第27話 友達

「優良ー」


 放課後、わたしは上の階に上がって優良を迎えに来ていた。


 いつもは優良が迎えに来てくれているけど、わたしのクラスにはまだ恋もいるし、わたしが早めに迎えに行くことにした。


「え、凪?」

「迎えに来ちゃった」


 わたしが優良のクラスに行くことは滅多にないので驚いているみたいだ。


「……なんかわかんないけど、めっちゃ嬉しい」

「ええ?」

「なんか疲れて家に帰ったら凪がいて、おかえりって言ってもらえた感じ?」

「あははっ、何それ」

「すぐ準備するから待ってて」

「はーい」


 わたしは優良を待つために一旦教室から出て、扉の前で待つことにした。


 優良のクラスはなんか異空間って雰囲気がある。優良のクラスというよりかはこの階が異空間みたいなのかも。


 滅多に来ないのもあるとは思うけど、わたしはわたしたち文系の1つ上の階にいる理系の人と会うことはあまりない。


 優良以外にそこまで仲の良い人がいないから理系の階に行くことはないし、ちょっとだけすれ違ったり、何かの行事の時にしか見ない気がする。


 同じ学年なのに変な感じだ。


「ねえねえ」

「……はい?」


 わたしがそんなことを考えながら教室の前に立っていると、一人の女の子に話しかけられた。


 誰だろう、この子。見たことはあるような気がするけど、名前はわかんないな。


「優良の友達?」

「あ、はい、友達です」

「あははっ、別にタメ口でいいよ。同じ学年なんだし」


 歳は同じだというのにどうしても知らない人だと敬語口調になってしまう。


 でも同じ学年の人に敬語は不自然だろうし、ここは頑張ってタメ口にしよう。


「わかりまし…… あっ、ええと。うん、わかった!」

「あはははっ、凪ちゃんって面白いね!」

「……え、どうしてわたしの名前を?」


 わたし今日初めてこの子と喋ったよね? どこかで話したことあったっけ?


 どうしても思い出せない。


「南雲凪ちゃんで合ってるよね?」

「う、うん」

「優良がさ、よく凪ちゃんのこと話してるから。あの子がわたしの幼なじみだーって」

「ああ、だから……」


(それならこの子とは会ったことないってことだよね。ふう、よかった。もしわたしが覚えてないだけだったらどうしようかと思っちゃった)


 会ったことないのだから思い出すも何もなかったわけだ。


「凪ちゃんとは一回話してみたいって思ってたんだよね」

「……? どうして?」

「優良ってさ、何かにつけて凪ちゃんの話ばっかりしてるんだよ」

「優良が?」

「まあ優良自身は自分がずっと凪ちゃんの話してるって気づいてないみたいだけど」


 ええ、なんかめっちゃ恥ずかしい。


 優良がわたしのことを話してくれているのは嬉しいけど、今日初めて話した人にわたしの情報が筒抜けになっているような気がする。


 嫌ってわけでは全くないけど、やっぱり恥ずかしい。


(優良…… 変なこと言ってないよね?)


「ち、ちなみになんて言ってました?」

「ん? 凪ちゃんは世界一可愛いとか世界一可愛いとか世界一可愛いとか」

「世界一可愛いしか言ってない!」


 そんなこと言われると余計に恥ずかしいじゃん! わたしよりこの子の方が断然可愛いのに……!


 この女の子はサラサラとした長い髪をハーフアップにしていて、顔立ちはくっきりしている。身長は優良とわたしの間くらいだろうか。


 さすが優良の友達なだけあってキラキラとしたオーラがある。


 女子高生のわたしが言うのもなんだけど、最近の女子高生すごいな。


 なんかあんまり優良のクラスに行くことなかったから優良がすごい人なんだって忘れてたよ。


「凪ちゃん凪ちゃん。優良が凪ちゃんのことを好きなのも知ってるよ」

「……!?」


 わたしはそう耳元で囁かれたことにびっくりして耳を反射的に抑える。


「ど、どうして!?」

「だってそんなの優良みてたらすぐわかるし。あー、好きなんだろうなって」


 優良ってそんなにわかりやすいの!? 侑依ちゃんも同じようなこと言ってたよね!?


「凪ー、準備できたよー……って、羽純はすみ? 何してんの?」


 わたしがまだ衝撃を噛み砕けずにいると、優良がわたしのところへやってきた。帰る準備が終わったみたいだ。


「あ、凪ちゃんごめんね。わたしは箱崎羽純はこざきはすみ。よろしくね」

「よ、よろしく……」


 わたしは箱崎さんによって差し出された手を握り返す。


「何、羽純。凪と仲良くなったの?」

「まあね。凪ちゃん、さっきわたしが言ったことは優良には内緒ね」

「う、うん。わかった」


 さっき言ったこととはたぶん、優良がわたしをどう思っているかを箱崎さんが知っているということ。


「え、なになに。羽純、凪に何話したの?」

「んー? べっつにー?」

「……あんた凪に変なこと話してないでしょうね!?」

「さあ、どうでしょうか?」

「ちょっと〜!?」


 箱崎さんと優良ってほんとに仲良いんだなあ。


「あはははっ」

「ん? どうしたの、凪ちゃん?」

「いや、箱崎さんと優良が楽しそうだなって」


 箱崎さんは優良にとってこんなふうに冗談を言いながら話し合える友達ってことはすごい良い人なんだろうな。


「んー、優良。凪ちゃんって世界一可愛いな」

「……でしょ?」

「よし。じゃあ優良置いて一緒に帰るか、凪ちゃん」

「ちょっと紫音んん!」

「冗談冗談。じゃあね、優良。凪ちゃん、優良をよろしくねー」





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