第18話 好きな人 ~恋~
わたし、児玉恋は人生の約半分、凪ちゃんにずっと恋をしている。
凪ちゃんと知り合ったのは小学四年生の頃。凪ちゃんと凪ちゃんの家族はわたしの隣の家に引っ越してきた。
わたしの凪ちゃんに対する第一印象は「可愛い子だなあ」だった。わたしはそんな凪ちゃんを見て、すぐに仲良くなりたいと思った。
まだこっちに引っ越してきたばかりで、友達のいなかった凪ちゃんと友達になってくれとわたしは凪ちゃんのお母さんに頼まれた。
わたしはすぐにOKをして、凪ちゃんは引っ越してきた次の日にはわたしの家に遊びに来た。
わたしが凪ちゃんを好きになったのはその日のこと。
わたしはその頃、小学四年生にして一つ悩んでいることがあった。
それは自分が周りとは違うということ。もっと詳しく言うと、わたしの恋愛感情についての問題だった。
わたしが好きになるのは女の子ばかりで、周りの友達はあの男子カッコいいよねという話をしているのに自分は全くピンとこない。
自分は男の子じゃなくて女の子が好きかもしれない。
そんな話を友達に何気なく話すと、その友達はわたしに気持ち悪いと言った。
今でもその言葉を忘れることはできない。別にその子のことが好きだったわけでもなんでもないのに、わたしは気持ち悪いと言われたことに大きくショックを受けた。
これは人には言ってはいけない感情なのだとわたしはすぐに察して、その子には冗談だと言ってごまかした。
そんな悲しい出来事がわたしが周りとは違うのだと気づかせた。
凪ちゃんと一緒に遊ぶことになった日、わたしは凪ちゃんと一緒にテレビを見ていた。家族はみんな出払っていて、家にはわたしと凪ちゃんの二人だけだった。
その時テレビに映っていたのは女性同士のカップルだった。
どういう内容だったかはよく覚えていないが、そのカップルは確かに幸せそうだったことは覚えている。
「羨ましいなあ……」
わたしはカップルを見て、うっかりとそう口にしてしまったのだ。
わたしはすぐに焦り始めた。今日初めて会った子に嫌われてしまうかもしれない。
わたしはすぐに冗談だと否定しようとしたけれど、先に口を開いたのは凪ちゃんだった。
「そうだね、羨ましいね」
「え……」
わたしは耳を疑った。
「今なんて言った?」
「え? 羨ましいねって」
「き、気持ち悪いとか思わなかったの?」
「なんで? 二人とも幸せそうだよ?」
きっとわたしが凪ちゃんを好きになったきっかけはこの言葉を聞いてから。自分を肯定されたような気がして嬉しかったのだ。
それからわたしは凪ちゃんとよく遊ぶようになった。
そして凪ちゃんはわたしの小学校に転校してきた。それはとても嬉しかったが、残念なことにわたしと凪ちゃんは違うクラスだった。
わたしが凪ちゃんと一緒に帰る約束をしていた日、わたしは凪ちゃんを教室まで迎えに行った。
するとわたしは凪ちゃんが多くのクラスメイトに囲まれていたのが目に入った。
(あれ、なんだろこの気持ち……)
わたしは胸がチクチクと針で刺されるような感覚を覚えたと同時に、凪ちゃんを囲んでいる人たちへの嫌悪感を覚えた。
そしてこれが嫉妬だと気が付いたのは中学生になってから。
凪ちゃんは可愛いし、人付き合いも上手い。
だから凪ちゃんの周りにはよく人が集まる。
特に中学生になってからは男子が凪ちゃんの周りに集まり始めた。その中には凪ちゃんのことが好きな人もいたことをわたしは知っている。
わたし以外の人と楽しく話すのが嫌だ。わたし以外の人が凪ちゃんに触れるのが嫌だ。わたし以外の人が凪ちゃんを好きになるのが嫌だ。
わたしの中では嫉妬という黒い渦が渦巻いていた。
それでも凪ちゃんに自分の気持ちを告げることはできなかった。
女の子が女の子を好きなことは普通ではないこと。小学生の時の凪ちゃんはきっとよくわかっていなかっただけで、中学生になった凪ちゃんにわたしの本当の気持ちを伝えると拒絶されてしまうかもしれない。
そんなことを考えると告白なんて到底できなかった。凪ちゃんに拒絶されることほどつらいことはない。
こうしてわたしは凪ちゃんのことを諦めた。
自分の気持ちを抑えてずっと凪ちゃんの傍にいれるならそれでいい。凪ちゃんの親友という特別をもらえているだけで。わたしは他の人とは違うんだ。
そんな思いが変わったのは、凪ちゃんの家で一つの漫画を見つけた時。
わたしはその漫画を見て驚いた。それはわたしの知っている漫画だったからだ。女の子同士の恋愛を描いた漫画、いわゆる百合を描いた漫画だった。
あとで凪ちゃんは女の子が好きだということを話してくれた。
小学生の頃から凪ちゃんは変わっていなかったのだと思うと、抑えていた凪ちゃんへの思いが溢れ始める。
凪ちゃんのことを諦めた諦めたと自分に言い聞かせていたけれど、結局は諦めることはできなかったのだ。
ただただ毎日、凪ちゃんへの思いと周りへの嫉妬が積もるだけ。
わたしはこの時、もう絶対に凪ちゃんを諦めないことを決意した。
そしてわたしは凪ちゃんに告白をした。
凪ちゃんは驚いていた。わたしの告白は断られてしまったけど、わたしはもう諦めない。凪ちゃんが女の子を好きなら、わたしにもまだチャンスはある。
幼なじみでずっと一緒にいたからこそ、凪ちゃんは戸惑うかもしれない。ずっと友達だと思っていた人から急に告白されたらわたしだって戸惑う。
でも幼なじみだからこそわたしは凪ちゃんのいいところを誰よりも知っている。幼なじみだからこそ凪ちゃんのことを支えてあげられる。わたしが凪ちゃんのことを誰よりも好きな自信がある。
あの優しい笑顔も癒されるような声も触れられると安心する手もわたしだけが知っていたい。
凪ちゃん、好きだよ。だから早くわたしを選んで。
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