第21話 ないものねだり
「これがね……」
あれから時間が経って、わたしは侑依ちゃんに絶賛勉強を教えている真っ最中だ。
優良は二人の勉強の邪魔になるかもしれないからと一旦自分の部屋に戻ってしまった。
正直言ってわたしの教えがいるのかと思うくらい侑依ちゃんの勉強は順調に進んでいた。わたしはちょっと手助けをしてあげるだけで侑依ちゃんは難しい問題も解けてしまう。
これなら心配しなくても、このままの調子で勉強していけば、わたしの高校には十分受かると思う。
「凪さん教え方上手ですね!」
「そんなことないよ。侑依ちゃんのもともとの学力がすごい高いからだよ。これだとわたしが教える必要ないんじゃない?」
「そんなことないです! わたしもまだまだお姉ちゃんには及ばないっていうか……」
侑依ちゃんはそうだんだん声を小さくしながら言った。明らかに侑依ちゃんの纏う空気は先程よりも暗くなっていくのがわかった。
「侑依ちゃん?」
急に様子が変わった侑依ちゃんが心配になってわたしは侑依ちゃんの顔を覗き込む。
何か悩みでもあるのだろうか。
「……」
侑依ちゃんは言いづらそうに唇を噛み締めたまま口を開かなかった。
「侑依ちゃん。話、聞くよ」
わたしはなるべく優しい声で語りかけるように話しかけた。
すると侑依ちゃんが作ったような悲しい笑いを浮かべてわたしの目を見つめる。
「わたし、お姉ちゃんが憧れなんです」
侑依ちゃんはそう少しずつゆっくりと話し始めた。
☆
わたしは
周りから何かを言われたわけではないけれど、わたしは小さい頃から自分とお姉ちゃんをいつも比較してきた。わたしが中学生になってからは特に。
お姉ちゃんは頭もいいし、スポーツもできる。みんなの人気者で友達も多い。あれがわたしのお姉ちゃんだよって友達に話すと、うらやましいという言葉が返ってくる。
そんなお姉ちゃんがわたしの自慢。そしてわたしの一番なりたい理想。
いつもは憎まれ口を叩いてしまうことが多いけれど、内心はこっそりとそんなことを考えている。
でも自分はそんなお姉ちゃんと比べて頭も良くないし、スポーツもできない。友達だっていないわけではないけれど、お姉ちゃんほどではない。自分に誇れるようなことがこれといってない。
そんなわたしだけど、少しでもお姉ちゃんに追いつきたくて、まずはとにかく勉強を頑張った。
今までサボってばかりいた授業の予習復習も今ではきちんとこなせるようになったし、宿題だって間違えた箇所は何度も復習した。その成果もあって、昔よりはテストの点も上がった。
それでもお姉ちゃんはまだ遠かった。
お姉ちゃんの通っている高校は近くの高校の中では一番偏差値が高い。受験も難しいで有名だ。
わたしの今の学力ではまだ届かない。
わたしはいつになったらお姉ちゃんみたいになれるのか。どうして姉妹なのにこんなにも違うのだろうか。
そんなことで最近は頭を悩ましてばかりだった。今年は受験の年だから集中して勉強しないといけないと思う反面、どうしても集中しきれない自分がいた。
そんなどうしようもない自分が嫌だった。
これではお姉ちゃんに追いつくどころか、お姉ちゃんから離れてしまう。
前までうっすらと見えていたお姉ちゃんの背中でさえ、今は見えなくなっていた。
☆
「すいません、勉強中にこんな話しちゃって……」
「侑依ちゃん……」
侑依ちゃんの悩んでいることを全て理解することはできない。でも多少は共感することはできた。
わたしも自分と他人をよく比べる。自分と姉。自分と優良。自分と恋。その他にも多くの人と比べる。
もちろんそんなことに意味がないことはわかっている。自分に優良や恋のような良さはないし、どうしたって違う人間にはなれない。
それでもどうしても比べてしまう。自分がこと人の隣にいるのが相応しくないように思うから。
でも──
「侑依ちゃん。わたしはね、侑依ちゃんの良いところたくさん知ってるよ。誰とでもすぐ仲良くなれるところ。明るくて周りを笑顔にできるところ。他にもいっぱい」
「でも…… そんなことお姉ちゃんだって……」
「そんなことじゃないよ。だってわたしにとったら侑依ちゃんは理想だもん!」
わたしは侑依ちゃんが理想。優良も理想。恋も理想。その他にも理想は多くいる。お母さん、お父さん、お姉ちゃん、一色さん。わたし以外の多くの人。
みんなわたしにはない魅力がある人たちばかりだ。
「優良に追いつきたいって目標を否定するわけではないけど、侑依ちゃんは侑依ちゃんのペースで頑張ればいいんだよ。焦らなくてもいいんだよ」
侑依ちゃんは侑依ちゃんだから優良に追いつく必要はないなんて、侑依ちゃんの大切な目標を潰してしまうような気がして言えない。
でもわたしからして見れば、侑依ちゃんはもうすでに優良の隣を並んで歩いている。そんなに焦る必要はない。
「それに優良だって完璧じゃないよ。忘れ物して先生に怒られたり、授業中は寝てることだってあったんだから!」
みんな結局ないものねだりなのかもしれない。自分にないものを羨ましく思うがあまり、自分の良いところが見えなくなってしまっている。
「……はあ。やっぱり凪さんは優しいですね」
「そうかな? そうなれてるならいいな」
今だってわたしが優しいという自覚はないけれど、そう言ってくれている侑依ちゃんのことは疑いたくない。
「なんだか少し元気が出ました。さすがお姉ちゃんの彼女なだけありますね」
「あははっ、そんなこと…… …………ん?」
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