間接
制服に身を包んで家を出る。昼間の喧騒を感じさせない早朝の雰囲気が僕は好きだ。
バス停までの道にある公園のいちょうの木は黄色くなった葉を順々に落としている。12月に入って芝生にも霜が降り始め、踏みしめるとシャリシャリなるようになり、五感で冬の訪れを感じられるいい朝だった。
ああ、このまま散歩という名目で帰れたらどんなに良いだろうか...
バスと電車を乗り継いで、自分の通う中高一貫の高校に着く。
都会の真ん中に重鎮するようなその学校は、近年、その最先端な授業が人気になり、入学生が続々と増えていた。
まあ、オオシタにはそんなこと全く関係がなかったが。
校門で専用のモバイルをタッチして教室に向かう。色んな人とすれ違うが、誰にもおはようとは言わない。言うような友達もいない。先生とすれ違ったとしても会釈だけ。そういう学校生活をひたすら送る。
学校は憂鬱だ。あってもなくても変わらない。
現実はそんなに簡単ではないのに、自分の中の素直な自分が家に帰ろうと駄々をこねた子供のように言っている。
それでも、初恋の人と再会できたことは大きいようで、昨日までとは幾分気持ちも楽になっていた。
「おはようオオシタぁ」
「おはようコイデ」
教室に入り自分の席につくと、前の席に座っていたコイデが話しかけてきた。ワイシャツの上に学校指定の灰色のネクタイをゆるくし、青いパーカーを羽織っている。風紀委員に注意されないか心配だが、されているところは見たことがない。すでに委員会から諦められているという噂を聞いたことがあったような…
ダウナー系でやる気がなさげな性格は第一印象から感じていたが、意外と優しい面もあり、他の男子から人気があるらしい。まあ当の本人は全く気づいていないようだが...
と、思っていたらコイデはふらふらとどこかへ行ってしまった。
お弁当何にしようかなといろいろ考えていると、いつの間にか朝のホームルームが終わり、一時間目が始まろうとしていた。タブレット型の機器一台で授業ができるのだから便利なもので、授業準備なんぞ必要がない。そりゃ学校の人気も上がるわけだ。
一時間目は道徳だった。
最近未成年が巻き込まれる事件が多発しているそうで注意するのと同時に、対策とか、未然に防ぐための方法とかを、あまり見たことのない60代くらいのおばちゃんが伝えていた。
とにかく面倒くさいものだった。自分には関係のないものだし、この日本で犯罪に巻き込まれるなんてそうそうないだろう。
窓の外は澄んだ青色が広がっている。どこまでもいけそうな、限りなく端にたどり着けなさそうな、自由が大きななにかで包み込んでくれそうな、そんな空だった。
気づいたら一時間目が終わっていて、目の前にコイデがいた。
「だいぶ寝てたね」
「…そうか」
「次は小テストらしいよ。抜き打ちで」
「死んだほうがいい」
「美しくないよオオシタ。下品。」
「あっそ」
こんなつまらない生活なんていますぐ終わりにしたい。
そう思いながら僕は解けそうにもない小テストと格闘していた。
6時間目が終わってすぐ、カテツは保健室にいるリンザキのところへ向かう。ドアを開けるとイスにリンザキが座っていた。満面の笑みを浮かべている、楽しそうで、少しホッとした。保健室の先生に礼を言い、リンザキを連れて生徒会室へ向かう。どうだった?と聞くと、ずっと先生とお話してたよ、と返ってきた。
生徒会室のドアを開けると、生徒会長であるウエリナがすでに机についていた。
「こんにちはー」
「あら、こんにちは。リンザキさんもいらっしゃい。」
「あ、ウエさん」
ウエリナさんは赤崎高校初の女性生徒会長で、選挙では他の三人を大差で抜いて圧勝したことで校内で一躍有名になった人だ。容姿端麗な人で、温厚な性格でありながらズバッと物を言う。一度見たら忘れられないほどインパクトがあり、ファンクラブまであるという噂を聞いたことはあるが真実はわからない。
かくいうカテツも成績が良いという理由で生徒会から直接引き抜かれたこともあり、自分の他にも何人かそういう人がいたので、なかなかのやり手だなと感じていた。
「リンザキさんの記憶はまだ戻りそうにないの?」
「すぐには…」
「まあ、そうよね」
「あたしが昔読んだ記憶喪失の本は結局最後に記憶は戻ったんだけど、何で戻ったかは忘れちゃったな」
「そう…ですか…」
「まあ、いつかはもどるわ。諦めないことよ!それより、カテツくんまだ仕事残ってるでしょ?」
「あっ、そうでした」
「リンザキさんもゆっくりしてていいよ」
「はい」
本当は生徒会の仕事が終わるまでリンザキを保健室に頼んでもいいし、先生にもどう?と言われたのだが、流石に一日中お願いするわけにはいかないとリンザキの両親から言われたので、こうして放課後は生徒会室に連れてきている。まあ、リンザキと居れる時間が長くなるので喜んで受け入れたが…
週末から初めての記憶巡りが始まる。
リンザキの記憶を取り戻すため、カテツは奮闘していくのだった。
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