第20話 妹
「凪さん!」
「わっ!」
わたしは今、優良の家を訪れている。玄関に入るや否やわたしは侑依ちゃんに勢いよく抱きつかれていた。
「侑依ちゃん! 元気だった?」
「うん!」
「侑依ちゃん、髪切ったんだね」
「あ、そうなんだ!」
そう言って侑依ちゃんがわたしから離れていく。そして一周回って髪をふわっと揺らす。
「どう? 似合ってるかな?」
「うん、すごい似合ってるよ!」
前に会ったときは髪が長かったけれど、今は肩の長さくらいまでに切られていた。
それにしてもやっぱり優良の遺伝子を継いでいるからなのか可愛い。優良のキリッとしたカッコ可愛いような顔は似ているが、声は少し侑依ちゃんの方が高い。
すぐに甘えてくる性格も変わっていなくて、わたしは懐かしさを覚える。
「じゃあわたしちょっとコンビニ行ってくるから」
優良が靴をはいてドアノブに手をかける。
「あ、うん」
「侑依、凪に迷惑かけるんじゃないよ」
「はーい。凪さん、わたしの部屋行こ!」
返事を返す前に侑依ちゃんに手を引っ張られたわたしは階段を上り、部屋まで連れて行ってもらった。
「どうぞ!」
わたしは侑依ちゃんの部屋に案内される。
優良の部屋は統一性のあるシンプルな部屋だったけれど、侑依ちゃんの部屋はものが多く、可愛いが主体になっているような部屋だった。
ベッドの上にはぬいぐるみがいっぱいにあり、枕や布団のカバーは可愛いキャラクターものになっている。カーテンやカーペットも彩り鮮やかだ。
机の近くにある壁掛けには青春の日々の記憶である写真が多く飾られていた。
「あ、これわたしだ」
わたしは自分が笑顔で写っている写真を発見する。
わたしと優良と侑依ちゃんが一緒に遊んだ時の写真だ。まだ三人とも小さくて公園で泥だらけになりながら遊んでいる。
「これわたしと凪さんとお姉ちゃんの三人で遊んだ時にお母さんがとってくれた写真ですよ。覚えてますか?」
「うん! 確かこの時って侑依ちゃんがこけて大泣きしちゃった時だよね?」
「そ、それは早く忘れてください! 恥ずかしい……」
侑依ちゃんが頬を両手で覆い、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「あははっ、帰りにお母さんにおんぶされてたよね」
(本当に懐かしいなあ…… この頃はよく三人で遊んでたよね)
「あ、そうだ。侑依ちゃん、高校どうするの?」
侑依ちゃんは今中学三年生。今年は受験の年だ。わたしたちと同じ高校に進学するのか、それとも違う高校に進学するのか。
「凪さんと同じ学校に行くよ!」
「そうなんだ! じゃあ一年だけだけど一緒の学校だね」
「それで相談なんですけど……」
「相談?」
相談と聞いてわたしは背筋を伸ばす。
「凪さん、わたしに勉強を教えてくれませんか? 実はちょっと受験勉強で行き詰ってて……」
「え、わたしが?」
「はい!」
「え、ええっと……」
わたしは別に勉強が得意なわけではないし、人に説明できる能力もたぶん低い。侑依ちゃんの大事な勉強時間をただ奪ってしまうだけになる気がして怖い。
(そんなわたしが侑依ちゃんに勉強を教えるなんて……)
「優良に教えてもらうのが一番いいんじゃないかな?」
優良なら家にずっといるし、いつ、どのタイミングでも侑依ちゃんの受験勉強を手伝うことができる。
「お姉ちゃんはスパルタだから……」
「ええ? あの優良が?」
「凪さんの前では良い顔してるだけですよ! 実際家ではいっつもがみがみうるさいんですから!」
(あの優良が……)
そんな優良に驚きつつも、優良と侑依ちゃんが姉妹なんだと思うとどこかほっこりする。
「凪さんが時間のある時でいいんで…… ダメですか?」
「うーん……」
実際中学校で習う授業の内容と高校で習う授業の内容は結構違う。内容は圧倒的に高校のものの方が難しい。わたしも自分の成績があまりよくないというのに人に教える時間があるのだろうか。
それに中学生の頃の内容を全く覚えていない。
中学校の時の教科書を見れば思い出せるかもしれないけど……
(でもなあ……)
「お願いします! 凪さんしかいないんです!」
そう侑依ちゃんが眉毛を下げて切実そうに両手を合わせているのを見て、わたしは今まで考えていた不安がどうでもよくなった。
「……よしっ、いいよ。教えてあげる」
わたしが力になれるかはわからないが、侑依ちゃんの要望にはできるだけ応えてあげたい。
「ほんとですか!?」
「うん。でも一つ条件だけど、数学と理科は優良に教えてもらって。わたしだけは理系科目だけはどうしても苦手だからさ」
優良は理系だし、そこはわたしよりも圧倒的にできるだろう。数学と理科だけは優良のスパルタに耐えてもらうしかない。
「はい! わかりました! ありがとうございます!」
そう言って侑依ちゃんがわたしに抱きついてくる。
うんうん、可愛い妹だ。
「ちょっと侑依、何してんの?」
侑依ちゃんとの話に一旦区切りがつくと、優良が急に部屋に入ってきた。右手にはコンビニの袋を提げている。
「お姉ちゃん! 凪さんに勉強を教えてもらえることになったの!」
「はあ? あんた凪に迷惑かけてんじゃないわよ」
「迷惑じゃないもん! ね、凪さん!」
侑依ちゃんが上目遣いで目をキラキラさせながら言う。
さすが生まれた頃から妹ポジションをやっているだけある。人への甘え方が完璧にわかっている。
「うん、別に迷惑ではないよ」
「ごめんね、凪。ほんとに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。わたしが力になれるかどうかはわかんないけどね」
「はあ…… あんた凪に感謝しなさいよ」
「うん! ありがとう凪さん!」
わたしは微笑む侑依ちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
「わたしだって凪と二人で勉強したいのに……」
「え?」
優良が横目でわたしをちらちらと見ながら侑依ちゃんには聞こえないような声で口を尖らせながら呟く。
「……まあいいや。一緒に凪といる時間が増えるかもだし」
「っ……!」
急にそういうのはズルい。
(これは姉ポジも負けてないな……)
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