第13話
しばらく待っていると店に面した部分の幌が開けられ、ドサっと音がしたと同時に荷台が大きく揺れた。
はあっというため息が聞こえる。
「重かった。何だよ、本当にこの娘で合ってんのか?」
「でもたしかに何度も『ライラ様』って呼ばれてただろ。しかも銀髪だし」
「体はゴリラじゃねーか! こんなご令嬢いるのか?」
「俺だって知らねえよ。ライラっていう銀髪の娘が試着室に入ったら連れ出せとしか聞いてねえし」
男ふたりのヒソヒソ声が聞こえる。
「つーか、この大きさだと木箱に入れられねえじゃねーか」
「ムシロをかぶせておくしかねえな」
思わずククッと笑いそうになって慌てて口を押える。
「とにかく気づかれる前にずらかろうぜ」
「そうだな、ここで目を覚まして騒がれると面倒だ」
男たちは荷台から降りて御者台へと回りった。
馬車がゆっくりと動き出す。
おそらく試着室の鏡の裏から手を伸ばし、即効性の催眠薬を含ませた布で口を塞いだのだろう。
その程度で眠るような我が主ではない、眠っているフリをしているだけだと思われる。
音を立てないようにそっと木箱から出て、ムシロをかぶせられている巨体に近づいた。
「マリエル様?」
静かに声をかけると、ムシロから銀髪が出てきた。
幌の隙間から入る薄明りの中でその顔を見て思わず息を呑んだ。
トーニャが化粧を施したのだろうか。
その顔は、ダイアナ様にそっくりだったのだ。
銀髪と顔だけ見れば、女性に見えなくもない。
ただし体がゴツすぎる。
荷台に持ち上げるのがさぞや大変だっただろうと、さっきの男たちに思わず同情してしまった。
その時、馬車がスピードを緩めて止まった。
街の入り口にある門に到着したのだろう。
幌から片手をそっと出し合図を送った。
マリエル様は再びムシロをかぶせ直し、自分も木箱の陰に隠れる。
「積み荷は何ですか?」
「パール服飾店からの荷物です。領収書もあります」
外で門番とやり取りしている男たちの声が聞こえる。
「ご苦労様。お気をつけて!」
「あいよ」
再び馬車が動き始める。
しばらく進んだところで男たちが御者台ではしゃぐ声が聞こえた。
「なあんだ、検問とかいうからビビったら中の確認もしなかったな!」
「チョロかったなー」
チョロいのはおまえらのほうだ。
街から出る馬車は全て荷物の中身をよく点検するよう言いつけてある。
この幌馬車がスルーされたのは、手で合図を送ったためだ。
いま頃、パール服飾店の店主は騎士に取り囲まれていることだろう。
あとはこの馬車の行き先に首謀者が待ち受けているのか、それともさらに馬車を替えてかなり遠くまで運ばれてしまうのか。
いずれにせよ御者台に乗っている男たちを逃がしはしない。
モンザーク辺境伯家の領内で悪事を働こうとしたことをせいぜい後悔させてやるからな。
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