私のこと
「ユイ!! ご飯よ!!降りてきて」
母に呼ばれて私は、階段を降りリビングに向かう。
リビングでは、すでに父がテーブルをセッティングしていた。
「おはようユイ、調子はどう?違和感はないか」
「うん、大丈夫だよ。おと…」
「無理して呼ばなくてもいいぞ」
「ありがとう」
「「「いただきます」」」
白米とわかめ入りの味噌汁。それらを食べながら、私は考える。
私は二ヶ月前に記憶喪失になった。いや、記憶喪失に『なったらしい』のほうが感じ方としては正しいのかもしれない。
なぜって、起きたら何も分からないまま急に自分の父親と母親を紹介され、大丈夫?と聞かれる。あなたは、その二人が本当に親だと信じられるだろうか...
少なくとも私は信じられない。
だから本当は記憶喪失になったかすらも、分からない。もしかしたらそれは全部嘘で、なにかの実験とかに巻き込まれているのかもしれない。となりに座っているお父さんも、全然関係のない人かもしれない。雇われのカネ目当ての売れない俳優とか。
そう考えると、最初は怖かった。「悩み事があったら相談してね」と母にも言われたが、難しかった。
それでも、唯一信じることができたのは、昔の私にいたという彼氏だった。
カテツという名前で、目覚めたその日に入院していた部屋に駆け込んできて、そのままベットの傍らで号泣された。
夜も遅かったのにわざわざやってきて、少し戸惑ってしまったのも覚えている。
さらに次の日もやってきて、私と彼の関係を初めてあったときから話してくれた。不思議なことに、母や父のことを聞いても信じることができなかったのに、彼の話を聞いていてもなにも違和感を感じなかった。体の中にすっと入ってくる感じがあった。
生まれる前から出会うことが決まっていたと言ったら大げさかもしれないが、本当にそんなような気がして、この人なら大丈夫だと思った。
いわゆる、依存、というものかもしれない。彼に頼りすぎるのもよくないが、なにかと助けてもらっていた。別に自分はそれでも構わなかった。
「ユイ、今日もカテツ君と一緒に帰ってらっしゃい。」
「うん、わかった。」
両親も、案外カテツ君に頼っているのかもしれない。
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