第26話 自然と笑顔になれる人
「優良!」
お昼休憩前、四時間目の授業が少しだけ長引いてしまって、わたしは走って中庭に向かった。
案の定、優良の姿はもうすでに中庭のベンチの前にあった。
「はあはあ、待った?」
「ううん、わたしも今来たとこ」
「そっか、よかったあ」
なんだかこのやりとり、カップルみたいだななんて恥ずかしいことを考えながら、わたしはベンチに腰掛ける。
今日は本当にいい天気だ。
雲一つない快晴。でも心地の良い風が吹いていて、朝の登校していた時ほど暑すぎない。
しかもこのベンチの近くには大きな木が生えていて、木陰になっている。
こんなに過ごしやすくて暖かい日は心も不思議と綺麗になるような感覚。
きっと五時間目は確実にウトウトしちゃうだろうな、この天気だと。
「じゃあお弁当食べよっか」
わたしはそう言って自分のお弁当箱が包んである袋を開ける。
このお弁当はお母さんが朝早く起きて作ってくれたものだ。
冷凍食品がほとんどだけれど、料理が得意でない上に、朝は絶対に忙しいだろうお母さんがわたしのために頑張って作ってくれたということが嬉しい。愛情のようなものを感じとれるような気がする。
「わ、やっぱり優良のお弁当美味しそうだね。今も自分で作ってるんでしょ?」
「うん」
優良はものすごく料理が上手い。わたしも何回か優良の作った料理を食べさせてもらったことがあるけれど、本当に美味しかった。
美味しいという言葉でしか表現することしかできないことが申し訳なくなるほどに。
しかもなんと優良は自分でお弁当を作っているのだ。
優良曰く、小さいお弁当箱にスペースとか彩りを考えながら詰めるのが楽しいらしい。
わたしも料理はよくするけれど、優良はわたしよりも断然上手だ。
「凪、なんか食べたいのある?」
「え、いいの?」
「うん、好きなの食べて」
優良が自分のお弁当をわたしに見せてくる。
お弁当にはいろんなものが入っている。唐揚げ、ウインナー、卵焼き、その他にもトマトやブロッコリーなどの野菜類。
「んーと、じゃあ……」
唐揚げとかいうメインものをとってしまうのはなんだか少し気が引ける。かと言ってトマトみたいな野菜をとってもどうなのか。
やっぱりここは無難に卵焼きかな。
「じゃあ卵焼きで!」
「おっけー。じゃあはい、あーん」
(……んん!?)
優良が箸で卵焼きを掴み、わたしに口を開けろと卵焼きを差し出してくる。
そっか、こんなの付き合ってたら普通だよね。
わたしは自分の中からじわじわと染み出してくる恥ずかしさを抑えながら、口を開ける。
「あ、あーん……」
わたしは優良から口で卵焼きを受け取って、ゆっくりと咀嚼する。
(あ、これ甘い系の卵焼きだ)
わたしはだし巻きよりはこっちの方が断然好きだ。ふんわりとしていて食感もいい。要するにめっちゃ美味しい。
やっぱり優良は天才だ。
「美味しい!」
「ほんと? 良かった」
「優良も甘い卵焼きの方が好きなの?」
「うん」
「じゃあ一緒だね!」
こんな些細な共通点でわたしは自然と笑顔になっていた。
「……凪ってさ、ほんと可愛いよね」
「うーん、そうかな?」
「はあ、凪は自覚がないからなあ」
優良は呆れたようにため息をつく。
「いい? この際全部言っておくけど、まず凪は笑顔が可愛すぎ。そんな無邪気な笑顔向けられたら誰でも凪のこと好きになっちゃうじゃん。あと声も可愛い。高すぎず低すぎずの声で心が落ち着く。あと性格も好き。誰にでも優しいし、穏やかなところが好き。あと──」
「ちょ、ちょっと待って!」
わたしは優良の怒涛の恥ずかしい精神攻撃に耐えられなくなって、優良の口を塞ぐ。
こんなに自分を褒めて貰える機会があまりないわたしには流石に厳しかった。
(待って、これめっちゃ恥ずかしいんだけど。優良の目にはそう映ってるってこと……だよね?)
なんだか優良からの好意がものすごく嬉しい。自分も優良に同じものを返してあげたくなる。
「ありがとう。わたしも好き……だよ?」
嘘ではない。わたしは確かに優良が好きだ。心からそう思った。
「……凪。そういうのをさ、不意打ちって言うんだよね」
そう言って優良が横に顔をそらしていた。優良の顔は見えないけれど、耳が赤くなっているのがわかった。
「あ、照れてる」
「照れてなっ……! ……いや、照れてます、はい……」
なんだ、これ。めっちゃ可愛い。
わたしの目には恥ずかしそうにしている優良がいつもよりもさらに可愛く映った。
「優良、可愛い」
「そ、そんなことっ……!」
「あははっ」
わたしは今、ものすごく満たされたような気分になっている。
やっぱり優良といると自然と笑顔になれるなあ。
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