第6話 知ってた
──次の日の朝
「ん……」
眩しい。この眩しさはわたしの嫌いな朝の光だ。昨日はあまり眠れなかったせいか全く目を開ける気にならない。
夜寝る前に布団の中でいろいろと考えたがなんとか自分の中で整理はすることができたと思う。
二人がわたしに告白してきたことは事実。理解こそはできないもののそこはなんとか受け入れることはできた。
しかし、これから今までのように二人と接することができるかが不安だった。その不安のせいで眠れなかったというわけだ。
「眠い…… 学校行きたくない……」
眠さと二人に会うきまずさがわたしをベッドの上に留まらせる。
「はあ、今日はもう休んじゃおっかなあ……」
「えー、ダメだよ凪ちゃん」
(……ん?)
どこからか恋の声が聞こえた。なぜかいつもよりもわたしを呼ぶ恋の声が大きく聞こえる。わたしは変だなと思いながら頑張ってゆっくりと目を開ける。
「え?」
(ど、どういう状況?)
目を開けたわたしの前に急に可愛い顔が現れた。その顔はわたしを見て幸せそうに微笑んでいる。
わたしはごしごしと目をこする。
なんと恋がわたしの隣で一緒に横になっているのだ。わたしは驚きを隠せず、重い腰が嘘かのように飛び起きる。
「な、何してるの!?」
「何って凪ちゃんの可愛い寝顔を近くで見てただけだよ?」
「な、何言って……!」
「あー照れてる!可愛いー!」
「なっ!?」
「やっぱりこのまま学校行かなくてもいいかなあ」
「だ、ダメなんでしょ!早く支度したいから下で待ってて!」
「はーい」
自分でも驚くほどに心がドキドキとしていた。わたしは今の恋の様子を見て、改めて昨日告白されたことを実感した。
「はあ、どうしようこれから。わたしの心臓もつかな……」
わたしは足取り重く朝の支度を始めた。なんだかいつもよりも倍の時間がかかった気がする。
「おまたせー……」
「うん!行こっか?」
「はーい……」
わたしがリビングから出て玄関に向かって歩いていると、柔らかい感触がわたしの片腕を包み込む。
「れ、恋!何して!」
「へへへ、今日からは我慢しなくていいんだもんねー。それとも凪ちゃんは嫌?」
「い、嫌ってわけじゃ……」
実際嫌という感情は一切湧き上がらなかった。なにより恋の幸せそうな表情を見て、やめてなんて冷たくあしらうことはわたしにはできない。
腕を組むくらい恋は前からやっていたはずなのに、どうしてこんなに動揺してしまうのだろうか。
やはりわたしの心臓は一日ももたないかもしれない。
「じゃあいいよね!」
わたしは腕に抱きつかれた状態のまま、学校に行くことになってしまった。そしてそれは学校についても変わらないどころかさらに進化していた。
「恋……」
わたしは腕を組まれるどころかなぜか恋の膝の上に座らされ、ずっと抱きしめられているのだ。朝、このような状態になるのは初めてだ。
しかも力が強くて逃げられない。この細い腕のどこにそんな力が隠されているのだろうか。
「どうしたの?」
「いや、この状態恥ずかしいんだけど……」
「大丈夫大丈夫! 女の子同士そんな不自然なことじゃないし、誰も見てないよ」
(それはそうなのかもしれないけど!それでも気にしちゃうじゃん!)
「うわっ!」
わたしがどうやって恋の手から逃れようかなと考えていると、わたしは横から強い力で何かに引っ張られた。
「何してんの、恋?」
「あー!何するの優良ちゃん!」
わたしは気づくと優良に後ろからふわっと軽く抱きつかれていた。
「凪、おはよ」
「あ、うん、おはよう」
そう言って優良はにこっと微笑んだ。わたしはその微笑みに思わずドキッとしてしまう。
「優良ちゃん!凪ちゃんとらないでよ!」
「いいじゃん。恋は凪と同じクラスなんだから有利でしょ?」
「うー!き、昨日先に告白させてあげたでしょ!?」
「それは恋がわたしにじゃんけんで負けたからじゃん」
二人とも不服そうな顔で睨み合っていた。わたしはそれを呆然と眺めていることしかできなかった。
(え、でもちょっと待って。先に告白させてあげた?)
わたしはその言葉に引っかかり、なんとか二人の間に入って話を切り出す。
「ちょ、ちょっと待って。二人とも、昨日のこと知ってるの?」
「昨日のこと?恋が凪に告白したこと?」
「え、なんで知ってるの!?」
「なんでって言われてもお互いずっと凪のこと好きだったし」
「え!?」
「そんなことよりさ、凪はわたしと恋のどっちの方が好き?」
「え……?」
「もちろんわたしだよね、凪ちゃん?」
「何言ってるの、恋。わたしに決まってるじゃん。で、凪。どっち?」
(え、いや、どっちとか急にそんなこと言われても……)
わたしの中で二人に優劣は全くない。どちらも良いところしかないし、大切なわたしの幼なじみだ。
「……ちも……き」
「え?」
「ど、どっちも好き……だから……///」
わたしはぎゅっと目をつむって小さな声で呟く。
二人がわたしのことを好きという事実と今のこの状況がわたしの心臓の鼓動を加速させる。今まですんなりと言えていたはずの「好き」という単語を発することがものすごく恥ずかしかった。
「「…………」」
二人が何も言わないのを不思議に思ってわたしは恐る恐る目を開ける。
「ふ、二人とも?」
「はあ、凪ってほんと自覚ないんだからさあ……」
「ううー、凪ちゃん!」
「え、ええ?」
今の場面に何か変なところがあっただろうか。優良は両手で顔を抑え、恋はピョンピョンとその場で飛び跳ねていた。
「はあ、ちょっと朝からヤバいよ」
「ほんとだよ!凪ちゃんってばもう!」
(え、何が?二人とも何言ってるの?)
わたしたちがそんな話をしていると予鈴のチャイムが鳴り始めた。もうすぐ朝のHRが始まってしまう。
「はあ、わたしもう行かなきゃ。恋、わたしがいないからって抜け駆けしないでよ?」
「………………はーい」
「その溜め方は絶対するやつじゃん。はあ、じゃあわたし行くから。またね、凪!」
「う、うん」
「じゃあわたしたちも教室戻ろっか、凪ちゃん」
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