第25話 もっと一緒に
わたしはずっと優良と恋人繋ぎをしたまま、学校に到着することとなった。
さすがに校門を通る前あたり、人が多くなってきたところでは手を離したが、わたしの手は汗のせいでとてつもなく湿っていた。
気温が高いせいで吹き出てきた手汗なのか、わたしの緊張による手汗なのかどうかはわからない。
きっと優良の手も同じ状況になっているだろう。わたしの手汗のせいで申し訳ない。
「……行きたくない」
「え?」
「もうちょっと凪と一緒にいたい」
「……!?」
な、なんだろう…… なんか今の優良、すごい可愛い……
口を尖らせてわたしとまだ一緒にいたいと言う優良がいつも以上に可愛く見えた。
「で、でもお昼にすぐ会えるから! ね?」
「……うん」
「じゃあまたお昼にね!」
「はーい……」
わたしたちはクラスどころか教室がある階自体も違うので、階段でお互いに別れる。
お昼休憩に一緒にお弁当を食べるために、四時間目が終わったらすぐに中庭で待ち合わせをしようという約束もしておいた。
優良は不満そうにゆっくりと歩いていったけど、わたしは自分の教室へと一直線にずんずんと歩いていく。
教室にはどうして今日一緒に登校しなかったのかを疑問に思っている恋が待っているはずだ。
優良と二人で行きたいからとメールの文章でも伝えることはできたけど、やっぱり直接、口で伝えたいと思って、まだ詳しいことは恋には話していない。
わたしは優良と付き合って一週間が過ぎたら、次は恋と付き合ってみるつもりだ。
これが最善の方法であること、そしてわたしのこの選択が良い結果を導くことを願っている。
「恋、おはよ」
わたしは恋の背中を軽く叩いて、恋に自分の存在を認知させる。
「おはよー、凪ちゃん。今日どうしたの? 朝見たら先に学校行っててってメール来てたからそのまま来たけど……」
「そのことなんだけど実はね、恋に話したいことがあるの」
わたしは小さく深呼吸をして、優良に言ったことと同じことを理由と共に恋に告げる。
そして今週だけは優良のことを優先させて欲しいことも。
もちろん周りにバレないようになるべく小声でだ。
「……そっか。つまり今は優良ちゃんと付き合ってるってことだよね?」
「うん……」
「ふーん…… そっかそっか。へー……」
恋が今何を感じているのかはわからないけれど、もしそんなことは辞めて欲しいと言われたら辞める覚悟はできていた。
恋が嫌なことはしたくないからね。
でも前に進むためにもできればこの提案を承諾してくれると嬉しい。
「……わかった。じゃあ頑張って一週間は我慢するね」
「恋……! ありがとう!」
この一週間は優良を優先させると、恋と会う時間がきっと減ってしまうことになるので、恋が納得してくれて良かった。
「でも優良ちゃんがいない時なら別に気にしなくてもいいんだよね?」
そう言って恋は
「ちょ、恋!? みんな見てるところではマズイよ……」
「大丈夫大丈夫。前も言ったと思うけど女の子同士だからそんな不自然なことじゃないって」
「で、でも……」
「まあわたしは別にそういうふうに見られても何も問題はないんだけどね」
そう答える柔らかな声と共に息を吸ったり吐いたりするような大きな呼吸音が聞こえる。
わたしは目いっぱい首を後ろに曲げて、恋が何をしているのかを見ると、恋がわたしの背中に顔をうずめているのが目に入った。
「恋さん!? 何してるの!?」
わたしはびっくりして恋から離れようとしたけれど、いつものごとくわたしの力では恋は引き剥がせない。
ほんとこの力はどこから湧き出てるんだ。
「んー、凪ちゃん充電中ー」
「じゅ、充電って……」
恋はそのまま何も言わずにわたしに抱きついているだけだった。
うーん、なんだ地味に周りに見られているような気がする。わたしが気にしすぎなだけだとは思うけど……
それでもやっぱりこの状況のままいるのは妙に恥ずかしい。
「恋、そろそろ……」
「んー、まだもうちょっと」
恋はわたしから腕を離さない。
恋が離す気がないのなら、わたしにはもうどうしようもできないので、結局わたしは為す術なくしてずっとこの体勢のまま、朝のHRまでを過ごすこととなった。
(筋トレでも始めようかな……)
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