アナザートーク3・レッド&ブラック

【Side:レッド】

 葵の誕生日。

 私たちは3年生で、ちゃんとお祝いできるのは最後になるかもしれない誕生日だ。いつも私たちを守ってくれる頼もしくてかわいい女の子を喜ばせてあげたい。

 どうせならサプライズなんていいかもしれない。


 そう考えたまでは良かったけれど、プレゼントを考えるのも一苦労だった。3年も一緒に居れば、それなりに好みは知っているけれど、すでに何回もプレゼントは渡してきている。私たち3人が上手くかぶらないプレゼントって考えると難しい。


 クロエはすでに考えてるから買いに行きたいとは言っていたけれど、あの娘は一人で買い物に行けるような娘じゃない。かといって、葵をついていかせるのはサプライズにならない。

 真城とクロエを2人にするのも不安がある。どっちもおとなしい娘だから下手にナンパされたりすると対処ができない。……たぶん葵も心配性だから絶対ついていこうとする。


 葵と真城とも考えたけど、隠し事が出来ないから、葵から問い詰められた白状しちゃうかもしれない。目ざとくて勘がいい葵のことだから、私が変に分断しようとすると気づくかもしれないし。


 電車の中であれこれ悩んでいた私に妙案が思いついた。

 昨日の夏祭りで会ったお兄さんを呼ぶのはどうだろう。葵のことだから、お兄さんが変なことをしないかって疑って空回りしてくれるに違いない。


 それに、真城のことであれだけ親切にしてくれた人だ。私の悩みも案外ちゃんと聞いてくれるかもしれない。お兄さんだったらクロエと2人にしても不安は無いし。

 昨日見た限りではクロエも楽しそうにしてたし。


 みんなと合流したら、葵と真城が絡まれてた。まぁ、いつもみたいにナンパされてたらしい。葵のおかげで何とかあしらえたみたいだけど、今回は少し手間取ってた。


「今みたいにしつこいナンパされるの嫌だし、ナンパ避けにお兄さん呼ばない?」

「……昨日の?」

「わ、私はそれでもいいかな」

「ボクも。好きにしたらいいと思う」


 真城とクロエには先に話しているから上手いことOKしてくれた。葵は少し怪しんでいたけど、真城がナンパ避け欲しいって言ったのを理由に納得したみたい。


 お兄さんを便利に使うみたいで気が引けるけど、昨日は楽しそうだったり受け入れてくれるはずだ。

 それにもっとお兄さんの写真を見たいし。


 案の定、二つ返事……とまでは言えないけど、まぁ来てくれることにはなった。

 サプライズのことを伝えたら、手伝うって言ってくれたし、やっぱりお兄さんを呼んで正解だった。


 それに、帰り際に撮ってくれた写真は、昨日とは違った魅力があって素敵だった。なんていうか、日常の大切な思い出を切り取ってくれたみたいで。もしかしたら葵や真城やクロエとは将来疎遠になるかもしれないけど、この写真を見たら今日の楽しかった日を思い出せる気がする。


「素敵な思い出をありがとう。お兄さん」


【Side:ブラック】

 茜がお兄さんを呼ぶって言いだしたときはびっくりした。

 そりゃ、昨日は楽しかったけれど、なんでわざわざ今日もって思ったから。そのあとで葵のサプライズのためとかボクの買い物を手伝ってもらうためって理由を聞いて、ちょっと納得した。


 でもやっぱり、ちょっとだけ怖かった。

 昨日は浴衣を着てたし髪もちゃんと整えてた。メイクもちょっとだけしてたし、いつもに比べたら綺麗な格好だったと思う。(言うまでもないけど、全部茜にやってもらった)

 だから、今日のボクをみたらがっかりされるんじゃないかって思った。キモイ陰キャオタク女が着いてきてるって思われるかもしれない。


 だからゲームに逃げてお兄さんと顔を合わせないようにしてた。でも、茜の目論見では、茜と真城が葵を引き留めているうちに、ボクが葵の誕プレを買いに行くらしい。一人で行くのは不安だから、お兄さんについていってもらうって。


 きっとお兄さんも、茜の誘いだから来ただけだろう。真城に会いたくて来たんだろう。葵と話したくて来たんだろう。ボクじゃダメだ。


 そんな風にネガティブに考えていたけど、全然そんなことは無くて。むしろ、買い物もマトモに出来ないボクをフォローしてくれたり、いっしょにゲーセンに行ってくれたり、服屋に入れないボクの傍に居てくれたり。


 わがままで怠惰なボクをずっと許してくれた。

 茜たちを待ってる間、ずっとゲームの話をしてるのは楽しかったな。


 雑貨屋で顔が怖いお婆ちゃん店員にビビってるボクを助けてくれたし、ゲーセンでボクに張り合えるぐらい音ゲーできるなんて思っても見なかった。

 茜も葵も真白も全然ゲームはやらないから。一緒に居るのは楽しいし、ボクがゲームに夢中になってても許してくれるけど、一緒にはやらないから。


 だからこそ、お兄さんが一緒にやってくれるのが楽しかった。

 めんどくさいオタクだから、ゲーム友達だって居ないのに。


 お兄さんとゲームをやっている間は、ゲーム友達が出来たみたいで楽しかったな。


 ただ、クレーンゲームでお菓子を乱獲したことを茜にばらしたのは許せない。また肌荒れが同行とか言って怒られちゃったよ。


 ボクの顔を見るのなんて、親か茜たちぐらいしかいないんだから、そんなに気にしなくたっていいじゃんかよ。……今日はお兄さんも見てたのか。ちょっとは気にした方がいいかな?


 帰りはまた写真を撮ってくれた。

 撮られるのは苦手だから端っこでそっぽ向いちゃったけど、それでもいいって言ってくれたし。お兄さんの写真は、無理に笑えって言われないから少しは気が楽。


 ……今見返したら、この時のボク、ちょっとだけ笑ってるじゃん。

 なーんだ。案外楽しんでたんだ。ツンデレなんて茜みたいだな~。

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