

     将棋や盆栽やる感覚でおもちゃと遊ぶ。これは予言だ」

カトレア 「でも、大抵の大人って趣味を捨てて人生を進むでしょ?

     装狂演譜だってそうなる運命よ?なんでリエさんも

     蒼転寺さんもそんなに入れ込むの?」

紅    「リエの場合は友人ができた事だ。

     もともと入れ込んでいたがキキョウという相棒を見つけ暴走した」

カトレア 「うちの妹のせいだったのね。謝るわ」

紅    「ランの場合は自身のハイスペックが原因だろう。

     実家は金持ちで自身も就職最難関の企業にアドバイザーとして就き、

     さらにまだ学生という若さもある。

     まさに主人公と呼ぶにふさわしいスペックだ。

     故に孤独なのだろう。近寄るのは偽善者な

     ビジネスパートナーばかりだ。これは前回の戦いで確信した。」

カトレア 「そんな素振り見せてなかったけど?」

紅    「優秀だからこそ釣り合う人間がいない。それは誰にも

     背中を預けられない証だ。

     だから同じ条件で戦う装狂演譜を作ったのだろう。

     二対二の戦闘もいつか相棒ができた時のためと信じたい」

カトレア 「だろう、とか推測が多いと読みにくいわよ?」

紅    「カトレア!ボケ側に回るな!!俺も彼女の本音を

     全部知ってるわけじゃないからな!!

     シリアスシーンが台無しではないか!!」

カトレア 「今回の考察って”未来”を知っているかのようだったわ。

     私も知らない情報ばかりだし」

紅    「仮に俺が未来人だとしたらどうするのだ?」

カトレア 「どうもしないわよ?ただ蒼転寺さんを思う気持ちだけは

     伝わった。不本意だけどあなたに任せるわ。

     全力で彼女に向けられる憎しみを振り払いなさい!!」

紅    「俺とリエだけではだめだ。ランに対し真っ向から意見を

     ぶつけられるカトレアの支えが必要だ。俺たちにはアクセルしか

     ないからな。ブレーキ役がいないのだ」

カトレア 「(引き気味)自分たちの評価凄い低いわね」

紅    「俺が未来人なら、こんな首輪付けられていないぞ?」

カトレア 「それもそうね♪私の家にもうすぐ着くけど、

     紅さんって何食べるの?」

紅    「ああ、コンセントの電気だぞ。

     電力会社や電柱によって味が変わるから飽きが来ないのだ」

カトレア 「違いなんてあるの!!」

紅    「当然味は嘘だ。そのへんはオーディオマニアが詳しいぞ。

     音が違うらしいからな」

カトレア 「何故嘘ついたし」

紅    「せっかく今日一日お世話になるのだからな。

     ウィッグに富んだジョークというやつだ」ドヤァ

カトレア 「ウィットね。横文字を使いたい年頃だと思うけど、    

     無理は身を亡ぼすわ」

紅    「ぴえん」


ーリゾルート宅ー


リゾルート宅に着き、カトレアの部屋に案内される。

いや、別に人の趣味は人それぞれだからな。うん。


ランの顔写真が貼られた”お友達ファミリア”の小さな人形達が

兵馬俑のように奇麗に整列したことを除いてはな!!

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