クリスマス 1
あれから数週間、僕たちはいろんなところを巡った。
学校やらなんやら。関連がありそうな場所全て回った。それでも、リンザキの記憶が戻ることはなかった。
まあ、普通はそうだろう。そして僕自身、そんなに簡単に戻るわけはないだろうと思ってしまっていた。達観してしまっていた。
しかしそれよりも気になっていたのはカテツのことだった。
表情から見るに、カテツはリンザキの記憶が戻らないことに相当焦っているようだ。あの性格なら絶対に諦めたりはしないだろうが、リンザキを一番に思っているからこそ、そういう気持ちになるのだろう。
だからというわけでは無いが、ちょっと息抜きをしようかと僕は考えた。
そして僕たちはクリスマスイブに駅の近くのモールに、三人でショッピングしに行くことになった。
今日は12月21日、街はクリスマスムード。全国、全世界のカップルが浮かれ気分になるこの一週間。
「カテツ?元気?」
「ずっとこんな感じなの」
カテツの代わりにリンザキが答えた。
「俺は大丈夫だよ?」
そうは言ったものの、また下を向いて険しい顔になってしまった
「ま、まあ。早速行こうか」
モールの中は人でごったがえしていた。円満そうなカップルに、駆け込むお父さんサンタたち。ここぞとばかりに賑やかなケーキ屋。みんな生気に満ちていた。
「どこも賑わってるねぇ」
「そうだな…」
「あ、私あの洋服屋行ってみたい」
リンザキが言い出したので、みんなで行ってみることになった。
* * *
「色々買ったね」
「そうだね」
これは本当のことで、いつの間にかカテツの両手が色々なロゴの書かれた紙袋でいっぱいになっていた。
「ショップとかの知識は覚えてたの?」
「ううん。覚えてきた」
「俺も一緒に覚えた」
たしかに、カテツも読みにくいゴロとかもすらすらと答えてたし、納得できた。
「そろそろお昼にしようか」
「何食べるー?」
リンザキとカテツが言い出した。
「甘い系?旨い系?」
「旨い系なんて初めて聞いたぞ」
「そう?」
「たしかにね」
結局近くのパンケーキ店にした。蜂蜜がたくさんかかっていることで有名で、インスタグラムで流行っているらしく客の出入りが激しかった。少し並んだものの、そんなに待たずに僕達は入店した。
四人席に通され、奥側のソファ席に僕、その向かい側の椅子席にリンザキとカテツ。僕の真正面がカテツとなった。
バニラが乗った3枚重ねのパンケーキ。蜂蜜とホカホカのパンの匂いが混じった甘ったるいモノ。うちのお母さんが嫌がりそうな感じ。
「おいしいね」
「ふふっ。カロリーもたかそう」
「気にしないっ!」
右斜め前のリンザキに突然なにか覆いかぶさったかと思いきや、大きな声がした。
「ウエリナさん!?なんで?」
ウエリナという人物は、リンザキに後ろから抱きついていた。
「どちら様ですか?」
どこかで見たことがあるが思い出せない。ただすごく勢いがある人だと感じた。コイデと正反対だ。
「こんにちは!あなたがオオシタ君ね!話は聞いているわ!」
「私はウエリナよ!赤崎高校で生徒会長を務めている者。よろしくね!!」
「ああ、はじめまして。僕はオオシタです。播谷総合高校に通っています。」
初めて記憶巡りしたときに赤崎高校の前で見かけた人だとやっと気づいた。
「ウエリナさんもお出かけ?」
「そうよユイちゃん。生徒会長も女の子なのよ!」
「知ってますよウエさん?」
カテツがくすりと笑いながら言う。
パンケーキを食べ終わって店を出ると、近くのベンチにウエリナさんが座っていた。
「一人でお買い物に来たわけではないですよね?」
カテツが聞く。
「友達と来たんだけど、もともと午前中までだったから」
「じゃあ午後は一緒に周れる?」
「ユイちゃんナイス!!」
「やった!」
「じゃ、女子グループと男子グループで分かれますか」
カテツが言う
「りょーかい」
「いいね」
「どこに行こうかユイちゃん」
皆それぞれの返答をする。
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