第14話

 どのあたりまで来たのかはわからないが、半時ほど経ってようやく馬車が止まった。


「上手くいきやしたぜ」

「そうか。ご苦労だった」

 男たちが誰かと話している。

 声を聞く限りでは初老の男性といったところか。


「お嬢さんが重くてまいりましたよ」

「……重いとは?」

「だから、体がゴツくて担ぐのが大変だったんですって!」

「待て! どういうことだ!」

 戸惑う声が聞こえたと同時に幌が乱暴に開けられた。


 木箱の陰からそっと顔を出して窺ったが、光が眩しくて首謀者の顔がよく見えない。

「一体誰を……っ! 何だこの山のような巨体は!」


「うるせえですわっ!!」

 ムシロが翻る。

「さっきから聞いていれば、ゴツいだの巨体だの、レディに失礼だろうがですの! 俺に喧嘩をお売りになるだなんておととい来やがれですのよ!」

 巨体がダイブし、荷台がガタンと大きく揺れた。


 いやいや、何ですかその口調は。


 やれやれと思いながら立ち上がり荷台の外を見ると、マリエル様が地面に倒れているひとりの胸を踏んづけ、残りのふたりの胸倉をつかんで持ち上げていた。

 つかまれているうちのひとり、初老の男の顔に見覚えがある。


 男たちは血の気を失った顔でブルブル震えていた。

 いろんな意味でさぞや怖いに違いない。

 さらったライラ様が暴れたときのために用意していたのだろうか、荷台で見つけたロープを拝借して3人の男の両手を手早く後ろ手に縛りあげる。

 次いで両脚も縛り、荷台に放り込んだ。


 ぐるりとあたりを見回して、ここが麓の街と隣街をつなぐ街道から少し脇道にそれた野原であることを確認した。

 ほかに賊の仲間はいないようだ。

 振り返ると、荷台に一緒に乗りこんだマリエル様が男たちに奇妙なオネエ言葉でこんこんと説教を続けている。


「人さらいは重罪だって知らねえのかですわっ! 逃がしゃしねえから覚悟しやがれですの!」


 だから、いつまでそんな口調なんですか!

 呆れるやら笑えてくるやらで口元を緩ませながら御者台に乗る。


 麓の街へ引き返すべく馬を走らせ始めてすぐに、我々を追ってきた騎馬隊と合流した。

「首尾よく賊は拘束して荷台で隊長が見張っています。あ、中は覗かないほうがいいですよ、いろんな意味で怖いので」

 その忠告に、騎馬隊の隊員たちは意味がよくわからないといった様子で首を傾げていたのだった。

 

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