アナザートーク4・ブルー&ホワイト

【Side:ブルー】

 授業が終わった放課後。真城がデートに行くことを聞かされて、少し不安な気持ちになった。待ち合わせ場所が、ホテル街として有名なことも知っていたから余計に。


 部活を休んで一緒に行こうかと迷ったけれど、どう考えても真城のデートを邪魔することになるから、さすがにダメだろうと思って諦めた。それに引退試合が近くて、部活を休むなんて出来ないから。


 だから、帰りの電車で、歩いている真城を見つけたときは奇跡だと思った。神様がこの娘を守りなさいって命令してるんじゃないかって思った。一応、私の心配がただの杞憂だったときに邪魔をしないように、隠れてついていった。


「あの娘は可愛いから、彼氏とか関係なくナンパされるかもしれないし。これはストーキングとかじゃない。心配してるだけ……」


 自分に言い聞かせるみたいに言ってみたけど、ちょっと罪悪感はぬぐえなくて……。


 そうこうして真城の様子をうかがってたら、スマホを見ては残念そうな顔をしてコンビニに入っていった。遅れるという連絡があったのか、それとも何の連絡もなかったのか。

 さすがにコンビニに入っていったらバレちゃうと思ったから、外で真城が出てくるのを待った。夕方とはいっても夏は暑いから、私が熱中症になる前に来たらいいななんて考えていたら、真城は彼氏じゃなくて夏祭りのときに会ったお兄さんと出てきた。


 そのまま2人は車に乗ろうとしていた。――なんで? 彼氏は? お兄さんがなんでここに?

 いろいろな疑問が頭をぐるぐる回るのを押しのけて、お兄さんの腕をつかんでいた。自分でも驚くぐらい力が強くなっているのは分かったけれど、いまさら離せるはずもなく。


 それでも怒ったりせずに、とても冷静にお兄さんは着いてこいと言ってくれた。ファミレスに行く道中、真城からコンビニ内でのやり取りを聞いて、余計にあの男真城の彼氏への怒りが込み上げてきた。それと同時に、助けてくれたお兄さんへの罪悪感も湧き出てきた。


 思い返してみれば、お兄さんはずっと私たちを助けてくれていた。

 夏祭りの時だってナンパされていた真城を助けたのはお兄さんだったし、4人で買い物に行くとき、服屋に行きたくないってわがままをいうクロエの傍に居てくれたのもお兄さんだ。


 どこまでもお人好しで、私の目の届かないところでも皆を守ってくれる。たぶん、私が考えてるような悪い人じゃなくて、真摯に私たちに向き合おうとしてるいい人なんだろうって。


 茜がお兄さんを信用する理由も、クロエがお兄さんに懐く理由も、真城がお兄さんを怖がらない理由も、本当はなんとなくわかってた。だからこそ……


「……いろいろ言ってるけど、私、お兄さんのこと好きだよ」


 あーあ、うっかりこんなこと言っちゃった。


【Side:ホワイト】

 コンビニで守さんと会ったとき、すごくびっくりした。昨日のお買い物の時は茜ちゃんが呼んだから、守さんが居たわけで、それ以外で会うことがあるなんて思ってなかったから。それに、これからはあの人とデートだと思ってたし。


 初めて見たスーツ姿で、ちょっとだけドキッとした。私が知ってる守さんは、ちょっとアレな彼女に振り回されていて、クロエちゃんとアニメの話をしたり、葵ちゃんにツッコミを入れたり、逆に茜ちゃんにツッコまれたり。


 とにかく面白い変な人ってイメージしかなかったから。ちゃんとした社会人なんだって思って、余計にびっくりしちゃった。


 お兄さんはコンビニで買いたいものも買ったみたいだし、もう帰るのかなって思ってたら、私の彼氏が来るまでお喋りしてくれるらしい。守さんはお酒のおつまみになるものが買いたかったらしく、見せてもらったお菓子は、お父さんからも聞いたことがあるものだった。


 なんでもお酒好きな人の中で話題になってるらしい。

 私はお酒は飲まないけれど、そんなにみんなが食べたがってるお菓子だって聞くと、ちょっとだけ興味が湧いてきた。ちょっと辛そうで、私でも食べられるか不安だったけど、お兄さんが少し食べてもいいって言ってくれたから、ありがたく貰うことにした。


 お菓子大好きなクロエちゃんに教えてあげようとも思ったし。あの娘、お酒なんて飲まないのに、チータラとかイカ燻みたいなお菓子が好きだから。


 でも、私は1口食べて吐き出しそうになってしまった。けっしてマズいわけではないけれど、舌が痺れるような刺激的な味が受け付けないのだ。

 せっかくもらったのにごめんなさいって思ったけど、むしろお兄さんが謝るぐらいで。私は余計に困惑してしまった。


 残すのも悪いし無理して食べようかとも思ったけど、残りはお兄さんが食べてくれた。……あの人だったら見向きもしないで、さっさと食べきれよなんて言うのに。


 ……あ、こんなこと考えちゃダメか。


 守さんが買ったお菓子で盛り上がりながら彼氏が来るのを待ち続けるけど、やっぱり来る気配は無くて。なんとなくわかっていたことだけど、ショックを受けている自分が居た。


 夏祭りの時も、その前も、その前も、大学が忙しいって言って断ったり、バイトを理由に断ったり、何も言わず来なかったり。よくあることだけど、今日こそはって思った気がしたのに。

 朝の占いで、気になるあの人と急接近って言ってたのはうそだったのかな。


 さすがに待っているのも限界で、帰ろうかなって思った頃、葵ちゃんが来てくれた。すごく怖い顔をしてお兄さんを問い詰めてるのを見て、私のせいで2人に迷惑が掛かってるって思った。


 声を掛けてくれた守さんもうれしい。心配してくれる葵ちゃんもうれしい。……この2人が居なければ、あの人は、もう少し私を気にかけてくれたのかな。


 そんなどうしようもないたらればをいう私は、悪い子だ。

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