第10話 動物園
「ねえ、凪。明日一緒に遊びに行こうよ」
暖かい日差しが降り注ぎ、髪の毛を少し揺らすくらいの気持ちの良いそよ風が吹いているお昼休憩の時間。
わたしは中庭で優良とお昼ご飯を食べていた。本来ならここに恋もいるはずだったのだが今日は委員会の仕事があるらしく、二人で中庭に来ていた。
「明日?」
「うん。明日時間ある?」
「明日は──」
わたしは脳内でスケジュール帳を開いて、明日の欄を確認する。明日は土曜日で休みだし、特にこれといってやることはない。宿題はあるけれど、日曜日にやれば問題ないだろう。
「うん、大丈夫。遊びに行けるよ」
「じゃあ決まりね! 明日駅前に集合で!」
「おっけー」
(最近優良と外に遊びに行ってなかったから楽しみだなあ)
この時のわたしはこんなふうにのんきに考えていたけれど、まさかあんなことが起こるなんて考えてもいなかった。
☆
約束の時間の二十分前。さすがに早く着きすぎちゃったかなと思いながら駅の方向へと歩いていく。
「え、優良!?」
するとわたしは優良がすでに駅の前に立っているのを発見する。
「あ、凪。こっちこっち」
優良が手招きをしている。
「ごめん、待たせちゃった!?」
「いや、なんかそわそわしちゃって早く来すぎちゃっただけだよ」
「そっかあ」
わたしはほっと方を撫で下ろす。
「それに凪が待ってる間にナンパされても嫌だし」
「え、ナンパ? あははっ、わたしなんかがナンパされるなんてそんなことあるわけないよ」
優良がナンパされるというのならばみんなうんうんと首が痛くなるくらいに頷くだろうが、わたしがナンパなんてされるはずもないし、過去にされたこともない。
「そんなことあるよ! 凪可愛いんだし!」
「いやいや。それを言うなら優良の方でしょ? わたしなんかより優良の方がよっぽど可愛いと思うけど?」
「いや、凪の方が可愛い!」
「え、絶対優良でしょ」
「凪の方が可愛いったら可愛い!」
「いや、優良!」
誰がどう考えても優良の方が可愛いのに、優良は自分への評価が低すぎる。
「……」
「優良?」
「……ぷっ、あははははは!」
「え、何!?」
優良が急に笑い始めたので、わたしは戸惑いを隠せない。
「なにこの可愛い合戦! はあ、おもしろ。凪って可愛い上に面白いよねえ。そういうところ好き」
「ええ?」
優良の思考がよく理解できなかったわたしは首を横にかしげる。
「あ、やばいそろそろ電車来ちゃうかも。 凪行くよ!」
わたしは首をかしげたまま優良に手を引っ張られて駅の改札を通り、電車に乗り込んだ。
「そう言えば今日ってどこ行くの?」
「着いてからのお楽しみってことにしとこ。たぶん凪の好きな場所だと思うよ」
「そっかあ」
わたしは優良との会話を楽しみつつ、どこに行くんだろうとわくわくしながら電車に揺られ、目的地まで運ばれていった。
「着いた。ここだよ」
「あ! ここって!」
わたしの目の前に現れたのは大きく「どうぶつえん」と書かれた文字とライオンやゾウのイラストだった。
「凪、動物好きでしょ?」
「うん! 好き!」
優良の言う通り、わたしは動物が大好きだ。みんなが嫌がるようなヘビのような爬虫類からカエルまで基本どんな動物も大好きである。その中でも特にウサギのような可愛い系の動物には目がない。
「ずっと行きたいなって思ってたんだ! ありがとう優良!」
動物園には小学生の時以来訪れていなかった。
まだ動物園の中にすら入っていないのに、わたしのテンションは急上昇していた。
「……っ! はあ、ほんと可愛いんだからさあ……」
「え?」
「ううん。なんでもないよ。早く行こ」
「うん!」
わたしたちは入り口で入場券を買って、動物園の中に足を踏み入れる。
「どこから行こっか?」
優良が園内の地図を広げる。
「あ、パンダとかどう?」
「え、ここパンダいるの!? 行きたい!」
パンダがいる動物園は数少なく、珍しいので、パンダを見られると思ったらわたしのテンションはまたさらに上がり始める。
(めっちゃ楽しみ!)
☆
「か、か、か……」
「凪?」
「可愛すぎる~!!」
わたしの目の前には一頭のパンダが寝そべって、こちらを見ている。
丸いフォルムに短い手足、ふわふわの白と黒の毛、クリっとした目。パンダの体全てに可愛いが詰まっている。
この可愛さをわたしの語彙力では伝えきれないことが悔やまれるほど可愛い。
「ふふっ」
「優良?」
「可愛いね」
「うん! すっごい可愛い!」
「どうする? まだパンダ見る?」
「んー。名残惜しいけど次行く!」
「おっけー。じゃあ行こうか」
それからわたしたちはいろいろな動物を見て回った。
迫力満点のライオンにおっとりして可愛いキリン、ゾウにはエサやり体験をさせてもらうことができた。
「はあ、やっぱり動物っていいな~」
「楽しい?」
「すっごい楽しい!」
「良かった。もうすぐお昼だしご飯食べに行こうか?」
「うん!」
わたしたちは動物園内にあるフードコートに向かう。
「な、ななな……」
わたしは動物園の中にあるフードコートにやってきて、わたしたちはハンバーガーを注文した。
「優良! 見てこれ、めっちゃ可愛い!」
ハンバーガーの上のパンの部分がパンダの顔になっていた。
「お、ほんとだ。凪のはパンダになってる。見て、わたしのはコアラ」
「え、すごい! 可愛い!」
「ね」
「うう、でもこんな可愛かったら食べるのがもったいない……」
このハンバーガーのように可愛くデコレーションされたものはいろいろな食べ物に見られる。特にプリンやマカロンのようなスイーツに多かったりする。
わたしはその可愛さに負けて、値段が高くてもついつい手を出してしまうが、崩してしまうのが悲しくて結局いつも心で涙を流しながら食べている。
「あははっ、あるあるだよね。じゃあいただきます」
「いただきまーす……」
わたしは残念に思いながらもむしゃむしゃとハンバーガーを頬張る。味はものすごく美味しかった。
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