アナザートーク2・ホワイト&ブラック

【Side:ホワイト】

 私の腕をつかんで、胸に下品な視線を送る金髪の男。

 怖いなって思ったけど、それ以上に「ああ、またか」みたいな諦めもあった。こういう強引なナンパはよくあることだし、そのたびに葵ちゃんに迷惑をかけてきた。

 茜ちゃんは冗談交じりに「男が好きそうな顔と体だからよ」なんて言っていたけど、本当にそうなんだろうなって思うし、それがすごく嫌に感じる。


 生まれ変わったらクロエちゃんみたいなスレンダー美少女になりたいな。

 まぁ、そんなことを言うと、クロエちゃんは少し睨んでから「巨乳童顔美女様は言うことが違いますね~。なんでこんなチンチクリンに憧れるのさ。嫌味にしか聞こえない」って自虐するんだけど。


 でも私からすれば、「ナンパなんて生まれてから1度もされたことない」って言う方が羨ましい。


 いつもだったら助けてくれる葵ちゃんも、私がどんくさくて、はぐれたせいで助けてくれないし。どうしようって慌ててたら、お兄さんが間に入ってくれて。


 ちょっとだけ、助けてもらった後、またこの人にナンパされるのかな。なんて、嫌な想像をしちゃったけれど、あんがい上手いこと金髪の男の人はどこかに行ってくれて、お兄さんも逃げるようにどこか行こうとしてた。


 優しく声を掛けてくれたのが嬉しくて、恥ずかしくてお礼が言えない自分が嫌になって、気づいたときにはお兄さんの手を引いていた。


 ちょっと困惑している表情をみたら、また迷惑かけちゃったって罪悪感が襲ってきた。

 そのあとは、茜ちゃんも葵ちゃんもクロエちゃんも来てくれたから、よく覚えてない。茜ちゃんがなんか色々話して、気づいたら一緒に花火を見ることになって。


 そういえば、公園で聞かせてくれた、元カノとの思い出話が面白かったな。お兄さんも元カノからでくの坊呼ばわりされたり、嫌なことをいっぱい言われたらしい。


 こんなこと考えちゃダメだけど、なんか、ちょっとだけ親近感……。


 そろそろ帰ろうかってなったとき、お兄さんは車が4人しか乗れないって言い始めた。どうしようか迷ったけれど、彼氏に迎えに来てもらうなんて嘘までついて3人を見送った。


 いや、言い訳みたいになるけど嘘のつもりはなかった。お祭りはドタキャンしたからお迎えぐらいは来てくれるんじゃないかって本気で思ってた。


 でも、いつまでたってもLINEは既読にならなくて。

 ……遅い時間になるし、ダメ元で電話しようかなって考えてたら、車のエンジン音が聞こえた。違うかもって思いながら、軌跡を願うみたいに顔をあげたら、どこか見覚えのある軽自動車で。


 ああ、お兄さんの車だ。

 助手席には茜もいる。

 結局来てくれなかったな。


 いろんなことを考えて、お兄さんに送ってもらって。


 あーあ、やっぱり茜たちに迷惑かけちゃったな。

 でも、迎えに来てもらえたのは、嬉しかった。あの人じゃないのだけが心残りだけど。


【Side:ブラック】


 初めて見たときは、すごく怖かった。

 だって、葵よりも背が高い人なんてほとんどいないし、ムキムキとまでは言わないけど、それなりに筋肉質で、髪型も服装も陽キャ感がすごかったから……。


 絡まれてる真城を颯爽と助けたり、茜にナンパしようとしたり、葵に可愛いなんてサラッと言える辺り、自分と全然違う人種なんだって思ったりもした。


 でも、話してみたら、そんなに怖くは無くて。

 僕が中二病発言をしたときも、ちょっと照れながら乗っかってくれたし。(自覚があるなら自重しろって言われるかもしれないけど、それは無理な相談だ)


 アニメとか漫画とか、いつも話せないようなことを聞いてくれた。

 ちょっとネタが古かったり、今季アニメを追いきれてないけど、それでも僕の好きなアニメの話を熱心に聞いてくれたり、ネットで流行ってた部分だけ知ってたり。


 茜たちなら、「ハイハイ、もういいから」なんて言って流すようなくだらない話もちゃんと聞いてくれたし、人と目を合わせるのが苦手でビクビクしてる僕を怒らないでくれた。


 お兄さんは自分もコミュ障だからって言ってたけど、絶対嘘だと思った。

 自称コミュ障のイキリ野郎だって思った。

 だって、本当にコミュ障なら茜みたいなギャルにナンパなんてできないし。


 でも、話してみたら本当にコミュ障っぽくて、私しか通じないようなネタを入れてきたり、茜たちが3人で盛り上がってるときは聞き役に徹していたり、急に話を振られて自虐を挟んだり。


 ふだん僕がやっちゃうようなことを、お兄さんもしていた。

 たぶん、ただのコミュ障じゃなくて、仕事をしているから最低限の社会性が身に付いたタイプのコミュ障だ。とどのつまり、将来の僕もあんなふうになるんだろう。


 やっぱり働きたくないでござる。

 働いたら負けだと思う。


 ……なんて、冗談は置いといて。

 

 そろそろ花火も終わるかなって頃に、お兄さんは写真を撮ってくれた。僕は、3人に比べたら可愛くないし、背も低いチンチクリンだから抜けようかって思ったけど、お兄さんが撮ってくれた写真は、自分じゃないみたいに可愛くて。


 お兄さんは僕たちモデルがよかったからなんて言ってたけど違うと思う。

 学校の写真はだいたい仏頂面かぎこちない笑顔ばっかりだもん。


 お兄さんが撮ってくれたから安心して写れたんだ。それに茜があんなに釘付けになってるのも初めて見たし。


 そういえば、ディスコードも交換したし、今度ゲーム誘ってみようかな。

 僕はどのゲームもソロ専だから、野良以外とゲームをするのは、ほぼ初めてだけど。


 お兄さんと一緒なら楽しくできそう。


 お兄さんは、どのゲームが好きかな。一緒にやるのが楽しみだな~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る