記憶巡り・序
頭上から清々しい光が差し込む朝。オオシタは布団をはぎ、そのまま携帯を確認する。日付は11月27日、土曜日。すなわち、リンザキたちとの記憶巡りの日だ。
とはいえ、学校があるので支度をしなければならなかった。
制服に着替え、朝ごはんを食べ家を出る。空は快晴で、少し寒いくらいだった。リンザキが事故にあってしまった日の朝もこんな感じだったのだろうか。そんな事を考えながら僕はバス停へと向かった。
携帯のアラームでカテツは目が覚める。5時ちょうど。今日も無事起きられたことに安堵すると同時に、感謝する。別に何かを信仰しているわけではないが、リンザキが事故にあって以来、毎日が平穏に生きれることのありがたさを意識するようになった。
まだ覚醒しない頭を支えながらリビングに向かう。水を一杯飲み、また部屋に戻って散歩の支度をする。
散歩は小学生からの日課で、もともとは飼っていたポメラニアンのためだった。そのポメラニアンが死んでしまってからも悲しみを紛らわせるために毎朝続けていたら、なぜか高校生になった今でも続いている。
いつも見かけるこの時間帯の常連さんたちに会釈をしながら、決まったコースを行く。そういえば今日がリンザキとカテツとの記憶巡りの日だったと思い出した。
生徒会の仕事を早く切り上げなければ。
* * *
午後4時45分 赤崎高校前
約束の15分前についたオオシタは、防寒着を着込んで高校の前の警備のおじさんと談話していた。最近の悩みは、娘がもう29歳になるというのになかなか結婚しないことらしい。
カテツとリンザキがやってきたのは4時55分で、3人ぐらいの人に混じって、高校の中から出てきた。いかにも真面目そうな人たちで、僕にはあまり縁のなさそうな感じ。
なにか気に入らない。何でかわからないけど。
その人たちと別れてから、カテツとリンザキたちがこちらに向かってきた。
「ようオオシタ」
「久しぶりだねカテツ。リンザキさんも」
「オオシタ?さんだっけ。こんにちは」
何も変わりがないようで安心した僕は本題に入った。
「さっそく始める?」
「そうだね」
カテツはそう言うと、スマホを取り出してなにかの写真を見せてくれた。
「なにこれ」
「事故当時の書類、警察の人に見せてもらったもの」
「ねえカテツ。これ、撮影してよかったの?」
「犯罪まがいのことだけど内緒だよリンザキ」
前からカテツは熱心なやつだとは思っていたが、まさかそこまでするとは…
「とにかく、ここに書いてある通りに行動してみよう。リンザキ、なにか思い出したらすぐに言って」
「わかった」
「うん」
写真を確認しながらリンザキの家へ向かって歩く。途中止まりながら、少しずつ確認していく。しかしまあ、そんな簡単に行くわけがなく…
そうこうして歩いていくうちに事故現場についた。
「リンザキ、どう?」
カテツが問う
「何も思い出せないし、何も感じない」
「…そんなにすぐは思い出せないと思うよ、カテツ」
「そうかぁ〜」
「あ、花」
僕は気づいた。だいぶ干からびているように見える。
「前からあるよ?」
「そ。死んだわけでもないのに。最低だよな」
「でも、なんか白い花ばかりだよね」
「そう?」
「たしかに…気にしなくても良いだろ」
「まあ…ね」
「よく見たらスノードロップもあるじゃん。この地域じゃあんまり見ないのに」
「へぇ。これ、そんな名前なんだ。可愛い名前」
リンザキが笑った。
そういえばこんな笑い方するやつだったな。と、懐かしく思う。少し控えめな、それでいてみんなを元気にするような、そんな笑い方。
結局その日は何もわからずじまいでリンザキの家に着いてしまったので、そのまま解散となった。
携帯は6時を表示していた。
収穫はなかったが、それなりに意味はあったと思う。次が楽しみになってきた。
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