第13話 スミレと異世界修学旅行 紅のナイフ

注意 流血表現があります



キキョウ 「前回のあらすじは!喋るシカの語尾が狂ってる


     話ザウルス!」


紅    「キキョウも狂ってるぞ!!」






師匠が出した課題。それは俺が作ったナイフで


”一番倒したいやつを傷つける”こと。


そしてその相手はやってきた。




ー車輪の惑星 サムライ国 ナーラ県 師匠の道場 外ー


リエ   「はい、お茶と肉まん。冷えるでしょうに。


     要件があるなら手短にね」


紅    「ああ。助かる・・・。」


リエ   「らしくないわね。きつい修行で逃げたくなったとか?」


紅    「そんなことはないんだ。ただ・・・。」




リエ。真紅のツインテールで頬に絆創膏。


脳内快楽物質の増大および


酸素供給不足による脳がマヒした思考能力の低下という二つの要因を


”紅の双璧”と定義した張本人。いわゆるランナーズハイやゾーン。


脳や体のリミッターを外し


自分のイメージする最強の姿を具現化するシステム。


周りの人間を圧倒できるのだからと増長した結果


別人格が生まれてしまった




紅の双璧。地の文担当。リエの別人格だが今は機械の体で


稼働中だ。電気と魔法のエネルギーで動く。


真紅のツインテールだ




ラン。緑髪ポニテ眼鏡。リエの装狂演譜のパートナー


唯我独尊の効率優先主義者






俺は事情を話した。差し入れのお茶が体に染み渡る。




リエ   「意外よね、倒したいのが私って。ランやキキョウかと


     思ってた」


紅    「その二人は愛でるタイプだろ」


リエ   「まあ、それもそうね。もしランに攻撃するなら


     私が本気で止めるし」


紅    「だろうな。正直俺も分からない。このことを話さず


     普段の漫才ツッコミでナイフを使えばいいのにリエに話した」


リエ   「いや、魔法少女だから再生するけどさ、


     よいこが真似したら大変よ?」


紅    「・・・。」


リエ   「全く、こういう所でまじめなんだから。誰に似たのよ!」


紅    「リエがそれを言うか!!」


リエ   「課題は傷つけること。つまり指先をちょっと切ればいいのよ。


     私の指先はプラモのゲート処理で使ってる妖刀で


     ボロボロだから。いまさら傷が増えたところで


     困ることはないし」


紅    「しかし!リエはそんなキャラじゃないだろう!


     ツンツンでいつも俺の邪魔ばかりしている!


     急にデレたらおかしいだろ!!!」


リエ   「(背中を向ける)これは独り言だけど紅が私だけを頼って


     連絡してきたのが嬉しかったのよ。普段喧嘩してばっかだし。


     正直最初と比べて態度は軟化したしそろそろ


     デレてもいいかなーって時にツンツンされるんだもの。


     敵意が湧いてきちゃうのよ」


紅    「何だと?俺がいつツンツンしてたのだ!」


リエ   「割かし全部だと思うわ」溜息


紅    「俺も独り言だ。はじめはリエが羨ましかった。


     いうなれば嫉妬だ。仲間に囲まれていて、いつも笑顔でいて、


     俺とは違う生き方をしていてな」


リエ   「私もダウナーだったのよ?ランがトラブルを起こすうちに


     社交性が上がっただけ。パワーレベリングってやつ」


紅    「なら俺もか。今は一人でいる時間が怖いからな」


リエ   「結局私たちは誰かに依存しないと生きられない


     体質かもしれないわね」


紅    「どうやらそうらしい。依存先が取られてしまう恐怖から


     反射的に口が動いてしまうか」


リエ   「だから二人っきりの時は争いが起きないのよ。


     今も紅に依存してるし」


紅    「フッ。所詮は似たもの同士か」




肉まんを頬張る。風が冷たくなってきた。これ以上長引かせると


リエが風邪をひくかもしれないな




リエ   「寒くなってきたわね。あんまり長引くと


     みんなが心配しちゃうし」


紅    「リエ、どういった理由で抜け出したのだ?」


リエ   「20年ぐらい前のカードがSNSで話題だから


     探してくるって」


紅    「そこは俺に呼ばれた。でいいだろう!!!」


リエ   「(切れ気味)はぁ?そんなこと言ったら


     恥ずかしいじゃない。私の都合を考えてよ!!」


紅    「断言しよう!リエにデレ期は来ないと!!」


リエ   「(不機嫌)じゃあ、私がチャンスをあげる。


     さぁ、今すぐ切りなさい」人差し指を向けー


紅    「(おどおど)し、しかし」


リエ   「私は背を向けているからあんたの攻撃か別の要因かは


     わからない。帰るついでに絆創膏買ってくればいいだけ。


     でも紅は違う!この課題をクリアしなければ前に進めない。


     私のことはいいから切りなさい!!」


紅    「何故そんな自分が傷つくような選択をするのだ!


     俺はただ・・・」


リエ   「俺は何!強くなりたいんでしょ?がむしゃらに強くなるなら


     私を踏み台にして超えなさい!!


     それができないなら一生弱虫よ!!


     私はランに似た質問をした。生殺与奪の権利を与えて


     ランは私を求めてくれた!今がそれと同じとき。


     紅はどうするの?切る?切らない?はっきりしなさい!!」


紅    「(膝から崩れ落ちる)すまない。俺には切れない」


リエ   「(不機嫌)正気で言ってるの?


     最強の自分のイメージを具現化するなんて


     聞いてあきれる設定よ。


     昔より弱くなってるじゃない!!


     今のアンタは現実から逃げているだけ!」


紅    「返す言葉がないな。すまなかった。リエ。


     覚悟が足りなかったようだ」




俺は立ち上がり逃げるように師匠の道場内に入った。


やがてリエの叫び声が聞こえなくなった後、


スマホにメールが届く


”覚悟を決めたらすぐに連絡しなさい!!”


多分俺はリエに勝てないだろうなと思ってしまった。


いや、俺がリエの立場なら同じことをしていただろうし


リエは多分俺を切らない。


どちらも自分を蔑ないがしろにして


相手を尊重しすぎる。




同じ問題に対しランの本心を引き出し


リエ達は宇宙に行くこととなるのだから


あの戦いは実質リエの勝ちだ


ゲームの勝敗で何が変わるのだと思うかもしれないが、


本音の感情をぶつけあう血の流れない喧嘩。


だから全力で自分の感情を出し切れるのだろう




しかしナイフでは血が流れてしまう


仮想ではなく現実で。


俺は一人で強さを求めてきた。でも今は腐れ縁がいる


誰かを守りたいと思っているのだろうな。


いや、失いたくないだけだな。


依存先が欲しいだけ。


だからこそ、強さが欲しいのだ。






シカ   「その様子では課題はまだシカな」


紅    「(俯く)俺には仲間は切れなかった。


     失いたくないんだ」


スミレ  「紅様らしくありませんね。私なら切れますか?」


紅    「いや、無理だろうな。戦いならば切れるさ。


     だがあの場所のリエも今のスミレも無抵抗だからな。」


シカ   「理想が高すぎるシカ。師匠が言っていたように


     池の魚を切ればいいシカ」


スミレ  「もはやこれは紅様の問題。私たちは


     答えを教えることはできないです」


シカ   「いい仲間に恵まれたのだな。


     だが、彼女たちが敵になった時、君の判断を鈍らせる。


     君は何もできずやられるのを待つだけだ」


スミレ  「紅様、あなたは戦闘面では強くなられました。


     しかし精神面はどうでしょう?


     時に仲間を切る覚悟。それも強さなのです」


紅    「今回はダメかもな。答えが浮かばない。


     すまない。外の風に当たってくる」






ーナーラ県 市街地ー




正直行く当てなんてない。師匠の道場周辺をふらふらする。


コンビニで買ったホットスナックを食べながら散策していると


橋が見えた。リエがよく落ち込んだ時にやる儀式。


俺がするのは初めてだが、なるほど、確かに落ち着く。


道に落ちている石を掴み、下の川に投げ込む。


何やってるんだろうな俺は。


ただチカラを振りかざすことが強さだとぉおおおおおおお




キキョウ  「やっぱりリエ殿と似てるでござるな。


      はい。冷たいスポーツドリンク。川の見える橋に来たって


      ことは落ち込んでるでござるな」


紅     「脅かすなキキョウよ!!地の文が崩壊したぞ!!


      それより,リエの所に行ってやれ。


      たぶん精神病んでると思うからな」


キキョウ  「リエ殿は素直じゃないから、外出する機会を


      狙っていた。皆を騙せるような嘘の動機で。


      いや皆も分かってて見逃したでござるな」


紅     「まさか、俺を心配していただと?


      いや、リエを呼び出したのはこの俺だ。


      そんなことがあるものか」


キキョウ  「やっぱり会ってたでござるか。何を話したかは


      知らないけど、リエ殿はスマホの確認っしぱなしで


      心ここにあらずでござる」


紅     「いやソシャゲではないのか?」


キキョウ  「ガチャ回す時以外に溜息なんてしないでござるよ?


      いつだってゲームのシナリオはわくわくするで候」


紅     「だが、俺は何度も挫折し、敗北のほうが多い。


      ゲームや創作の主人公ではない」


キキョウ  「挫折するたび立ち上がってきたのでござろう?


      それって万人受けはしないだろうけど主人公でしょ?


      いや、たとえ地獄に落ちても紅殿なら


      這い上がってきそうでござる」


紅     「それってカッコ悪くないか?」


キキョウ  「拙者は好きでござるよ?負け越す主人公。


      今日負けても、未来で勝てばいいでござる」


紅     「他人事だと思って好き勝手言ってくれるな」


キキョウ  「他人事でござるからな。紅殿が弱くても


      拙者が強ければ守れるし」


紅     「それは俺がまだ弱いという事か?」


キキョウ  「考えかたが違うでござるよ?


      リエ殿が他人を応援するタイプなら、


      紅殿は応援されるタイプ。だから


      いっぱい失敗してそのたびに高笑いしながら


      復活すればいいでござる。


      例えばゾンビみたいに」


紅     「そこは不死鳥であってくれ」


キキョウ  「といってもゾンビアタックってゲームの攻略法が


      あるでござるし、紅殿も本来はこの世にいないでござるよ?」


紅     「ここは譲れない!炎まき散らしたほうが


      カッコいいだろう!!!」


キキョウ  「(半笑い)ようやく紅殿が復活したでござるな」


紅     「キキョウ!図ったなキキョウ!」


キキョウ  「何年幼馴染やってると思ってるでござるか?


      リエ殿も紅殿も本質は同じ。カッコいいものに


      恋焦がれる性格でござる」


紅     「フッ。すまないなキキョウ。そうだ!


      これは百合物怪文書クリエール!


      シリアスなど似合わないからな!!!」


キキョウ  「もしシリアスが好きな方には申し訳ないでござる。


      この作品はギャグ寄りで候」




紅     「俺に与えられた課題、聞かなくていいのか?


      今なら俺が頼ってやるぞ?」どやぁ


キキョウ  「(悪だくみ顔)そんな気などないでござろう?」


紅     「やはり勝てないな。だが感謝するぞ!キキョウ様!」


キキョウ  「洗脳なんて紅殿には似合わないでござるな。


      明日の夕方には移動でござる!それまでに!!」


紅     「ああ!片付けてやる!!紅と紫!


      二つの双璧が手を組んだのだ!ニンジャだろうが


      サムライだろうが倒してやる!!!」


キキョウ  「リエ殿に連絡するでござるか?」


リエ    「その必要はないよ!!」にやり


紅     「(動揺)り、リエだと!!いつからここに!!!」


リエ    「人が黄昏たそがれてたら、騒がしい声が聞こえたの。


      これが理由」


紅     「橋に来たって


リエ    「さっきも言った通りSNSで話題になったカードが


      売り切れでね。病んでたの」


キキョウ  「ツンデレでござるなぁ」


紅・リエ  「「誰がツンデレだ!!」」




調子が戻った俺は思考を巡らせる。


”このナイフで一番倒したいヤツを傷つけてきな”


・・・・。見えたぞ!!禁じ手が!!!!






ー師匠の道場ー


三人    「「「たのもー!!!」」」


スミレ   「おかえりなさいませ紅様。リエ様。キキョウ様?」


シカ    「倒したいやつは二人いたでシカ?」


紅     「いや一人だ!!師匠を出せぃ!!」


師匠    「雰囲気というかキャラ変わったのかい?」


リエ    「寂しがり屋なの。紅ちゃんは」


キキョウ  「不死鳥よりウサギさんでござる」


ラン    「面白そうね。紅は強いわよ?」


カトレア  「やっちゃいなさい!紅さん!!」


クローバー 「うむ、このテンションの紅の字は


      何をしでかすか分からないのじゃ」


紅     「ラン!カトレア!クローバー!旅行を楽しめばよいものを!」


スミレ   「心配だったのでしょう。ラン様からの


      連絡も多いですよ?」


ラン    「リエが帰らないから探してただけよ!!」


カトレア  「紅さんはこうでないと♪」


クローバー 「キョウの字がいないと夜眠れないのじゃ」


師匠    「”このナイフで一番倒したいヤツを傷つけてきな”


      これが課題。さあ、誰を切るんだい?」


紅     「決まっている!!!この俺自身だ」




自分の作ったナイフで自分の指を切る。


ナンセンスだと思うか?理由ならあるぞ!!!!!




師匠    「そこに至った経緯を教えてくれるかい?」


紅     「ああ!!俺は仲間を傷つけることが怖かった。


      いや一人になることを恐れていた!!


      俺自身が依存していたからな!!!


      ならば!!倒したいのは俺自身の弱さ!!甘さ!!!


      チカラを振りかざすだけが強さではない!!


      仲間を切れる勇気もまた強さ!!


      俺は弱者である俺自身を倒したい!!


      腐れ縁を永遠なものとしたい!!!


      これが回答だ!!!師匠!!!!!!」




師匠    「合格だ!6人目の合格者は紅だ!」


シカ    「見事」


スミレ   「おめでとうございます!皆様!」


紅     「フッ。当然だ!!!」


ラン    「師匠お願いがあります。本日の宿はここにして


      よろしいでしょうか?私達例外はありますけど


      未成年ですので。」


師匠    「布団はそんなにないから二人一組だよ」




リエ紅ペア、ランカトレアペア、キキョウクローバーペア


となった。いや、俺とリエはともかく他が不穏なのだ!!


恐らくカトレアがランにセクハラするだろうし、


キキョウがクローバーによからぬことを教えるに違いない!






だが今日はどっと疲れた。リエに対して素直になれたかは分からない。


正直狭い布団からはみ出て若干寒いが心は温かい気がする。




一人で生き抜くのも強さではあるし、仲間を作って競い合うのも強さだ。


俺は後者でありたい。たとえ一瞬の夢だとしても。




百合物怪文書クリエールはフィクションです


実在の惑星や国、団体等は一切関係がありません



あとがき


ー紅の心の中ー


リエ    「へー紅が不死鳥ねぇwww」


紅     「おいリエ!!笑うな!!さっきまでいい感じだったのが


      台無しだろう!!」


キキョウ  「まあ、拙者達は紅殿のイメージでござるから、


      現実とは違うでござる」


紅     「これが俺の理想だ!キキョウ!作ってくれるか?」


キキョウ  「合点承知!でも、突貫料金が必要でござるなぁ。」


紅     「あの時斬っておけばよかった!」


キキョウ  「暴力反対でござるよ?それにこの空間は拙者の支配下、


      リエ殿?紅殿?お手!!」


紅・リエ  「・・・・・・・。」


キキョウ  「何故でござる!洗脳デカールが効かないでござる!!」


紅     「あとがきで2回同じネタでオチつけてたまるか!!」


リエ    「これでも私ツッコミ属性だからね!」


キキョウ  「無念。パーツが間に合うかは紅殿の時間稼ぎ次第でござるよ?」


紅     「ああ。何とかするさ!!!」


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