第24話 ライバル ~優良~

 わたし、泉優良は今とても驚いている。


 急に凪がわたしと一週間限定で付き合おうと言い出してきたからだ。


 でもそれ以上に嬉しかった。たった一週間だとしてもわたしたちの関係が友達から、ずっと夢に見ていた恋人になれることが。


 でもその先を行くには越えなければいけない壁がある。児玉恋だ。


 恋が凪に好意を寄せていることをわたしが知ったのは実は本当に最近だった。


 凪の家で例の漫画を見つけたあの日。


 高揚感に溢れながら凪の家から一歩出たわたしは、突然凪のことが好きだと恋に告げられた。


 凪のことをずっと好きだったわたしは、それが友達の好きの意味だとは全く一つも考えなかった。


 わたしはただただ困惑することしかできなくて、その場に立ち尽くしていた。


 恋に好きな人がいるなんて知らなかった。それがまさか凪だなんて……


 確かに凪は本当に魅力が溢れている女の子なので、凪のことを好きだと言う人がいてもおかしくはない。


 おかしくはないけれど、その相手が恋だというと話は変わってくる。


 これがよく知らない人だったりするならば、ここまで困惑はしなかっただろう。きっとこの人には負けないぞと意気込んでいたはずだ。


 でもわたしにそう告げたのは紛れもなくわたしの親友の一人である恋だった。


 わたしは家に帰ってからもずっと部屋に閉じこもって悩んでいた。


 わたしの中で恋は理想の女の子像だった。庇護欲をくすぐられるような可愛さがあるし、いつも明るい。ふわふわしていてザ・女の子というような子だ。気遣いも上手で誰からも好かれている。


 わたしにないものばかりを持っていて、恋が凪に好きだと言ってしまえば、成功すると思ったわたしは不安でならなかった。


 れんこいも応援したい。でも自分の恋も叶えたい。


 わたしはこのやり場もないどうしようもなく相反あいはんする思いを抱えて、ずっともやもやが晴れなかった。


 しかし、そんなわたしの思いが変わったのはその日の夜のこと。


 もう日付が変わるという夜の11時30分頃に恋から電話がかかってきた。わたしは少し緊張を覚えながらも、スマホを手に取って電話に出た。


 すると、恋はずっと不安に思っているわたしの心情を見透かしたかのようにわたしにこう言った。


「優良ちゃん。わたしに遠慮しなくていいからね」


 わたしはそう聞いて、そんなこと言われたってどうしたって遠慮してしまうじゃんと思ってしまった。


 だってわたしの中では恋は特別だ。凪とは特別の種類が違うだけで、わたしにとって大切な親友だ。どうしたって恋の幸せを願ってしまう。


 だからわたしは恋にこう言葉を返した。


「無理だよ…… それならわたしが……」


 それならわたしが凪を諦める。


 そんな思ってもいないようなことを口にする前にわたしは恋の手に口を塞がれた。


「わたしがね、遠慮しなくてもいいよって言ってるのは優良ちゃんに気を使ってるからじゃないよ」

「……じゃあなんで?」

「わたしは優良ちゃんに負けないから」


 わたしはその言葉を聞いて、全身がびくっと震えた。恋の自信に気圧されたからだ。


「だからわたしに遠慮しないでね」


 ああ…… 恋は本当にすごい。


 わたしはこの瞬間に恋のライバルになる覚悟を決めた。これが恋の本音だったとしても優しさだったとしても。


 わたしはこんな強力な相手に立ち向かわなければならないのだ。もっと努力し続ける人間でいなくてはならない。


 わたしだって凪が好きだ。その思いは恋にも負けていない自信はある。


 こうしてわたしは次の日の朝に恋と相談をして、放課後に凪を呼び出し、恋より先に告白したのだ。


 それからわたしはただ凪と付き合うというゴールに向けてひたすら走ってきた。


 まだ最終的なゴールにはたどり着けていないけど、ようやく一旦目標に到達したのだ。


 凪もわたしたちのことを真剣に考えてくれている。


 凪に思いを伝えた直後はここまで凪が真剣に向き合ってくれるとは思っていなかった。


 もちろん凪が真剣に考えてくれないと思っていたわけではなく、ここまで凪がわたしを恋人という照準に照らし合わせてくれていることが嬉しかったのだ。


 だったらわたしもそんな凪に見合うために、そして恋に追いつくために頑張らなければ。


 凪はこの一週間が終わると、次は恋と付き合うつもりだろう。


 となると、わたしの今の状況はチャンスではあるが、ピンチでもある。


 でもそのピンチはきっと避けることはできない。ならば、チャンスを最大活用すればいいのだ。


 頑張ろう。凪の隣に堂々と立つために。そして恋の隣に自信を持って立つためにも。


 わたしはれん好敵手ライバル。恋もそう思っていてくれるといいな。


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